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出典が明記してある箇所を除き、著作権は、筋書き担当のサングラス。

2018/11/11

砂糖飽和状態のラム酒  きみがいる時間

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 キリンビールやサッポロビールなどの白文字が刷り込まれた、居酒屋用宣伝コップ程の大きさのコップにラム酒をドボドボっと入れ、あろう事か、そこにカレーライスのスプーンで山盛り一杯の白砂糖を投入(二杯入れる輩もいないことはないらしい)、多少はかき混ぜるが、確実に飽和状態だから底に大層な沈殿ができる。そういうものを何十年にもわたって飲み続けるから、カリブ海の島々の酒飲みは、虫歯で、中高年までにはほとんどの歯を失う。どうして歯の治療をしないのかというと、そういう金があれば、再び又、砂糖飽和状態のラム酒を飲んでしまうからだとか。

 さて、フロリダ経由で、そんなラム酒を赤道近くのカリブの海に浮かぶ、どこぞの(恐らくフランス領の)島で飲もうと約束したのはいいけれど、水口イチ子は、約束の時間を過ぎても未だ成田に姿を見せようとはしない。まさか、忘れてはいないと思うのだが...。
 イチ子には小学生の頃から結構待ちぼうけを食わされた。その頃と今と違うのは、地元の私鉄駅か成田国際空港かの違いだが、この差は笑っていられない。




【Harmony Grass / Happiness Is Toy-Shaped】


 

2018/11/8

昨日、デュッセルドルフで...  きみがいる時間

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「丸の内じゃいつも売り切れよ。いったい誰が買ってるのかって思うわよ。でも、どこで買えたの、これ」
「昨日。正確には15時間くらい前かな。飛行機に乗る前、デュッセルドルフで...」




【The Association / Windy】


 

2018/11/6

今朝、突然、気付いたこと  幕間の出来事

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 わたしは、少なくとも九割の平凡から成り立っている。




【David Gates / Goodbye Girl】


 

2018/11/5

小壜  装う想い

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 ホテルの朝。

 客を迎え入れ始めたばかりの食堂でひとり、早々と朝餉を済ます ----- このところ、めっきり洋食に手が出なくなった。

 テーブルの上に調味料の小壜がふたつ。

 近からず、遠からず ----- 先週までのふたりの距離感が、目の前のこのふたつの小壜のようだったら...。
 でも、もう今はなにもかもがもとへは戻らない、冬の朝六時半。

 今朝は寒そうと言いながら、見知らぬ次のふたり連れが食卓を選び始めている。




【The Marvelettes / When You're Young and in Love】


 

2018/11/4

ついこの間のことだとばかり思っていた  きみがいる時間

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「とうとう、三十になっちゃった」ときみが苦笑したのは、ついこの間のことだとばかり思っていた。
 ところが今日、久し振りに出会ったきみが「もう三十八よ」とささやく。

 今を生きる人の時間感覚って、こんなものなんだろうか。




【Harmony Grass / Teach Me How】


 

2018/10/30

高間筆子  貝殻これくしょん

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【窪島誠一郎(著)『高間筆子幻景―大正を駆けぬけた夭折の画家』カバーより】



 かつて、京王線明大前駅から歩いてすぐのところに、とある私設美術館があった。資金の都合からか、今は、もう無い。間口が狭く、見過ごしてしまう人も多かったに違いない。

 さて、そこは、もはやこの世にいない、ある女流画家の『絵のない美術館』 ----- なぜ絵がないかというと、関東大震災で、そのすべてが焼けてしまったから...。
 彼女の画業は、その詩画集出版のために版元が撮影した数枚の天然色写真と白黒写真に残るのみである。

 画家の名は、高間筆子。
 資料によると兄は、大正から昭和にかけて少なからず名の売れた鳥類画家・高間惣七。余談だが、そんな兄の作品も今はもう簡単に観ることはできない。東京芸術大学が同大美術館で卒業制作の自画像展を開催する機会に、注意していれば辛うじて見つけられるだろう。

 さて、その高間筆子は不運にも大正中期に世界的に流行したスペイン風邪にかかり、高熱を発して以来、いくぶんおかしな言動をするようになったという。そのリハビリを兼ね、筆子は、兄のアトリエで絵を描くようになる。
 ある時、アトリエに出入りしている兄の画友が、
「おい、高間、筆ちゃんの色使い、すごいじゃないか!」と言い出したことで、才能の開花が認められ、画家の人生を歩み始める。

 窪島誠一郎(著)『高間筆子幻景―大正を駆けぬけた夭折の画家』にあるとおり、作品は、発熱で視神経まで冒されたのかと疑いたくなるほど、絵の具の大胆な選択と混合。

 筆子が画家として生きたのは、最初にスペイン風邪にかかり、次に再びスペイン風邪にかかるまでのわずか二年間。
 二度目のスペイン風邪で再び高熱を発した筆子は、床に伏せていた二階の部屋の窓から発作的に飛び降りる。

 死因は、頭蓋骨破裂。享年二十一才。

『才媛の洋画家 飛び下り自殺』と当時の新聞は伝えている。


 

2018/10/26

『死霊』、もしくは一瞬の存在理由  貝殻これくしょん

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 『作家のインデックス(1998)』----- 大倉舜二が写真撮影を担当した、作家の身辺記録。通読するというよりは、その日その日、気の向いた頁を開くというのが正しい。

                    

 埴谷雄高(はにや・ゆたか 1909 - 1997)の晩年は、外出しない限り、浴衣の上に丹前を着て過ごした。
「こうしてりゃ、すぐに寝られるからね」
 仕事机は赤外線炬燵。季節によって電源が入るかどうかの違いがあるだけ。
 奥の和室には酒好きならではの酒のストック。好みは、シグロの白ワインやトカイの貴腐ワインだという。

「もっぱら考えて飲んでるだけで、頭は働かない。メモを書くだけで、小説にはならないよ」

                    

 埴谷雄高の知的直観による形而上学的哲学小説『死霊』を読むと、売文家でない限り、書くなら同時代の批評に値するものを書かないとならないことに気付く。それは、面白い必要もなければ、沢山の人の目に触れる必要もない。その一瞬、その時間に存在する理由のあるものを書きたい。少なくとも、それを目標にしていたい。




【埴谷雄高お別れ会 / 加賀乙彦・島田雅彦】


 

2018/10/25

避けて通れないこと  きみがいる時間

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 さて、晩秋のいち日、ぼくとイチ子は喧嘩をしながら街を歩いていた ----- インディアン・サマーの午前中のことだ。そんな日和のせいもあってか、ぼくは、アーウィン・ショーの『二月にしては暖かい、五番街の日曜の朝の物語』を思い出していた。

 物語の中で、新婚の妻は夫に自分だけを見ていて欲しいと言う ----- 夫は、暖かい風に吹かれながら、舗道を行く夏服を着た女たちに振り向いてばかり...。しかし、夫の心の中で、妻が最高の女であることに変わりはない。それならなぜ、夫は、舗道を行く夏服を着た女たちに視線を送るののか...。妻には、理解し難いことであった。

                    

 男と女のいさかいは、他愛のない発端がほとんど。しかし、それはそれで、当事者にとっては、まったく避けて通れないことのように思えるのはなぜだろうか。




【Shania Twain / Up!】


 

2018/10/22

スープストック  きみがいる時間

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 朝 ----- たいして時間もないのにピーナッツバターとジャムのサンドウィッチを作っていたら、人と会う約束に遅れそうになった。

 遅い昼 ----- トマトピューレでナポリタンを作ろうとして、割れた卵があったのを思い出し、寸前でカルボナーラにスイッチ。割れたときに白身が流れて黄身の割合が多くなり、多少変わったカルボナーラになった。フレンチのように生クリームを入れてもよかったかもしれない。

 ところできみは、朝から体調が良くないと言って部屋に籠もったまま、ベッドでなにか書いているようだった。二食抜いているので胃酸が出過ぎたらと気にかかった。なにか食べさせないと...。鶏ガラでとったスープストックがあるのを思い出し、少し煮込んだ雑炊を作ってあげようと思った。




【The Hollyridge Strings / Penny Lane】


 

2018/10/19

波白く砕けるなか  きみがいる時間

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 古い画布を整理していたときのことだ。
 恐らく白い絵の具が汚れるのを嫌ったのだろう、油紙にくるんだ、小さなスクエア3号のカンバスに気付いた。包みをほどくと、何年か前の「クイックシルバー・ イン・メモリー・オブ・エディ・アイカウ」を見にノースショアのワイメア・ベイに行ったときの印象を描いたものだった。

 穏やかな日和なのに、日本の二百十日頃のような波がひっきりなしに寄せてくる。日頃からこんなノースショアの波に乗っていれば嫌でも巧くならないはずがない。

 水口イチ子は、「あたしのテクじゃあ、ショートボードでは、この波には乗れませんね!」とぼくに宣言すると、さっさとボディボードに換え、波白く砕けるなかを沖へ向かって進んでいくのだった。




【The Beach Boys / Honky Tonk】


 

2018/10/15

ラジオは丸二日聴いていない  きみがいる時間

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 ランチに、サンドウィッチふた切れと林檎のパイをひと切れ食べた。

                   ***

 気圧が下がりつつある。まるで、曇天のドームの中にいるよう。
 ラジオは丸二日聴いていない。

「嵐が来るよ。干潮なのに海が近いから...」と水口イチ子。

 部屋に帰って、熱いお茶を飲もう。
 うまくすれば、気の利いた文章を一行か二行書けるかもしれない。




【Ai Ninomiya with Kitchen Orchestra / JODY】


 

2018/10/14

自分のために書く言葉  貝殻これくしょん

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 Why are the words we write for ourselves, always so much better than those we write for others ? ----- William Forrester

 誰か他の人のために書く文章より、自分のために書くそれの方が、いつも遙かに巧く書けるのはなぜだろう? ----- ウィリアム・フォレスター




【Finding Forrester / How to write】


 

2018/10/11

終わらない終わり  きみがいる時間

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 いつも終わりを考えているのですかと聞かれれば、それはそのとおりですと答えます。でも、「終わらない終わりを考えることもあります」と言いたくなるときがあります。ちょうど、今のように。




【The Rolling Stones / Let's Spend The Night Together】


 

2018/10/10

無花果  きみがいる時間

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 秋の夕暮れ。

 イチ子さんが、庭の無花果の、まだ小さな実を摘まんで間引いていた。
 いつもの年のように鳥に悪戯される前に、鳥たちに意地悪でもしようとしているのかと思いながら見ていた。

                   ***

 その摘まれた若い実は、一晩中、イチ子さんに砂糖で煮られ、翌日、デザートとなって、ぼく達のささやかな夕餉の食卓にのぼった。




【Harmony Grass / Teach Me How】


 

2018/10/7

別所沼のほとり  貝殻これくしょん

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 別所沼のほとり、風信子(ヒアシンス)ハウス。




【Hyazinth house】


 



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