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出典が明記してある箇所を除き、著作権は、筋書き担当のサングラス。

2019/5/27

旁らに小さな石仏  貝殻これくしょん

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 北鎌倉から尾根越えの細道を鎌倉駅に向かって登っているときのことだ。

 北向きの陽当たりの悪い道筋の旁らに小さな石仏を見つけた。すっかり苔むした凝灰岩の上に佇んでおられた。

 写真を一枚。

 帰宅後、ディスプレイに映し出されたお姿を見て初めて気付いた ----- それが、乳飲み子を抱えた観音菩薩だということに...。

 古来、観音菩薩は、救いを求めてくる様々な人々に合わせ、三十三種に姿を変えるという。
 乳飲み子を抱えた観音菩薩を祀った人の思いは、如何ばかりのものだったか。




【Portrait / How Deep is Your Love】


 

2019/5/26

遅く起きた日曜日  きみがいる時間

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 フランスの『クロック・ムッシュ /Croque-monsieur/カリカリ紳士』や『クロック・マダム/Croque-madame/カリカリ淑女』、イングランドの『ウェールズの兎 /Welsh Rabbit』など、ヨーロッパ各地に伝わる、いわゆるチーズトーストには、それぞれに伝統的で奇妙な名前を持つものが少なくない。

 遅く起きた日曜日。

 前夜、飲み過ぎていない限り、ぼくがブランチを作る。
 なにを食べたいかイチ子に聞けば、今朝はいらないと言うか、あるいは『クロック・マダム』がいいと答えるのが常だ。それは、目玉焼きを乗せる手間が多い分、ぼくにはいくらか面倒なのだが、彼女にとっては、それ以外の朝のメニューはうろ覚えで、どうやら即答しづらいというのが真相のようであった。




【Yoshiaki Masuo / Because Of You】


 

2019/5/25

遅い猫の足取りで...  きみがいる時間

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 昔、横浜で買ったのだとイチ子が言う。
 その仔たちを見ていたらサンドバーグの詩の一節を思い出したと言うと、彼女は遮るように、
「『霧が来る、遅い猫の足取りで...』って言うやつでしょ」
 正解だった。いったい、どんな読書体験をしているんだろう。またひとつ謎が増えた。




【Bread / Make it with you】


 

2019/5/24


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 旅の朝。
 凪の海が見える。

 昨夜、ベッドで、コクトーの『ポトマック』を読み耽った。




【Crystal Gayle / Someday Soon】


 

2019/5/23


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 「Tide (潮流)!」思わず口をついて出た。

 いったい誰の詩句だったろう。
 キーツかイェイツか、まさかディラン・トマスじゃあるまい...。

 Seas run high in the dog days.
 Enough to tide me over now.

 あやふやながら、部分の二行がどうにか頭に浮かぶ。

 the dog days ----- いくつかの場面を伴って思い出される、なつかしい言葉。




【The Byrds / My Back Pages】


 

2019/5/22


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 部屋の本棚を整理していた。

 偶然、高校生の頃に使っていた世界史教科書の頁の間から、写真を一枚見つける。
 いつ挟み込んだものか記憶にはないけれど、それが撮られた場所は思い出せた。そして、その日のことも、そして、シャッターを切った人のことも...。




【Bill LaBounty / Look Who's Lonely Now】


 

2019/5/21

おはよう、夜明けの星明かり  幕間の出来事

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 昔の映画やテレビに出てくる西海岸のサーファー達が乗るような格好良いピックアップ・トラックにはついぞ手が届かず、四苦八苦の挙げ句、ようやく12万円で買った中古の軽トラックにロング・ボードを乗せると、彼は、今朝も夜明け前から波乗りに行ってしまった。

 今頃は七里ヶ浜? 森戸?




【Good Morning Starshine】


 

2019/5/20

また、お話ししましょう  きみがいる時間

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 久し振りに手書きの便りが届く。

 インドネシアのとある小島の、一日四組しか宿泊客を取らないホテルへの取材旅行なんだとか...。

『印度文化圏とは言っても、カレーがチョット違う ----- と教えられたので、早速試しました。ココナッツミルクがふんだんに使われていてビックリ。
 ところで、同行したカメラウーマンのサトコさんは日露のクォーター。おばあさま譲りのエキゾチックなお顔立ちです。お顔を拝みたいとあなたが言うと思って、インスタント・プリントを同封す。お互いに撮り合ったときのものなので、顔がちゃんと映ってませんが...w。
 なお、わたし達は、この手紙より先に東京へ戻ります。
 では、また、お会いしましょう。また、お話ししましょう。』




【P. F. Sloan / From A Distance】


 

2019/5/19

なつかしく留まっているだろうか  装う想い

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 河川敷の草刈りを眺めていた ----- 辺りに夏草の匂いが漂う。
 北の大地のサイロに積まれる牧草もまたこんな匂いなんだろうか。

 田園育ちなら稲藁積みの、
 山育ちなら森木立の、
 海育ちなら潮風の、
 街育ちなら雑踏の、

 それぞれのそんな匂いは、この先、何十歳も年を取ってからも尚、まだ思い出の中になつかしく留まっているだろうか。




【Gloria Estefan / Hold Me, Thrill Me, Kiss Me】


 

2019/5/18

好きなことしか書かない  貝殻これくしょん

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 好きなことしか書かない。

 だから、書くことを仕事にはしないし、義務にもしない。

 書く楽しさを感じ、無理して書かなくてもいい喜びを知ること。




【The Kingston Trio / I'm Going Home】


 

2019/5/17

不器用であったが故に  車窓に開く頁

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 鮨屋のネタ皿に春子(かすご・・・真鯛または血鯛の幼魚)が並ぶ頃ともなると、吹き抜ける風は、ビルの谷間の、芽吹きたての街路樹の小枝をもまた震わせて参ります。

 ところで、ある年の今日この頃のこと。
 額縁づくり ----- それが自分の仕事だという、甘く切ない花の香りのするその人は、古風で小さな自作の額を、出会った記念にとひとつ贈ってくれました。それに飾るにふさわしい絵画など持ち合わせるはずもないぼくのために、その人は、自らアクリル絵具で描いた板絵一枚を添えて...。実物をだいぶデフォルメしたものなのか、はたまた絵描きとしては不器用なのか、拙い川魚の絵 ----- パアチとブラウン・トラウトが一尾ずつ...。

 そしてその後、残されたのは、額縁と長くは続くことのなかった恋の思い出がひとつ ----- 結局、その魚の絵同様、その人は恋についてもまた、大層不器用ではあったのでしたが...。




【The Hollyridge Strings / Candy Girl】


 

2019/5/16

ぼくには塩っぱい  車窓に開く頁

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 痩身で身長190センチ以上はあろうというジョン・トーマスは、1960年代後半のベトナム戦争に従軍、復員後、ストレスから体重がとても増えたという。その後、その後遺症からか今度は逆に痩せたりもしたと話す。年齢を考えれば、アメリカ人としては今でも見事なほど細い肉体を維持しているわけだが、今の体形は、ここ十数年年季の入った菜食主義のお陰だと本人は説明する。しかし、いくら菜食主義者とはいえ、ドレッシングも何もなしに野菜を食べるので、塩分の他、ビタミン・無機元素など微量元素をどうやって摂取しているのかと尋ねたことがある。
「ん〜、野菜だけね、食べていればね、塩など、たぶん、生きていくのに必要なだけは摂取できるんだ、と思う...」というのが彼の答えだった。それを裏付けるかように、ぼくがたまに夕食に招待したときなど、
"This one is salty for me" などと料理によっては言われたものだ。特にMiso soup ----- 味噌汁には手を付けようともしなかった。
 彼ジョン・トーマスは、口数少なく、気味の悪いほど足音を立てずにゆっくり歩き、水と野菜だけの食事ですべてを足らしていることだけで、病気とは言わないまでも、充分に変人の類であろう。

 ぼくが彼を知ったのは、彼と共通の友人 ----- ジョンとは大学の同窓だという ----- ドイツ系のシュトックハウゼンという男の出版記念パーティーだった。そのとき、ぼくもジョンもリトル・トーキョーの全米日系人博物館の近くの古い ----- 家賃の安い ----- アパートメント地区に住んでいることをお互いに知り、一緒に帰ってきたとき以来の付き合いである。

 大分前から、彼はニューヨーカーやハーパーズに小さな記事を寄稿していたらしく、それも最近は何やら大人しいと思ったら、大作を手がけているようだった。
 パソコンを持たない彼は、ロング・ハンドで初稿を書き、タイプライターを雨垂れのように下手くそに打って原稿を仕上げる。

                    

 窓を開けると、先週から始まった『二世週祭』のパレードのマーチが聞こえてきた。




【Albert Hammond / It Never Rains In Southern California】


 

2019/5/15

カムーン (ありがとう)  装う想い

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 夏至の日のことだ。

 ハノイから車で二時間ほどの村でエンジンを止める。ちょうど、駄菓子や飲み物を売る屋台をロードサイドに見つけたからだ。

「シンチャオ (こんにちは)」と店番の髪の短い、小学三年生くらいの少女が陽気に声をかけてくる。

 言葉はわからないが、買い物は指差すだけで事が足りて気安い。
 日本の煎餅よりも薄くて大きい米菓子とパパイアジュースを買って、
「キムラン...」と目差す村の名を言うと、少女は察して、今来た道のその先を指差す。どうやら道に迷ってはいないようだ。

 遙々旅して来たベトナム。
 観光バスには乗る気にもならず、レンタカーでこんな田舎までやって来てしまった ----- この先の村で十三世紀頃の古い陶磁器の窯跡が発掘されたと聞いていたからだ。

「カムーン (ありがとう)」と少女と互いに声を掛け合って別れるまでのわずかな時間が、もしかすると、この旅の最も印象深い出来事になるかもしれないと、わたしは俄に思いはじめているのだった。




【Jay And The Americans / This Magic Moment】


 

2019/5/14

すみません、年を取ったもので...  きみがいる時間

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「そういうのを『取り越し苦労』って言うのよ」




【Robbie Dupree / Steal Away】


 

2019/5/13

新しい服に着替えるように  きみがいる時間

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 高台を離れ、ぼく達が長い坂道を四ッ谷駅へと降っていったときのことだ。

「男と女って、お互いに相手に対してひとつの理想を追い続けると関係が長続きしない、みたいなことをこの間どこかで読んだけど、聞いたことある?」とイチ子。
「覚えがないなぁ。で、どうすればいいの?」
「それはね、新しい服に着替えるように、いつも理想を新しいものに取り替えていくといいんですって」
「なるほど、そうすれば、いつも新鮮でいられるっていう訳だね」

 目の前の高架橋を電車が西日を受けて通過していく。

「ねぇ、あたし達って、知らないうちにそうしてるのかしら...」




【The Spencer Davis Group / Gimme Some Lovin'】


 



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