2019/11/7

「教員は金や地位では釣れない」〜教員の給与と出世B  教育・学校・教師


 東京では校長が退職後も再任用校長として留まるため
 副校長や主幹教諭の昇任が抑えられているという
 なぜそんな意欲を削ぐような制度があるのか
 調べたらいろいろなこと分かってきた

という話。
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(「東京都庁」PhotoACより)


【退職校長が副校長にかぶさる】
 教員の給与と身分に関するとても分かりやすい記事ですよ、と紹介したネット記事「副校長42万円、校長45万円…『小学校教員の平均給与』調査」。実は東京都民ではない私にはとても分かりにくいところがありました。最後の部分です。
 もう一点、教員のやる気、質の向上に関連して問題提起をしたいことがあります。それは校長の「再任用制度」についてです。
 現在多くの校長が定年退職後、再任用校長として現場で働き続けます。校長としての経験は大変貴重なもので、それを引き続き発揮してもらうことは現場としては心強いことです。

(中略)
 しかし、そのために校長職の椅子があかず、副校長のまま退職を迎えてしまう方が大勢います。なかには校長試験に受かったにも関わらず、校長になれずに定年退職を迎えてしまうのです。
 そのような現況を見てしまうと、昇任試験を受ける気力も起きません。主幹教諭や副校長試験の倍率が限りなく1倍に近いのは、このような理由も関係しているのではないでしょうか。


 確かに年金支給が65歳に引き上げられてからの教員の再就職は大きな問題で、多くの退職教員が再任用に応募しています。校長経験者といえど事情は同じですから、働けるうちは働きたい、できれば慣れた学校勤務を続けたいというのが人情です。実際、多くの道府県で元校長が再任用に手を挙げています。しかし他道府県の場合、ほとんどは一般教員としての再任用で校長のまま残る例は稀なのです。
 引用記事が示すように、退職校長がそのまま残ったら、校長の席が空かず、一説に月の超過勤務300時間とさえ言われる副校長はいつまでたっても副校長のままです。それではあまりにも気の毒です。

 記事の筆者は、
 校長としての経験は大変貴重なもので、それを引き続き発揮してもらうことは現場としては心強いことです。
などと言っていますが、過労死寸前の副校長がそのまま定年を迎えてしまう状況は、人倫にもとるとさえ言えます。しかしどうして再任用校長など認めてしまったのでしょう。


【安易に副校長を校長にすれば質が下がる?】
 東京都のサイトを覗くと、
 教育管理職の大量退職が続く当面の間、退職する優秀な教育管理職を再任用教員等として校長・副校長に活用することにより、年齢構成の平準化を促進する
という記述に出会います(「教員任用制度あり方検討委員会報告」)。
 記事が主張する大量退職というのがどれくらいかというと、参考資料では小学校長の退職のピークが本年度で290人、中学校が来年度で154人ということになっています。ちなみに17年度の定年退職者は小中それぞれ174人と50人でしたから大変な数です。

 しかしこうした話を聞けば当然出てくるのが、
「だったら副校長を片っ端昇任させればいいじゃないか」
という考えです。当たり前です。
 東京都のサイトは「大量退職分を安易に副校長で穴埋めすれば校長の質が下がる」と言わんばかりですが、校長になるべき副校長だってすでに選考を経てきた人材です。そう簡単に質が下がるはずはありません。


【副校長選考は1.1倍なのに校長選考が4〜5倍という怪】
 実は東京都の場合、大量退職分を下からの昇任で補うことができないのです。
 とりあえず人数が足りない。

 引用記事にある通り、主幹教諭や副校長試験の倍率が限りなく1倍に近い状況。正確に言えば両試験とも合格率はここのところ1.1倍程度しかありません。
 主幹教諭選考(現在は4級職選考という形での主任教諭選考と一括選考)に限って言えば、数字自体は合格率1.1倍になっていますが、いわば200人必要なところに110人しか応募してくれず、だからといって全員合格させるわけにもいかないので10人だけ落として1.1倍にするという、「水増し」ならぬ「水減らし」選考です。応募者がいないのです。
 主幹教諭が増えないから副校長への昇任希望も増えない。

 先ほど教育管理職の大量退職が続く当面の間という東京都の文書を引用しましたが、それは表向きで、「主幹教諭のなり手がいない」「だから副校長のなり手もいない」といった状況は主幹制度の始まった2000年度からずっと続いていたのです。おまけに副校長からの希望降任まで出て副校長の需要は増すばかり。

 毎年、校長の何割かは定年退職していきますからその席も埋めなくてはならないのですが、そんな状況で安易に校長に昇任させてしまうと副校長のポストに大きな穴が空きかねないのです。
 民間人校長がいるくらいですから校長職は誰にでも務まりますが副校長はそういうわけにはいかない――。
 そこでついに2007年、東京都はそれまでどこの道府県もやらなかった「副校長の校長への昇任を遅らせて、その分を退職校長で補う」というやり方に踏み切ったのです。

 主幹教諭選考も副校長選考も1.1倍なのに校長選考のみ4倍〜5倍という悲喜劇はこうして生まれました。副校長が昇任してしまうとその席を埋める人がいないので無理やり留め置いている、というのが実情です。副校長はいくら昇任試験を受けてもなかなか合格することができない。最初から合格させるつもりがないからです。

 2007年と言えば学校教育法を改正して副校長や主幹教諭を全国に広めようとした年。そのときすでに東京都の職制は破綻し始めていたのです。

 しかしそれにしても、主幹教諭、副校長、さらにその先にある校長という職は、東京都の教員にとってそこまで魅力のないものなのでしょうか?


【教員は金や地位で釣れない】
 もともと東京都には一流企業がごまんと集まっていますから、それに伍して有能な人材を集めようとすると初任給もかなり高く設定しなくてはなりませんでした。それに引きずられて他の教員の給与もそこそこ高かったのです。

 引用記事の言葉を借りれば、「子供たちがより良く育ってくれること」は、教師にとって「やる気・喜び」の源泉である――そんなことを考えている教員たちが、最初から生活に困らないだけの給与をもらっていた、それが東京都の教員の基本的な状況です。おまけに彼らは忙しすぎて遊ぶ暇もありませんから収入に対する飢餓感が薄い。
 そんな人たちを金や地位で釣ろうとしたのが間違いだったのです。
 おかげで東京都は主幹教諭制度発足以来、一度も必要人数を満たしたことがありません。副校長は慢性的に不足気味です。そして一度でも副校長になったものなら、それは蟻地獄のようなもので二度と這い上がれないかもしれないのです。

 今日も東京では有能な教員が主幹教諭や副校長として、それこそ激務と責任に押しつぶされそうになりながら「子供たちがより良く育ってくれること」を頼りに、使い捨てになろうとしています。私にはそれが見えるような気がする。

 東京都の教育人事は、今後どんな方向に進んでいくのでしょう。
              
                       (この稿、終わり)



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