2022/5/17

「『自治体独自の教職員配置』の話」〜教員の働き方改革が進まないわけF  教育・学校・教師


 教育行政の専門家の中にはとんでもないことを言い出す人がいる。
 しかしその目のつけどころは鋭い。
 実は文科省の規定よりも、実際の教員は遥かに多いのだ。
 その余剰の部分をどう考えるか、そこが彼我で決定的に異なる。

という話。
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(写真:フォトAC)

【教育行政の専門家は事態が呑み込めていない】 
 昨日は、現場のベテラン教師をアテにしてもダメ、校長にもできることはない、文科省はもちろんダメと記して、それでもやれることはあるかもしれない、と含みを持たせたまま終わりました。実は「地方自治体(教育員会)には多少の可能性がある」という点について隠し玉を持っていたつもりでいたのです。

 ところが昨日に至って、困った新聞記事が目に触れることになりました。東洋経済ONLINEの「公立小中高・特別支援学校は2056人の『教員不足』〜 本音と建前が渦巻く文部科学省の教育予算」です。

 慶應義塾大学の土居丈朗経済学部教授の、骨格のしっかりした読み応えのある記事ですが、私はだいぶ腹を立てながら読みました。少し長いので簡単にまとめておきます。
 
 教授のおっしゃるには、
1. 教職員定数と言っても二種類ある。学級編制の標準などに従って機械的に計算される教職員数を基礎定数という(注:5月12日にこのブログで扱ったもの)。加えて、いじめ対応など特別な配慮が必要な政策課題に応じて、毎年の予算折衝の中で措置されて加算される教職員数がある。これを加配定数という。教職員定数とは、基礎定数と加配定数を合わせた数である。

2. しかし地方自治体は独自の財源で、国の示した数よりさらに多くの教職員を配当している場合がある。教員不足というのはそうした「独自の配当」を加えた上での不足であり、国の示した範囲での不足ではない。

3. 国は35人学級の拡大や「教科担任制」の加配などによってむしろ教職員の数を増やしている。それにも関わらず「教員不足」が起こるのは、教員をうまく配置できない自治体があるからだ。実際「教員不足」は全国で同じように起こっているのではなく、うまく配置できた自治体では起きていない。

4. 「自治体独自の教職員」の配当を見直して文科省の示した本来の教職員数に近づければ、教員はむしろ余り始める。今後、少子化によって学級数が減れば、教員はさらに余り続ける。

5. ただ、それだと教職員の雇用は守れないから、余らぬよう、足らなくならぬよう、うまく調整しながら配置していく、それが自治体の役目である。

6. そもそも、本当に教員が足りないのなら「35人学級」や「教科担任制」をやめればいい。それで人は足りる。外部の専門人材の活用だって教員不足の簡便な解決方法である。


【「自治体独自の教職員配置」の話】
 土居教授の言う「自治体独自の教職員」について少し説明しておきましょう。その代表は「複式学級解消加配」です。
 1学級の定員については「40人学級」「35人学級」といったふうに上限は繰り返し話題となりますが、下限ついて知る人はあまりいません。そもそも下限のあることすら知らない人もいるでしょう。そこで問題を出します。

問題:児童生徒数がどこまで減ったら学級は維持できなくなるのか。
(この問題、すごい人にはすごいでしょ?)

 答えは「小学校の場合、隣りあう2学年の児童数の合計が16人(1年生を含む場合は8人)以下になったら、別学級にできない」です。配当される教員は2学年で1人。例えば2年生10人、3年生7人、4年生9人の小学校の場合、2・3年生の合計は17人ですから一緒にしなくてもかまいませんが、3・4年生の合計は16人ですから同じ教室で一人の担任に見てもらうことになります。また「1年生を含む場合は8人以下」ですから、この学校は1年生が1人しかいなくても1・2年生それぞれに担任が配当されます。ただし翌年、2・3年生に進級すると1学級しなくてはなりません。隣り合う2学年の合計が11人しかいませんから。
 中学校の場合はどの組み合わせも8人以下だと一緒にされます。そうしてできたクラスを複式学級と言います。

 音楽や体育はむしろやりやすいかもしれませんが、国語や算数・数学はたいへんです。例の小学校では1人の担任が3年生7人と4年生9人を同時に見なくてはならないからです。その不便をなくそうとして、市町村が独自に予算をかけて配置するものを「複式学級解消加配」と言います。

 「自治体独自の教職員」の代表的な例をもうひとつ挙げておきましょう。
 土居教授は「国は『加配定数』という形でやはり予算を出しているじゃないか」といった言い方をされます。令和4年度に新設された加配に「小学校高学年における教科担任制の推進のための加配」というのがあります。今年度は2000人分、最終的には8800人分の予算をつぎ込もうというものです。
 2000人の増員と言ったら大した数と思いがちですが、全国にばらまくと情けないほどの少なさです。単純に人口比で配分すれば、人口の最も少ない鳥取県は日本の全国のわずか0・44%、2000人の「教科担任推進加配」で増やせる教員は8・8人だけです。これでは学校間にあまりの不公平が起きますから、何らかの形で「自治体独自の加配」をせざるを得なくなります。これが結構な数になります。

 土居教授が暗に言う「勝手に教職員を増やしておいて教員不足と言うな」の、これが実際です。教授は具体を見ていません。それに「自治体独自の加配」は、昨日今日始まったものではありません。「教員不足」は自治体の不手際によってもたらされたものでないことは、誰が考えても分かりそうなものなのに。

【事態は会議室で起きているんじゃない! 現場で起きてるんだッ!】
 地方自治体、特に市町村は教育行政において非常に生々しい場所です。
 文科省は「部活動は地域に移動し・・・」などと軽々しく丸投げしますが、市町村はそういうわけにはいきません。そんな指示を学校に下ろせば、その日のうちに、
「地域に指導者なんかいるもんか! いるというなら名簿を出せ。本校の全16部活、吹奏楽も水泳もサッカーも、週日の朝と午後、休日に3時間、無料で指導してくれる専門家の連絡先と名前を出してみろ、そこまでやったら組織づくりくらいはしてやろう」
といったお怒り電話が、校長先生の数だけかかってきます。

 地方議員の要求も具体的かつ切実で、「○○小学校ではボイラー室がうまく作動していないから何とかしろ」とか「△△中学校の桜並木にアメリカシロヒトリがたかっているが、気がつかないのか」とか、議場外での活動も活発で、自らの再選がかかっていますから容赦ありません。「複式学級解消加配」を廃止しますなどと言ったら行政は、こうした議員や保護者からどんなひどい目に合うか分かりません。
 そこに狙い目があると、私は思っています。

(この稿、次回、ほんとうに最終)
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