2020/9/28

「死に逝く者の責務を果たせる者だけが死んでいい」〜女優、竹内結子も逝ってしまった  人生


 女優の竹内結子さんが亡くなった。自殺の可能性が高いという。
 打ち続く芸能人の自殺、
 あるいはそこに共通点があるのかもしれないが、竹内さんは少し違う。
 人には死んではいけないときがある、死ぬことが許されない場合もあるのだ。

という話。
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(ダフィット・テニールス「聖アントニウスの誘惑」《部分》)

【竹内結子さんの死】
 女優の竹内結子さんが亡くなりました。自殺の可能性が高いとのことです。享年40歳。
 昨年の2月に再婚し、今年1月の末に第二子を出産したばかりでした。長子は歌舞伎役者の中村獅童の子で、今年14歳になるはずです。

 私は竹内さんのファンでも何でもないのですが、4年前のNHK大河ドラマ「真田丸」で演じた狂気の淀君が忘れられません。
 4歳の時に落ちる小谷城に父を残して母や兄妹とともに脱出し、14歳で北の庄城に母を残して二人の妹とともに秀吉の軍門に下り、その側室となってからは最初の子の鶴松を死なせ――と、わずか20年余りの半生の間に、家族の大部分を次々と亡くすような体験をした女性は、きっとこうなるだろうと強く思わされる演技でした。

 結局、最後には豊臣家を亡ぼして両親の復讐を果たした――そう考える見方も多くありますが、竹内結子さんの演じた淀君にとっては豊臣家も浅井家も、天下統一も復讐も何もかもどうでもいいことで、常にその場その場を生きていた――ただそれだけのことだったのかもしれない、それこそがほんとうの淀君の姿かもしれない、そう思わせるだけの素晴らしい演技でした。

 芸能人の自殺については三浦春馬さんや芦名星さんを例につい先日書いたばかりです。
2020/9/18「働いていないことの消耗」〜三浦春馬さんの死とコロナ禍 

 そこで考えたのは、人気俳優としてほとんど休みもなく突っ走ってきたこの人たちが、今回のコロナ自粛で完全に止められてしまった、その働いていないことの消耗についてでした。
 さらに竹内さんの場合は生まれたばかりの赤ん坊を抱えての自粛ですから、育児ノイローゼ的なものも重なっていたのかもしれません。竹内さんに限ったことではありませんが(コロナ感染を恐れて)両親等の助けを一切うけられない養育というのは、これまでほとんどなかったことです。
 いずれにしろ尋常ではない状況下にあったわけで、私には淀君の狂気の演技が記憶に焼き付いていますので、その最後の姿が目に浮かぶようでほんとうにやりきれません。

 ただしそんなふうに思い遣りながらも、三浦さんや芦名さんとは違った思いで竹内さんの死を考える私もいます。それは何と言っても彼女が14歳とゼロ歳の子の母親であり、結婚一年半の、年下の配偶者の妻であることから来ています。


【死に逝く者の責務】
 二十数年前、私が肺ガンの宣告を受けて死を覚悟したとき、娘は小学校2年生、息子はまだ4歳でした。発見の段階でレントゲン撮影の病巣が2×3cmもあって(最終的には8×6×6cm)医者からもVA期かVB期と言われたので、“これはもうダメだな”と諦めるのも早かったのです。それほど悲壮感のあるものでもありませんでした。

 ただ7歳と4歳の子を残して逝くのは忍びない気がしましたし、特に下の子は年齢的に記憶にすら残らないかもしれないと思ってそこには気を遣いました。たくさんの映像とたくさんの文章を残しておこうと、自分のWebサイトをつくったりあれこれ始めたのもこの時です。

 それとは別に、妻や親兄弟のために心がけたこともあります。それはこの人たちが私の元に持ってくる治療や治療もどきのことは、資金の許す限り試してみようということです。困ったことにこの病気になると、頼んでもいないのにあちこちから特別な治療やら栄養食品やらの話がやたらと舞い込んできます。
 私はすっかり諦めつくしていましたからそんな無駄なこと、面倒なことはしたくない気持ちもあったのですが、家族の勧めを断り続けた挙句に結局死んでしまったら、それで切ない思いをするのはその人たちです。
 もっと強く勧めていたら、もっと強引に引っ張って行っていたらと、そうした悔いは人の死にはつきものです。だから私たちは葬儀の席で「お悔やみ申し上げます」と言い合うわけですが、それでもその“悔い”を最小限にとどめるのは死に逝く者の使命だと思ったのです。もちろん何百万円もする治療などお断りですが――。

 しかし私は生き残ってしまいました。どの治療・治療もどきに効果があったのかは分かりません。もしかしたら生きる可能性をさっさと諦めて気楽に病気と付き合ったのがかえって良かったのかもしれません。


【残された人々への哀悼】
 もちろん同じく死を目前にしていると言っても自殺と病気とでは全く違います。自死する人の最後の瞬間はおそらく正気ではありませんから、その人たちに「残される者の気持ちを考えろ」とか「死ぬより大切なことはあるだろう」とか言っても無意味でしょう。しかしそれでも私は思わずにはいられないのです。

 最初にクローゼットの中の遺体を発見した若き夫は、これから長く続く人生をどう生きて行ったらいいのでしょう。最も近くにいて、最も救える可能性のあったのはこの人なのです。 
 14歳の、とてつもなく多感な時期の真っ最中にいる長男は、事態をどう受け止めるのでしょう。彼女は自分自身が演じた茶々(淀君)が母を奪われたのと同い年の息子から、自ら母親を奪ってしまったのです。
 この子に語ってやれる言葉はそう多くはありません。

 ゼロ歳の次男は、もちろん今は何も分かりません。しかしこの自死の原因に育児ノイローゼがあるとして、将来おとなになったとき、その事情をどう消化したらよいのか。
 普通の家の子ではないのです。インターネットで検索をかければ、10年後であっても20年後であっても、母親に関する情報はいくらでも出て来ます。
 ――そう考えただけでも、とてもではありませんが死んで行ける状況ではないのです。

 もちろん、繰り返しになりますが、自死する人の最後の瞬間は正気を失っているはずです。ですから私の想いをもって竹内結子を非難することには、何の意味もないことは百も承知です。
 百も承知の上で、この女性の失われた才能を心から惜しむとともに、たいへんな重荷を家族に残していった恨みを抑えきることもできないのです。

*2020年10月1日追補
 こののちも竹内結子さんについては続報が出ていますが、私の心に引っ掛かったのは竹内さん自身が、14歳でガンのために母親を亡くしているという事実です。14歳、おそろしく因縁めいた話だと思いました。


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