Spiritに乗っていると、よく「乗りにくくないのですか?」と聞かれます。普通の自転車とは、やはり少し違うので、最初は戸惑うのですが、すぐに慣れます。普通の自転車に乗れる人ならすぐに慣れる程度の違いだと思っています。
一番の違いは安定性だと思います。普通の自転車に比べると、直進安定性が低い。特に走り出しの低速時にはふらつきます。だから、狭いところをすり抜けるときなどは特に慎重に、足を地面に降ろしてゆっくり進むなど、注意が要ります。
私は工学部出身、しかも卒研が制御工学でした。乗物の安定性は専門です。コンパクト・ロングホイールベースのリカンベントであるSpiritは、なぜ安定性が悪いのかを考えます。
昨日、八王子市内の創価大学横の長い坂道を降りるときに挙動を観察してみました。ペダルを全く漕がないでも、速度は40km/hに達しました。タイヤの回転によるジャイロ効果による安定性増大効果は十分のはず。ペダリングによるヨーの擾乱も全く入らないので、Spiritの素の特性が観察できます。この状態で、上半身に無駄な力が入らないように注意しつつ、ハンドルを握る手を緩め、両手を離してみました。
Spiritは、3秒程度真っ直ぐに走り続けますが、徐々に左右どちらかにゆっくりと逸れていきます。3,4回繰り返しても同じ。これは、静安定は中立よりも僅かに不安定である、と表現されます。
不安定なSpiritが真っ直ぐに走ることができるのは、人間がハンドルを操作し、逸れて行かないように修正操作を行っているからです。専門用語を使って言うと、人間コントローラによる閉ループフィードバック制御によりシステムが安定化されているから、ということです。
低速での安定を、人間コントローラを含めて考えてみましょう。
普通の自転車では、人間コントローラによる操作方法は、ハンドル操作の他に、腰を曲げて上半身を左か右に傾ける、という操作も可能です。つまり普通の自転車は入力が2つあります。さらに言えば、普通の自転車で超低速で走るときは腰を浮かしてバランスを取るでしょう。アレは、さらに制御入力を1つ増やして安定化しているわけです。
これに対してSpiritでは、背中をシートにあずけているために上半身を左右に傾けることはできません。腰を浮かすこともできません。つまり入力はハンドル操作の1つだけ。Spiritは、人間コントローラによる安定化効果についても、普通の自転車より不利ということが言えます。
ですから、私は低速で狭いところをすり抜けるときは背中をシートから起こして、上半身を左右に動かして、真っ直ぐ走るように操作しています。少しはマシになります。(専門用語を使えば、「特性方程式の根が左半面に移ってきた」状態になります。)
人間コントローラを含まない、Spiritの素の特性が何故不安定なのか、については、またおいおい書きたいと思います。

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