明日で合宿も最終日という9日の夜、みんなで海辺に出て
Swing MASAさんの屋外ゲリラLIVEを聴く。
瀬戸田水道を挟んだ対岸の生口島側にフェリーの船着場を望む砂浜。もちろん、夜の7時過ぎともなれば誰も泳いでいるわけもなく、周囲はひっそりと静まり返っている。天気はあいにくの曇り空で、時折落ちてくる雨粒が気がかりだったが、そこはさすがにニューヨークに渡ってJazz修行で鍛えてきたというプロだけあって気合一発、みごとな演奏を披露してくれた。
5日間の滞在中、波がほとんどなかった瀬戸田水道だが、潮の満ち干気に伴って流れが時間ごとにまったく逆転する(それも結構強い)。今宵は満ち時にあたったようで、暗闇の中、砂浜に「ひた、ひた」と潮が押し寄せてくるのがわかった。それほど静かな空間なのである。そうした中、MASAさんの奏でる「赤とんぼ」や「A列車で行こう」が、対岸の小山に跳ね返っては海峡いっぱいに染み渡り、幻想的な雰囲気を醸し出す。
中学生でサックスを始め、高校時代にコルトレーンを聴いたことでジャズにのめりこんだというMASAさんだが、一方では若い頃から自分を取り巻く様々な社会矛盾、とりわけ男女差別に憤りを感じていたという。
そもそもジャズといえば差別に苦しんできた者たちの心情から沸き出でてきた音楽。にも関わらず当のジャズ音楽の世界はといえば、今でこそ女性がプレイヤーから舞台裏係まで全部てがけるジャズ・フェスティバルなども開かれるようになったものの、圧倒的に男性性に支配された業界だった。ようするに二重の差別構造があったわけだ。
そうした境遇を、ことに日本人では数少ない女性のジャズサックス奏者として生き抜いてきたというMASAさんだからこそ醸し出される音の世界もここにはあるのかもしれない……と、暗闇の中で音色に身を沈めながらぼんやり考えた。もとよりジャズには門外漢で、しかも男である私には「よかった」という感想しか言えないのだが。
演奏が終わるや、みんなで拍手。そして対岸からも「ふぃーーーっ!!」という口笛が響いてきて、またみんなで拍手。
そう。
誰かが聞いていてくれたのだ。「闇夜に鉄砲を撃つ」とはネガティブな諺だけど、闇夜にジャズを奏でたことで、見ず知らずの誰かが確実に聴いて、感動の証しを伝えてくれたのである。2010年夏の一夜、瀬戸内の小島における一幕。

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