2020/5/12

「学校の年間暦をうしろに5カ月たおしてみた」〜「9月入学」の利点と問題点A    教育・学校・教師


 「9月入学」でほんとうに学校が動いていくのか、
 それは慎重に検討すべき内容だ。
 うかつに変更して、あとで問題が目白押しだったときに、
 簡単にもとに戻せないからだ。
 そこで実際に、学校の年間暦を5カ月間、うしろ倒しにしてみた。

というお話。
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(「小学校」フォトACより)

【金で解決できる些末な、しかし重要ないくつかの問題】
 今、語られているのは2021年の「9月入学(新年度)」の話であって、今年度(2020年度)の入学生についてはすでに手続きを終えていますから問題となりません。また、2021年度「9月入学」の下では、2020年度新入生を含めて全在校生は来年8月まで現学年に留まることが予定されています。それが「9月入学」の基本的構想で、この問題を考える共通の基盤です。

 ただし今のところ他の点については何の提案もなく、来年9月の入学式はいいにしてもその前の2020年度卒業式をいつにするのかという話も出ていません。
 大学4年生に目を向けると、オンライン上とはいえ、すでに終活は終盤に入ろうとしているのです。この人たちが9月にならないと社会に出てこないということになると、企業の計画にも狂いが出ます。3月末に辞める予定の社員にも残ってもらわなくてはなりません。

 学校もまず教員の定年延長について決めなくてはなりません。現学年がそのまま5カ月延長されるのに新卒者は来てくれないのですから、まさか「予定通り4月になりました。60歳の方は退出してください。あなたの空いた席は放置します」というわけにはいかないでしょう。
 本来なら新卒教員と入れ替わっていたはずの5カ月間を、60歳〜61歳の教員が引き続き受け持つのです、耄碌を心配しているわけではありません。教員最終年のこの人たちの給与は、新卒とは比べ物にならないほど高いのです。その予算はどこから持ってくるのでしょう?

 さらにしんどいのは私立学校。就学期間が5カ月延びたからといってその分の授業料を保護者から取るわけにはいきません。これも政府が補填すべき費用ということになります。
 かなりお高くなるはずです。その他、4月に入るはずの収入をあてにしていた教材会社、学習塾などの損失補填も考えなくてはなりません。大変なコストです。

 もちろんそれは本質的な問題ではく、国債をバンバン発行して充てればいいだけのことなのですが、「9月入学」で得られる価値とのコスト・パフォーマンスは微妙だといえるでしょう。
 さらに言えば、「9月入学」で失われる金銭以外のものについても、そのコストはしっかりと計算しておかなくてはなりません。


【日本の学校文化は守れるのかという観点】
 日本の子どもたちにとって、学校は単に国語や算数を教えてもらうところではありません。
 大人が一歩そとに出ればそこに社会があるように、子どもも外に出れば幼稚園や保育園、小中学校、高校といった社会があります。
 大人が社会によって鍛えられるように、大部分の子どもは学校で教科を学ぶとともに人間関係を学び、巡回演劇や巡回音楽(劇団や音楽家が学校を訪問する)を通して質の高い文化に触れ、運動を学びスポーツを愉しみ、他愛ない話をしたり家庭生活を愚痴ったりしながら成長していきます。

 ある種の国のように家に帰ったらそのまま大人と働かなければならない労働社会があるとか、行くべき趣味のグループ、スポーツ団体、ボランティア・サークルなどがあるというわけでもありません。せいぜいが学習塾ですが、そこに濃い人間関係があることは稀です。
 基本的に日本の子どもたちは家庭と学校以外に寄って立つ場所がないのです。

 その家庭と学校には、大きな役割の分担があります。
 いかに都会で環境に恵まれていると言っても休日に子ども演劇に連れて行ったり音楽会に引率したり、あるいは美術館巡りをしたり博物館見学に行ったりする保護者はそう多くありません。
 何かと批判の多い部活動ですが、それがなければ普通の子どもたちは、地域のサッカー・スクールなどに入れてもらうかピアノ教室や絵画教室に通わせてもらわない限り、スポーツや芸術とのかかわりの薄い子になってしまいます。
 
 いま学校が機能を止めたとして、国会議事堂や消防署、警察などの見学に連れていってくれる親はどれほどいるでしょう? 子どもの水難が心配だとスイミングスクールに通わせるくれる保護者、交通安全の実地訓練をしてくれる保護者、ボランティア活動や資源保護の大切さを一緒に活動しながら教えてくれる保護者、あるいはスキーやスケート、潮干狩りや海水浴、それら全部に連れて行ってくれる保護者は、いったいどれくらいいるのか――。
 日本の学校は、そのほとんどすべてを行ってくれるところです。もちろん保護者も役割を担ってくれますが、網羅的・計画的・組織的に行っているのは、日本では学校だけです。

 そう考えると、入学式を9月に移すことで何が変わるのか、失われるものはないのか、しっかりと検討しておく必要があります。
 欧米の学校には社会見学や演劇・音楽鑑賞、児童生徒会、部活動といった特別活動的なものはほとんどありませんから、その点で参考にならないのです。


【小学校は問題が少ないだろう】
 入学式を9月に移して、現在の学校教育がそのまま動けるものなのか検討する、一番簡単な方法は現在の学校暦を5カ月後ろに移してみることです。そのうえで真冬にプール開きをしたり、6月にスキー教室を行ったりといったことのないように調整します。

 なお年度替わりが9月1日になるため春休みは不要となり、その分を夏休みにつけて欧米並みに卒業式は6月末、夏休みは7〜8月の2カ月とします。昨今、学校は熱中症対策に苦慮してきましたからその点では一石二鳥です。
 ただし春休みをなくして前期9月〜12月(4カ月)、後期1月〜8月(8か月)の2学期制にしますとあまりにもいびつですから、1月〜8月の間に一息入れたいと思います。するとちょうどいいことに大型連休があるじゃないですか。
 そこで4月28日を2学期終業式、5月7日を3学期始業式としてメリハリをつけます。3学期だけは実質2カ月しかありませんが、かなり合理的な配置かと思います。

 さて、そうやって整理してみると、小学校の場合は案外、問題が少ないように見えます。

《一般的な小学校の9月始まり年暦》
9月 入学式 1学期始業式 家庭訪問 1年生を迎える会 児童総会 第一回避難訓練 第一回交通安全教室 PTA総会・参観日 身体測定・各種検診・検査(内科・歯科・視力・聴力・エックス線撮影)
10月 PTA作業 地域ボランティア(地区清掃) 巡回音楽会・劇場 各種検診・検査(耳鼻科・心臓・血液) 参観日・親子給食
11月 地域ボランティア(資源回収) 各種検診・検査(眼科・結核) 防災訓練  
12月 参観日 1学期終業式 冬休み
1月 冬休み 2学期始業式 スキー教室
2月 交通安全教室 不審者対応訓練
3月 視力検査 各学年社会科見学 5年生宿泊行事 小6修学旅行 
4月 市内陸上競技大会 参観日  歯科検診  来入児検診 公開授業研究会 2学期終業式
5月 3学期始業式 運動会  市内陸上競技大会  保護者懇談会 
6月 中学校入学説明会 児童会選挙 来入児一日入学 参観日 6年生を送る会 修了式  卒業証書授与式 


 特に座りのいいのは運動会で、5月というのは驚くほど気候に恵まれていて、しかも熱中症の不安は9月〜10月ほどではありません。お母さんたちが紫外線対策をしっかりして見物に来ればいいだけのことです。
 同じ5月の「市内陸上競技大会」というのは、例年夏休みに行われている「全国小学生陸上競技交流大会(いわゆる日清食品カップ)」に向けての第一段階で、その後、上位大会を経て全国へという流れになります。8月といえば6年生はすでに卒業式を終えていますが、身分はまだ小学生ですから問題ないでしょう。

 やや迷ったのは3月の宿泊行事。地域によってはまだ寒いかもしれません。いっそのこと進級したばかりの10月という手もありますが、そのあたりはいかようにも考えられます。海水浴や潮干狩りというわけにはいきません。しかし工夫の仕方はいくらでもあるでしょう。

 年間暦の中でどうしてもうまく入らなかったのが「プール開き」でした。6月の中旬、卒業式前後に無理をして入れても、そのあとしばらくは梅雨のためにほとんど水に入れず、明けて7月〜8月は夏休み、9月は入学式から新年度行事が目白押しですから、とてもではありませんが水泳などしている暇がありません。

 もっとも今やプールは、新設はもちろん維持管理も市町村の財政上の負担になっていてスイミングスクールを頼ろうという話もあるくらいですから、この際、水泳は指導要領から外すのもいいのかもしれません。
 子どもの水難が心配な保護者は自腹を切って子をスイミングスクールに入れればいいだけなのです(と冷淡に言っておきます)。

 問題は中学高校です。

(この稿、続く)



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