通いつけの銭湯で深夜、湯船につかるうち「緊急事態」下に入る。
といって午前零時を回った途端に野郎どもが素っ裸のまま大慌てで浴室から逃げ出したわけでもない。客の数は普段通りで、今宵もがっしりとした体格のあんちゃんがケツの割れ目の青い彫り物を、休憩ソファーでくつろぐ俺のほうに向けながら気持ちよさそうに汗を拭いていた。他方、脱衣場のアイドル的存在だった銭湯猫の姿が見えなくなって久しいが、これはたぶん昨今の世間を騒がしてる件とは無関係(だと思う)。週3回は夜にここへ来る私だけど、この数か月間、猫の不在を除けば場内の雰囲気は以前と変わらず、マスメディアやネット上での騒ぎとはまるで別世界に来たかのような印象を来るたびに受ける。
とはいえ今宵は私が一息つく休憩ソファー前のテーブルにもご覧の告知が貼り出された。
やはり目下全世界を覆いつくすコロナ禍の無気味な波動はこの銭湯の中まで及んでいる。告知に従い、いつもよりもだいぶ早めに切り上げて外へ出ると、銭湯の玄関前では何やらカメラクルーが深夜の撮影取材を行っている最中だった。俺どこかに映ったのかな(^ ^;
帰路に見上げたスーパームーンは、無気味に静まり返った深夜の東京を上空から、輝くばかりか唸り音まで聞こえてきそうなハイテンションで見下ろしていた。


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