(前回の続きです。 思うところがあってメキシコの会社をやめ、日本に帰ることにしました。ついでのことですので、前の年に実習で働いていたカリフォルニアの農場に寄ってから帰ることにし、メキシコシティーの空港から飛行機で太平洋岸の街マサトランに向かいました。)
無事着陸。
田舎の小さな空港なので飛行機にタラップが横付けになる。ドアをぬけ外に出る。
ざざざぁ・・・おおっと!肺に空気が入ってくる!
そうそう標高2300メートルで暮らしていて、久しぶりの平地、飛行機で一気に下りてきたから、よくわかる。
空気が濃い!肺が空気で満たされる!空気の味がする!
空港からマザトランの駅まで移動。今度は列車での旅になる。
待つこと数時間。あたりまえのように2時間おくれで列車はやって来た。こんなのもう慣れっこ。文句なんかないさ。これに乗ってしまえばあとは国境まで一本だ。
一等のキップを買ってある。
でかい荷物を抱えて一等客車に乗り込む。・・・・ぎっしりお客が乗っている。何だこりゃ。座るとこないじゃん。こんなこともあろうかと一等のキップ買ったのにぃ・・
二等客車はいったいどうなっているんだろう。
しょうがない。これから24時間、しゃがんだり、足踏みしたり何とかしのごう。
それにしてもハラへった。駅に止まるたび頭の上にカゴを乗せた売り子さんが列車の窓まで近寄ってくるけれど、俺が食べられそうなものは売ってないなぁ。あ〜ハラへった。
列車が北へ進むにつれ、お馴染みのメキシコの風景になってくる。
乾燥したあまり草も生えていない大地に日本の電柱ほどある大きな柱サボテンが立っている。
あいかわらず座るところもなく立ちっぱなしだ。
またしばらく行くと停車した駅で陸軍の兵士が乗り込んできた。
手に小銃をかまえている。長旅でことばを交わすようになった他のお客が武器の密輸がないか調べるんだと教えてくれた。
二人組の兵士の若い方が俺のカバンに目をつける。(なんだ俺より若いよな。若いっていうかまだ少年だよな。)調べるから開けろと言う。他のお客に一気に緊張が走る。モメたくないからここは応じる。開けたところで出てくるのはシャツとパンツと歯ブラシと日本語の本。みやげに買った田舎の器。
兵士が降り、また列車は走り出す。
おかげで客同士で話がはじまった。「へ〜これが日本語かい。どっちから読むんだい。」「何でここにいる?どこへ行く?」「穴が空いているコインがあるってホントかい?」わいわいしてきた。
メキシコシティーのスラムを歩いていたときも感じたことだけれど、この国の人々は貧しさや困難の苦しみを分け合う気持ちがある。
「お前苦しいのか?俺も苦しい。わっはっはー!」う〜ん言葉で表すのは難しいな。不思議なやさしい気持ち。
この列車の中にも漂っているこの感じ。同じ状況に日本人がおかれたら・・また違う行動をとるのだろうな。
立ちっぱなしの俺のそばで座っているローティーンの女の子がいた。
この珍しい東洋人の男が何も食べていないのを心配してクッキーをひとかけくれるという。
ありがとうこれなら食えるよ。ついでに
「シエンタテ アキー。」
君の隣りに座ればって?ありがとう。でもその10センチの隙間じゃ、多分俺は座れない。ありがとう。
(次は国境の街メヒカリの話に続きます。来週火曜日の予定です。)