2020/4/7

「私たちは試されている」〜仮想:私の令和2年度第一回担任講話  教育・学校・教師


 一年の最初の学級会で担任として語る話、
 そこには高邁な理想と気高い気持ち、
 最高のものを与え、
 子どもの心を動かそうとする情熱がなくてはならない。
 そのことを心に置いて、とにかく語ってみよう。

というお話。
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(ダヴィット「ソクラテスの死」パブリック・ドメインQより)

(昨日の続き)

【これからの見通し:最悪と最良の場合】
 さて、私が自分の最後の授業にあって(あ、最後の授業というのは、さっき言った通り可能性のひとつだということですよ)、キミたちに話しておきたいことは三つです。

 一つ目は、現在の新型コロナ感染の見通し。
 キミたちはお家で、お父さんやお母さんからどんなふうに聞かされているかな? 新型コロナ感染は今後どうなるとか、いつごろ終わるとか、そんな話は出ていませんか?
 出ないかもしれませんね。これに関する答えは誰も持っていないからです。

 私の見聞きしてきた範囲での最悪と最良の場合を考えると、
 最悪の場合、日本もイタリアやスペインのようになり、毎日数千人の新たな感染者が生れ、病院はいっぱいになり、病室や廊下で、日々1000人もの人々が苦しみながら亡くなっていきます。
 まだ感染していない人たちは何カ月にも渡ってウイルスの恐怖に晒されながら、家から一歩も出られない生活を続けます。買い物は一日一回、1家族で1名だけ。散歩や運動も家から100m以内で1日30分、人と人は2m以内に近づかないように、そんな生活が何カ月も続くわけです。もちろん学校も、そして大部分の会社や商店・レストランも休みになります。

 ただ、それでも果てしなく感染爆発の日々が続くわけではありません。短ければ2〜3か月でウイルスは国中に広がって、もう大部分の人々が感染者となり、これ以上広がりようがなくなったら、つまり何千万人という人々が感染して何十万人という死者が出て、ほとんどの人が新型コロナに対する抵抗力を持つようになったら、この感染爆発は止まります。実際には何カ月かかるか分かりませんが、ある意味、あっという間の出来事とも言えます。
 それが最悪の流れ。

 一方、全く逆の「最良の場合」を考えても、それほど素晴らしい未来が待っているわけではありません。
 考えられる一番良い状況は、ここ二カ月ばかりの間に日本で起こったことが延々と続くこと――。

 その間ずっと感染に怯えているわけではありませんが、最近一週間のように急激に感染者が増えていくようならみんなで“自粛”して、学校も休みになり家に引きこもり、土日も静かにしている、そんな日々を6週間ほど送ります。

 やがて感染者の数が少し収まってきたら、学校を再開し、多少の人出は大目に見て、やや気持ちの楽な毎日を過ごします。気を緩めてはいけないと言われながらも少し気の緩む時期を過ごしていると、また感染者の数が増え始めますから再び学校を閉じ、土日も家で過ごすようにします。そういうことの繰り返しです。大きな波をいくつも乗り越えていく感じです。
 うまくいけば波は次第に小さくなり、やがて消えます。そして感染が終息する。
 それが最良の場合です。

 それなら一気に広がって毎日何千人もが感染するのと、長く時間をかけて少しずつ感染を広げるのとでは何が違うかというと、確実に言えるのは後の方が亡くなる人がずっと少ないということです。
 テレビで見るイタリアやスペインあるいいはアメリカのニューヨークと違って、時間をかけると一度に病院にかかる患者がずっと少なくて済みますから、患者の治療がきちんとできるのです。

 さらに大切なことは、ずるずると時間を引き伸ばしているうちに、特効薬に近い治療薬が発見されたり予防薬(普通はワクチンと呼びますが)が発明されたりするかもしれません。治療薬ができれば亡くなる人はさらに減らせますし、薬のおかげで入院期間が短くなれば新しい患者に力を尽くせるようになります。
 予防薬が完成すれば新型コロナも普通のインフルエンザ程度のものになってしまいます。

 治療薬については数か月後、予防薬については1年あまりが予定されています。ですからそれまで爆発的な感染を起こさないよう頑張れば、多くの命を失わないまま、この、対新型コロナウイルス戦争を終わらせることができるのかもしれないのです。
 私は何とかして日本が、この最良の道を歩ければと思っています。


【私たちはウイルスに試されている】
 私たちは今、いろいろな方面から試されています。
 誰に試されているのかというと、第一にウイルスからです。

 新型コロナというのは、実に巧妙な、悪賢いウイルスです。
 それが猛毒のようなもので、感染したらあっという間に死んでしまうウイルスだったらむしろ簡単でした。かかった人はすぐにその場に倒れて、誰かにうつす暇もないからです。
 “うつすにしてもひとりがせいぜい”、そんな病気は伝染病とも言えないかもしれません。

 新型コロナはそうではありません。健康な体にじっと潜んで、感染者が活発に動いてウイルスの分身がばら撒かれるのを、じっと待っているのです。そしてどんどん広がって、弱い体(新型コロナについていえばお年寄り、特に病気を抱えているお年寄り)に入ったとたんに、その恐ろしい力を存分に発揮するのです。
 つまり若く元気な感染者は、それと知らずに行く先々でお年寄りを殺していく連続殺人の仕事をさせられているのです。

 このウイルスの悪知恵とどう戦っていけるのか――それがウイルスに試されているという意味です。


【世界から試されている】
 同時に、私たちは世界からも試されています。
 今日まで新型コロナをいちおう封じ込めたと言える国は二つしかありません。中国と韓国です。
 中国は警察を使って市民を一歩も外に出さない強力な都市封鎖と、徹底した検査・治療によって危機を脱しました。たった1週間で病院をふたつも建てたことは覚えている人も多いでしょう。
 政府が絶対的な力をもっていますから、たいていの無理が利くのです。

 中国はまた、優秀な監視システムを使って感染者がどこでだれと会って何をしたか、すべて把握できる国です。この仕組みを使えば誰が誰からうつされたかという感染経路はすぐに明らかになりますし、あの人とあの人とあの人が患者と長時間一緒に過ごしていたから感染しているに違いないと、すぐに治療を始めることもできるのです。すごいでしょ?

 韓国もまた、中国ほどではありませんが感染者の動きをかなり追える国です。住民番号とクレジット・カード、健康保険証などがすべて繋がっていますから、その気になれば患者がどこで何を買ったのかも拾い出せます。スマホのGPSや監視カメラの情報をつなげると同じ時刻に同じ店の同じ売り場にいた人までわかりますから、連絡をして注意を促すこともできます。
 ネット上には感染者が入院前、どこにいてどう歩いたかを示す地図も出されていますから、自分が感染している可能性について考えることもできます。これが韓国の誇る「透明性」です。
 こちらもすごい。

 しかし感染爆発を抑えきれなかった国々、イタリア・スペイン・フランス・アメリカ合衆国となどにはそうした仕組みはなく、人々は自由に動き回り自由に買い物をして、政府に知られることを潔しとしませんでした。ですからこれらの国々では感染経路をたどることは容易ではありません。

 大量の警察官を使って都市を囲い込み、一歩も外に出さないといった厳しい都市封鎖もできませんから、呼びかけや罰金で人々を抑えるしかありません。罰金を取る手続きさえ面倒なのでその場で腕立て伏せ・スクワットなどをさせるという国もあります(インド)。

 それでは日本はどうかというと、おそらくこの国は世界で一番“なるい”国です。
 警察による都市封鎖もできなければ監視システムによる感染経路の確認もできません。市民の外出に関して罰金・腕立て伏せどころか罰自体を与えることもできないのです。

 できるのは“お願い”だけ。もう何回も聞いた「不要不急の外出はお控えください」というあの言葉だけで、感染を封じ込めようというのです。
 それが愚かなことなのか、優れた試みなのかは結果を見てみなくてはなりません。

 この“お願い”に応え、不要不急の外出を控え、3密を厳しく避ける生活に、私たちがどれだけ耐えて行けるのか、キミたちがどれくらい我慢できるのか、それが試されています。

 私たちは証明しなくてはなりません。
 人間は、監視や罰がなくても、正しい行いができるということを。
 今は一時的に譲り渡すにしても、自由は最も大切な価値のひとつであって、
 感染症の恐怖と引き換えに誰かに渡してはいけないものだということを。
 失敗することもありましたが、今も私たちは見知らぬ誰かのために、
 目の前の欲望をじっと我慢できることを。


 その証明はどのようにするのか――。
 感染爆発を起こさず、新型コロナによる死亡者を最小に抑えられたら、それが私たちの勝利です。


【お願いしたいこと】
 この話の最後は私からのお願いです。
 
 今はこの町も予定通り入学式・始業式ができる程度に平和です。うっかりマスクをしないまま外に出ても、そう簡単には感染はしません。学校の周りは畑ばかりですから。

 しかしいつ何どき、このクラスからも新型コロナの感染者が出るか分かりません。インフルエンザや普通の風邪と違って、2週間以上休まなくてはなりませんから、欠席が長引けばすぐに新型コロナだとわかります。いやそれ以前に、街中にうわさが広まってしまうでしょうね。

 私のお願いは、「その日のために、今から覚悟を決めてほしい」ということです。
 感染してしまった友だちに対して、むやみに怖れてはいけない、差別をしてはいけない、からかってはいけない、そして休んでいる間も再び出てきてからも、まるで何ごともなかったかのよう平気で接する、そういう覚悟を決めてほしいのです。
 大人が差別するようなら、その障壁にならなくてはいけません。それがたとえ嫌いな友だちでも、
「俺はアイツが嫌いだが、この件で差別されることからはアイツを守る」
 そう決心してほしいのです。それが人間の行うべき道、人としての務めだからです。

 最後の最後です。
 この先も続く長い長い新型コロナとの戦いで、最前線に立って実際に働いてくれるのは、全国の医師・看護師・保健師・薬剤師・管理栄養士、衛生検査技師などさまざまな技師、そのほか病院や保健所を下支えする人々、そういった医療関係者とそれを取り巻く人たちです。この人たちの働きに常に心を寄せ、尊敬する気持ちと応援の心を持ち続けてほしいのです。
 この人たちにも大切にすべき家族がいます。その家族を私たちが守りましょう。むやみに怖れてはいけない、差別をしてはいけない、からかってはいけないのです。
 何ができるか分かりませんが、応援する機会があったらぜひとも参加して、ありったけの感謝の気持ちを伝えてください。

 以上、これで私の「最後の授業」を終わります。
(おそらく、最後にはならないと思いますがね)


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2020/4/8  11:37

投稿者:SuperT

いつも誉めていただいて、ありがとうございます。
励みになります。

2020/4/7  8:34

投稿者:tsuguo-kodera

 ヤー、またまた素晴らしい!!!
 その通りと今日も思いました。学童に聴かせるべき講話だと思いました。その前提で、私は今朝ショックを受けました。在っては困る慶応の研修医の話でした。岐阜の先生のクラブの感染で、あり得るとは思っていましたが、どうやら現実にあった話しの様。今何を書こうか真っ白ですが、できたら思いを掲載するかもしれません。ストレス解消のためですが。
 感染したらひとたまりもない病持ち夫婦。しかも私は終戦が1週間遅かったら、母お腹で焼け死んで不思議でない川越生まれ。学生や生徒に良い未来が待っていることを無職の死に損ないも願っています。
 良い話を聞かせて頂き、ありがとうございます。

https://blog.goo.ne.jp/tsuguo-kodera

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