2016/12/21

「ポスト真実とおでんツンツン男の物語」B  教育・学校・教師


【そこは秘所】
 かつてネットの社会は匿名が基本でした。営業に使う人を除けば普通はハンドルネームを使い、身元は極力知られないように苦労しました。かくいう私も文章内で細かくウソをつき、粉飾し、直接話をしたいという切実な願いにも背を向けて自分のサイトやブログを守ってきました。
 それはネットの世界で自由に生きるために、リアルな世界を遮断しておく必要があったからです。ネット上の責任をリアルな世界で取らされるのはかなわないし、逆にリアルな世界の人現関係に縛られてネット上で自由にものが言えないこともいやだったからです。
 最大の悪夢はPTA総会で、「この学校の教師にはネット上でこんな発言をしている者があるが、校長はどう考えるか」と指摘されることです。私個人が責められれるなら辞めれば済むことですが、学校の責任にされると様々に面倒です。
 退職した今はかなり脇も甘くなって一部の人にはサイトやブログの存在を知らせたりしていますが、それでも不特定多数に公示する気になれないのはそのためです。

【2013年のバカッター】
 ところがツイッターだのフェイス・ブックだのといったSNSがネットの主力に躍り出てから事情が変わってきました。参加者はあまり匿名性を意識しない、仮に偽名を使っても、「〇〇ナウ」とか言って位置情報をガンガン出したり画像をバンバン貼り付ける。文字情報と違って画像や動画は一場面に含まれる情報量がハンパでありませんから、かなりのことが判別できます。
 写真の背後を走るバスのデザインから都道府県が類推できる、トラックの横にかすかに見える「○○土建」からさらに場所が絞り込まれる、そんなふうにしていくと場所はほとんどピンポイントで特定される。
 おまけにネット上ではニューヨークと隣町の区別がつきませんから、「こんな風景、誰が見たってわかるはずがない」と思うその街並みを、今、歩きながらスマホと見比べている人もいたりするのです。しかしその危険さは掴みにくい。
 2013年の流行語大賞にも入選(4位)した「バカッター」はその“掴みにくさ”にはまり落ちた若者たちの騒動で、彼らは自分たちのアップした画像が無限に拡散して回収できないこと、匿名で出した情報もあっという間に発信元を突き止められてしまうこと、そしてリアルの世界で責任を取らされる場合のあることを、のちに身をもって知ることになるのです。
 やっていることは数十年前の若者(つまり私たち)と大差はないのに、反応や影響力、しっぺ返しも数千倍といったところです。

【ヤツは何者なんだ?】
「おでんツンツン男」はそのバカッターの後継には違いありません。しかし彼が特異なのは、コンビニのおでん鍋に指を入れて「ツンツン」と声に出しながら突っつく動画を、自らアップしてそれがネット上で拡散し炎上しても全く意に介さなかった点です。むしろ楽しんでいた。
 自ら姓を名乗り、「2ちゃんねる」に取り上げられた言っては喜び、鼻をほじくりながら「ハンセイしてま〜す」とさらに挑発する――2013年のバカッターたちが炎上の時点でうろたえて画像や動画を消し、アカウントも削除して何とか自分の形跡を消そうとしたのとは対照的で、リアルな世界のマスコミが押し寄せ、警察の手が伸びて初めて慌て反省をしたみたいですが、その直前まで、まったく事態を理解せず、来るべきものに思いを馳せることもできなかったようなのです。
 ヤツは何者なのか?

 28歳、プロのスノーボーダー、2児の父、妻は美人モデル――まんざら社会の欠格者でもなさそうです。母親の言う通りのただの“アホ”ならいいのですがそうでないとしたら怖ろしいことです。
 商品のおでんに指を突っ込んで廃棄処分に追い込み、さらに鍋の洗浄もさせる、風評による営業不振にもつながりかねない――そうした威力業務妨害という客観的事実よりも、「面白いこと」「受けること」が優先される世界、彼はそこに生きていたわけですから。

                                  (この稿、終了)
 
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