2020/12/21

「教師の首に突きつけられる匕首」〜35人以下学級が始まる  教育・学校・教師


 小学校の35人以下学級が始まるらしい。
 一方で熱烈歓迎みたいな扱いをされているが、実際は焼け石に水。
 それどころか、
 楽にしてやった分、教育の質も上がるはずだと、
 教師の首に突きつけられた匕首。
という話。
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(写真:フォトAC)

【35人以下学級制度が始まる】
 頭と心を新型コロナに奪われている間に、社会ではさまざまなことが起こっています。そのひとつは学校の長年の夢だった一クラスの定員の引き下げです。
 先週17日(木)、文科省の荻生田大臣と財務省の麻生大臣との折衝で、小学校の一クラスの定員を5年かけて35人以下に引き下げることで合意しました。文科省は小中ともに30人以下を要求したのですが、そこにまでは至りません。

 これを受けて学校もマスコミもお祭り騒ぎで、例えば産経新聞(2020.12.17『「よくぞやってくれた」35人学級に保護者ら歓迎の声』)では、堺市の小学校長が、
「よくぞやってくれた」と歓迎。「子供1人1人の活躍の機会が増える。教師はきめ細かい指導ができる」と話した
とか。
 大阪市の教頭も、
「担任が児童と関わる時間を増やせる」「配慮が行き届き、学力の安定や保護者の安心にもつながる」
と歓迎の声を上げています。
 さらに東大阪市の女性教諭は、
「40人と35人では、子供に割ける時間も力も全然違う」
 大阪府の30代教諭も、
「40人の子供には、勤務時間中に対応しきれない」
 保護者たちも、もろ手を挙げて歓迎している様子が紹介されています。

 しかし私は、これがほんとうの話かどうか、かなりまじめに眉にツバをつけて聞いているのです。


【35人以下学級でも変化は緩慢】
「40人と35人では、子供に割ける時間も力も全然違う」
 たった5人の差がそこまで大きなものですか?
「40人の子供には、勤務時間中に対応しきれない」
 35人だったら勤務時間中に対応できるのですか?

 実は35人以下学級というのは「児童数が35人を越えたらクラスを割りなさい」という制度ですから、1学年の児童数が35人だったら1クラスのまま、36人になったら18人ずつの2クラスになります。担任ももう一人入ります。
*これについて昔、「良い子30人と悪い子6人の二クラスに分けたらどうか」と本気で考えたことがあります。もちろん私はどちらの担任であっても構わないのですが。
*1学年が70人を越えたら2クラスでは収容しきれませんから、3クラスにします。その場合は23人・23人・24人といったふうにするのが一般的です。

 産経新聞のインタビューに答えた二人の先生は、それが念頭にあって劇的に余裕が生まれるような言い方をしたのでしょう。しかしそんな大げさな変化は実際には起こりません。

 ニュースによると、文科省は35人以下学級を来年度から5年かけて小学校全体に広げると言っています。実は現在でも小学校1年生だけは35人以下ですので、来年度は新1年と新2年が同時に35人以下になることになります。つまり2年生以上では何の変化も起こらないということです。
 再来年は新1年から新3年まで、さらに翌年は4年生までが35人以下学級となる、というふうに順次のばしていって、5年間で全学年に生き渡ることになるのです。
 ということは現在40人の学級は卒業まで40人のままだということで、一村一校みたいな地域で中学校に進んでも40人だったら、そのクラスは最後まで40名のままということになります。担任教師も、児童生徒と一緒に進級している限りは、劇的な変化を味わうことはありません。もちろん下の学年に移れば別ですが――。
 

【35人以下学級でもそれほど楽になるわけではない】
 私は38人の学級担任から、転任のために13人のクラスの担任に変わったことがあります。
 それはもう劇的に事務処理は少なくなります。日記を見るのも通知票を書くのもテストの採点をするのも、すべて三分の一程度で済むのですから。

 しかし児童が三分の一だからといって国語の授業を三分の一に減らせるわけでもありません。
 児童のための授業プリントは印刷時間こそ三分の一ですむものの、原稿の制作時間は一緒です。家庭訪問も懇談会も確かに三分の一ですが、その分、通り一遍では済まなくなります。
 それがきめ細かい指導ということなのかもしれません。しかし対象の人数が減った分だけ内容が深まるなら、結局教師の多忙には変わりはないことになります。実際に事務処理の楽になった分は他の仕事に吸収されてしまいます。
 しかも私が13人のクラスの担任だったのは、今から四半世紀も前の話で当時は今よりもずっと余裕があった時代です。


【教師の首に突きつけられる匕首】
 産経新聞が『「よくぞやってくれた」35人学級に保護者ら歓迎の声』とはしゃいだ記事を書いた17日夜のNHKニュース9は、今回の35人以下学級のねらいについて、要領よく次のようにまとめていました。
「今回の定員の引き下げ、背景には感染拡大だけではなく、新たな時代を見据えた学びが次々と導入されている教育改革もあります。
 一方的な知識の詰込みではなく、子どもたちが対話をしながら思考力や表現力を育む教育が求められています。さらに情報化や国際化の流れに対応できるよう、今年度から高学年では英語が教科に、プログラミング教育も必修化されました。今、現場はこうした新たな学びへの対応に追われています」


 その上で、夜の10時過ぎまで小学校英語の教材づくりに励む先生の姿や、いきなり児童数分のコンピューターが送られてきて、その初期設定ができずに苦労している先生の姿が映し出されていました。
「子どもたちのために仕事をしているのに、これ(小学校英語やプログラミング学習の準備)で圧迫されて、明日の準備に影響が出るようなら逆効果」
とは、そこにいた情報教育担当者の弁です。
「(新しい学びのために)放課後の仕事の量も変わってくるし、授業中のみとり、一人ひとりへの対応も変わってくるので、少人数学級が実現してもらえたらうれしい」

 しかし少人数学級が実現したところで、次々と導入される新たな学びによる負担が減るわけではありません。
 マラソンの40km地点でフラフラになっている選手に栄養ドリンクを渡して、
「さあ楽にしたんだから金メダルを目指して走れ!」というようなものです。
 キジでもサルでもイヌでもないのに、キビ団子ひとつで命を懸けさせられる――。

 そういえばニュース9の有馬キャスターも、
「教員にゆとりが出れば、学びの質は上がるはず」
と教師の喉元に匕首を突きつけ、和久田キャスターも「ぜひ(35人以下学級が)学びの質が上がること、なにより子どもたち一人一人の成長に繋がって欲しいと思います」
とか言ってまとめていました。

 アメを渡されてヘラヘラしているとムチでブン殴られる世界の話です。
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