鋼鉄のメダルをもらい堂々と猫背で生きる権利をもらう 伊勢谷小枝子
健康にも悪いし見栄えもよくないしで、一般的に「猫背」が許されるのは猫だけだけど、誰かにそれでいいよと言ってもらいたい。その「権利」の証として「もらう」のは、金メダルではなく「鋼鉄のメダル」。証としての権威付けの意味だけでなく、「鋼鉄のメダル」は重いので首に下げれば「猫背」にならざるをえない(実際には、「鋼鉄」よりも金のほうが比重はあるんだけど、純金製の金メダルなんかないし、「鋼鉄」の愚直な感じが重さを演出していると思う(それでも実際超重い))ので、「堂々と猫背」になれるのだ。「堂々と」も<胸を張る>の枕詞みたいなところもあるのでそれが「猫背」につながる面白みもある。と、けっこうこの歌の良さを理屈で説明してしまったけど、この歌の真の魅力はこの歌自体が「猫背」でうつむき加減に生きる人たちの首にかける見えない「鋼鉄のメダル」になっていることだと思う。
(伊勢谷小枝子『平熱ボタン』2008、あざみ書房)

2