2022/1/26

「周囲にもっと多くの人間関係があったら」〜いわゆる“池袋パパ活殺人事件”で  政治・社会・文化


 夜の池袋で、24歳の女が82歳の男性を殺した
 ありふれた事件だが 果たしてその女に
 事件を回避する能力と機会があったのだろうか
 ほんとうは 誰かが助けてやらなくてはならなかったのではないか

という話。
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(写真:フォトAC)

【いわゆる“池袋パパ活殺人事件”】
 21日夜、東京・池袋のホテルで82歳の男性が殺されるという事件がありました。容疑者は24歳の女性で、初対面の被害者に路上で声をかけ、二人でホテルに入ったもののその後トラブルとなり、カッターナイフで殺害の上、現金を奪って逃走したものです。防犯カメラの豊富にある地域ということもあって、翌22日には逃走を助けた元カレ兄弟とともに逮捕されています。ここまではニュースで十分報道されたことです。
 ただ、この時3人がともに実名で報道されたことには、少し違和感がありました。殺人という重犯罪と犯人隠避という、ある意味とても軽い犯罪が、同列に扱われているからです。

 その後、犯行の前後で3人が行動を共にしていること――つまり3人一緒にホテル近くまで行き、女性が一人で被害者に声をかけてホテルに入り、のちに合流したということ、また兄弟は女性容疑者に売春をさせたうえでその収入を貢がせていたことなどが明らかになり、ようやく合点がいったわけです。兄弟には単なる犯人隠避以外の疑いも、かけられているのかもしれません。

 もっともこれに類似する事件は世にざらにあり、今さら言及するまでもないことのように思われました。しかしやがて見過ごせない事実が出てきたのです。それは容疑者女性に軽度の知的障害があり、療育手帳も交付されていたことです。


【軽度知的障害者の支援の穴】
 軽度とはいえ、療育手帳まで持っていたとなると生活に多くの支障があったのでしょう。このレベル人の中には、普通に会話できていても意味の十分理解できない人も多くいます。例えば言葉の裏読みができないといったこと――。
 その人たちにとっては、「可愛いね」と言われれば言葉はそれ以上の意味は持ちません。「可愛いね」と言う以上、言った人が自分のことを「可愛い」と思っているのは確実で、裏に何らかの下心が隠されているかもしれないと疑うことはないのです。「愛している」と言われれば、自分が愛されていることは確実で、「愛しているから金を稼いできてくれ」と言われれば誠実に従わざるを得ない場合もあるのです。

 21日の池袋の事件に、そうした背景があったかどうかは今後の捜査の結果を待つしかありません。しかしそれに近いことはあったのでしょう。
 軽度の知的障害と犯罪という主題については、10年近く前に一度書いたことがあります。
2013/12/18「その穴をふさぐ仕事」

 その中で私は、こんなふうに書いています。
 重度および中度の障害者に対する社会システムは不十分とはいえ一応整っています。しかし軽度の障害者に対する支援にはあちこちに穴があります。そしてその穴は誰かが塞がなくてはなりません。
 池袋の女性の周囲には、女を操って金を稼ごうとする不良兄弟以外に、支援の穴をふさいでくれる人はいなかったのでしょうか?


【周囲にもっと多くの人間関係があったら】
 さしずめ「親はどうしていたのか」ということになります。
 非難の意味ではありません。純粋に、この子とどうかかわっていたのかという疑問です。

 普通の意味での友だちはいたのか、特に親しい女友だちはいたのか、人数はどれほどか、そういうこともテーマになるでしょう。
公的機関は、24歳ですからこちらから手を伸ばさない限り、握ってくれる人はいないのかもしれません。
 そして私は、コロナ禍さえなければ、この事件は防げたのかもしれない、ということも考えます。

 この2年間、私たちはたくさんの人間関係を中絶あるいは失ってきました。ひととの関係は多ければ多いほどセーフティ・ネットとして機能します。池袋の容疑者女性も近辺に「あんな兄弟とつきあっていたらロクなことはないよ」と忠告し、あるいは強引に引きずり出してくれる人がいたら、ああはなりませんでした。
 東大前の刺傷事件の容疑者も、親しい友だちがたくさんいたらあんなふうにはならなかったのかもしれません。人間づきあいは、思いつめる人間の“集中した思い”を拡散させてしまうからです。
 大阪のクリニックの容疑者も、毎晩、居酒屋で愚痴をばらまきクダを巻く生活を送っていたら、あんな丁寧な犯罪は準備できなかったはずです。

 先ほど取り上げた私自身のブログ記事の最後は、こんなふうに締めくくっています。
 私はいつか、その穴をふさぐ仕事をしたいと思っています。

 しかし私も、何もしていません。

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