もうしばらくこの業界の取材もやってない(っつーか、飽きた)からどうでもいいんだけど、不意にこういう記事の見出しに出くわしたりすると「何かねー」と思うね。
「
電通・博報堂『黒字』に転換 売上高は大幅減」(J-CASTニュース 5月18日15:18)
「黒字に転換」って、あのですね(苦笑)。
少し前に
ここにも書いたけど、そもそも前年に(電通に至っては約100年ぶりの)「赤字」になっていたことのほうが問題なんですよ。それも「メディア不況」だの「広告不況」以前に、なまじっか日本ローカルの広告会社“ごとき”が上場した挙句に大企業ヅラして投機的な真似に乗り出したばかりに、リーマンショックで火傷こいたという、経営陣のアホさ加減を指摘したほうがよいのであってね。
そもそも“本業”のコミッション・ビジネス、あるいは“国内マスメディアの銀行”的な業態に徹している限り、電・博あたりがそうそう赤字になるものではない。
ただし、大手といえども広告会社の利益率の低さは宿命的ともいえるもので、それは上の記事の
>電通は売上高が前年比11.1%減の1兆6786億円、
>純損益が311億円の黒字で、
>博報堂DYは売上高が同11.3%減の9170億円で、
>純損益は12億円の黒字。
というように、売上高に対して純損益が極端によくない実態にも表われている。
なぜなら、基本的にテレビや新聞などマスメディアの広告枠を「100万円」で売ったとして、そのうちの「15〜20万円」をコミッションで得る、即ち単純に言ったら利益率15〜20%以下の世界で賄ってきたのが戦後このかた、それこそ電通の“中興の祖”と呼ばれる吉田秀雄(この人は電通の社訓ともいうべき“鬼十則”を立ち上げた人で、同社の
中では今も創業者の光永星郎などよりも遙かに尊く扱われている)が確立したシステムこそが、これまで電通を筆頭とする国内広告業界の秩序をなしていたからだ。
もっとも、それが通用していたのは国内の広告費が右肩上がりで伸びていた1990年代までの話だ。バブル崩壊以降、企業が宣伝費を絞り込み、ましてや効率重視で15〜20%なんていうアバウトなコミッション比率を認めなくなってくると、そうしたモデル自体が上手く機能しなくなってきた。
そもそも日本以外の国だとメディアのコミッションはせいぜい3%ぐらいで、あとは広告会社が企業(広告主)に実作業に見合うフィー(報酬)を請求するというスタイルのほうが一般的だった。
この場合、広告会社の利益率は著しく低下する。ただ、それでもやっていけたのは、海外には電通のように単独で何千人という社員を囲う広告会社がなかったからだ。
ちなみにそこには日本と「日本以外」との広告取引システムの根本的な違いもある。日本では、例えばトヨタだホンダだ、NTTだソフトバンクだといった同業の競合広告主を、電通なり博報堂という同じ広告会社が同時に担当しても、さして問題にならない。ところが、日本以外の海外では「一業種一社制」というルールが厳格に引かれており、サントリーの広告を手掛ける広告会社はアサヒやサッポロをお客にできない。
逆に日本の場合はマスメディアに載せる広告(テレビCMや新聞広告や屋外広告看板)を転売する、いわば不動産業者に近い「スペースブローカー」として長らく広告会社が位置づけられてきた。だから「マスメディア広告のブローカー」みたいな電通や博報堂がこれまで固定的なコミッションビジネスをベースにやってこれたし、その安定的土台をもとにオリンピックだ何だのといった巨大イベントの仕切役もこなすことができた。
ところが今やマスメディア広告扱いのコミッションビジネスはジリ貧し、新たに台頭してきたインターネット広告では広告主からもメディア側からも全く新しい取引方法を広告会社も求められている。以前のような「15〜20%のメディアコミッション」に胡坐をかいたビジネスが通用する領域は、だんだん狭まりつつあるのだろう。
とはいえ電通や博報堂あたりの、先にも書いた「国内マスメディアの銀行(金融機関)」は当面つぶれる心配はなかろう。利益率の低さはともかく、このあたりの大手はまだまだやっていけるだろうし、そうでなくてはメディアも広告主も困るからだ。
問題は、中堅以下の広告会社である。おそらく日本人の大半は「広告会社で知ってる名前は?」と聞かれても電通・博報堂かADK(あるいは制作に特化したクリエイティブエージェンシー系)ぐらいしか知らないだろうが、そうした名も知れぬ中堅以下の広告会社が今や存亡の危機に立っているようなのだ。
私も以前に萬年社とか三幸社といった業界の老舗企業の倒産劇を取材したことがあるけど、「メイン広告主の倒産」による連鎖倒産などはともかく「自社が赤字で潰れた」なんてところは少なかったもんね。決算上一応は微々たる黒字を出しながらも、経営陣が「今のうちに(ヤバイことがばれないうちに)バッくれた」という夜逃げ的なケースが多かったなあ。
おそらく、広告業界の将来は現状よりぐーんとダウンサイジングした、大手の数社と中小〜零細の各社という図式になっていくのではなかろうか。だから別に電通が2年ぶりに黒字になったからといって、だから何なの? という話でしかないのだ。

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