2019/12/6

「読解力低下は”テストに飽きちゃったから”か?」〜PISA 2018の結果が公表されたA  教育・学校・教師


 PISA(国際学習到達度調査)2018年版“読解力”惨敗
 その原因が読書力と関係ないとしたら 
 他にどんな理由が考えられるのだろう
 そもそも子どもたちは
 あんなテストに答えられる勉強をしてきたっけ?
 ・・・いや したことはあったな

という話。
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(「試験会場」PhotoACより)

【全国学テで酷い目にあう】
 結論から言うと、私はPISA(OECDによる国際学習到達度調査)の成績は全国学力学習状況調査と関係があるのではないかと思っています。

 全国学力学習状況調査、いわゆる全国学テはゆとり教育の真っ最中の2006年、5年後の指導要領改訂を待ちきれなかった政府が急遽決め、翌2007年から実施された学力テストとアンケートを組み合わせた総合調査です。
 その第一回を、私は小学校で実施しましたが、そこに強烈な思い出があります。

 業者からテスト用紙を受け取り金庫に収めるところからリハーサルを行うという、異常な緊張感の中で実施されたテストだったのに、いざ本番となったらひとりの児童が回答用紙を丸めて床に投げ捨てたのです。
 マニュアルには「児童生徒がテスト用紙を丸めて床に投げ捨てた場合の対処」などというものはありませんから、少々慌てました。

 校内電話で呼び出された私は該当の教室に行ってその子を連れ出しました。見るとボロボロ涙を流しているのです。聞くと、手も足も出なかったとのこと。特に優秀という子ではありませんでしたが「手も足も出ないテスト」はこれまで受けたことがなかったのです。それでプチパニックになった――。
 それが思い出のひとつです。

 もうひとつは夏過ぎに返された結果がとんでもなく酷い成績で、市内14校で断トツの最下位、都道府県別の平均点と照合しても下から二番目相当という酷さだったのです。
 赴任したばかりの学校で様子がいまひとつわかっていなかったのですが、3クラスのうちのひとつがとても荒れていて、勉強どころではない、といったことが影響したようです。
 ただしほんとうに大変だったのはそのあとで、市教委の担当者が大挙して押し寄せ、授業改善だの環境改善だのと様々な提案をし、学校は1年間に渡って市教委の支配下に置かれてしまったのです。

 その甲斐あって翌年は平均を大きく上回り、市内で第2位。それも僅差で1位を逃すという大躍進を果たしたのです――と市教委は思っています。けれど違います。
 それもあったかもしれませんが、真の原因は、ひとつには2回目の学年が前に比べてずっと素直で前向きだったこと、そしてもうひとつは全国学テに向けてみんなで一生懸命練習したからです。


【子どもを泣かせてはいけない】
 私は何としても全国学テの成績を上げたかった。
 もちろん市教委にあんなに悪く言われたのも癪でしたし、1年間“ご指導”がうるさかったこともあります。しかしそれよりもテストの最中に用紙を丸めて床に投げつけて泣くような子を、2度と出したくなかったのです。たかが全国学テです。あんなに子どもを傷つけてはいけません。少しでも多く点を取らせてあげたい。

 また、その子が「手も足も出なかった」理由もよくわかっていましたから、それで練習する気になったということもあります。

 やたら記述式が多いという点だけでも、それまで子どもたちが受けてきたテストとはまったく違います。さらに漢字や語彙に関する若干の設問を除けば、答えはほぼ間違いなく例文の中にあるいつもの国語テストと異なり、全国学テの場合は手紙だの図だのを関連付けて自ら説明しなくてはなりません。

 ひとことで言えば、今までとはまたく違うテストです。
「いつもと違うこんなテストなんだよ」
と知っているだけでも泣かずに済みます。
「記述式に怯えて白紙で出しちゃだめだよ。1行でも書けば部分点がもらえるからね」
 そう教えてやるだけで平均点は1点以上あがるかもしれません。


【「先生! 全国学テは練習によくなじみますよ!」】
 そう考えて類似の問題をいくつか用意し、翌年の1月からテスト対策を始めたのですが半月もしないうちにやめてしまいます。中心に活動してくれた少人数担当の先生のこんな提案があったからです。
「先生! 全国学テの問題、練習によくなじみますよ。すぐにできるようになるから3カ月もやらなくたって大丈夫。むしろ直前に頑張った方が忘れなくていいかもしれません!」
 彼女(あ、女性です)もテスト対策なんかより普通の授業をしたいのです。さっそく提案を入れて4月に入ってから2〜3回「直前対策」を行い、当日を迎えたら前述の通りの大収穫だったわけです。

 繰り返しますが、前提として前向きな素直な子どもたちがあったことは事実です。道具としての基本的な知識もある程度はしっかりしていました。しかしその道具の使い方(これまでにないテストに対する対処の仕方)を知らなければ、実力は出せなかったのです。


【熱狂の末、飽きちゃった】
クリックすると元のサイズで表示します 全国学テがそれほど異質なテストになったのは、言うまでもなくPISAの問題を模したからです。PISAで問われる能力を「PISA型学力」と名付けるなら、そのためのテストも訓練も普段の授業ではしていません。

 その意味で2007年開始の全国学テはPISAの順位を上げるうえで有効だったのかもしれません。私の勤務校が市教委にガンガン締め上げられたように、成績下位の府県でも自治体単位で締めつけが行われたはずです。そして私が考えつくくらいですから多くの自治体・学校でテスト対策を行ったに違いありません。何しろ全国トップの秋田県ですらやっていたのですから(秋田県の試験対策については2009年ごろまで県教委のサイトに載っていましたが今は見られません)。

 ただ全国学テを通して行われた狂気じみた競争は10年もしないうちに終わってしまいました。下位県の底上げが成功して平均点との差が少なくなったことや、真面目に勉強するだけではどうあがいても順位に大きな変動が生まれず、上がっても誰も誉めてくれないことがはっきりしたからです。上位県は相変わらず上位で下位県にも大きな変動はない、マスコミも興味を失う。そしてPISA型学力を本気で追及する試験対策も甘くなる――。

 PISA2015や2018での順位低下は、学力ではなく、キーボードの扱いも含めた受験技術の未熟さ、そうした指導の欠如に原因があると私は思います。順位低下を技術論として考えないと、PISA 2012での読解力の急上昇も2018の急降下も説明できません。本来国全体の学力なんて、そう簡単に上がったり下がったりしないものなのです。

 
【まとめ】
 PISAにおける“読解力”の低下は読書量の減少が原因ではありません。子どもたちの読書量はここ20年あまり確実に増えているし今回のPISAでも「日本の生徒は『読書は、大好きな趣味の一つだ』と答える生徒の割合がOECD平均より高いなど、読書を肯定的にとらえる傾向がある」2019.12.03「OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」文科省・国立教育政策研究所)と報告されているくらいです。
 
 PISA型学力を培う場であった「総合的な学習の時間」が「反ゆとり教育」の影響で三分の二に減らされたことが原因とも考えられますが、むしろ直接的な受験技術の習得に甘さがあると考えた方が順位の乱高下を説明しやすい。
 それが私の結論です。それにしても・・・。


【マスコミ諸君! キミたちは大丈夫か?】
 一昨日、「PISA調査 日本の読解力低迷、読書習慣の減少も影響か」という表題の記事を上げた産経新聞もそうですが、昨日の地方紙にもこんなトンチンカンな記述があったりします。
 文章を批判的に読み、自分の考えを表現する力が足りない。以前から指摘されてきたことだ。
 読解力は全ての教科に不可欠である。
(中略)
 真の読解力は人間への洞察が必要だ。調査では小説や物語などフィクションをよく読む生徒が高い読解力を示した。
2019.12.05京都新聞

 マスコミ各社の記者たちは、前出の「OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」をどう読んだのでしょう? 
 そこにはこんなふうに書いてあるのです。
◆読解力の問題で、日本の生徒の正答率が比較的低かった問題には、テキストから情報を探し出す問題や、テキストの質と信ぴょう性を評価する問題などがあった。
◆読解力の自由記述形式の問題において、自分の考えを他者に伝わるように根拠を示して説明することに、引き続き、課題がある。

 日本の一流紙のジャーナリストたちが、15歳のド素人と同じ問題性を抱えていてどうするのだ!? そんなふうに私は思います。

(この稿、終了)



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