ある日の午後
「〜〜くまのぉ〜〜もくげきがぁ〜〜ありましたぁ〜〜ちゅういぃ〜〜してくださいぃ〜〜(熊の目撃がありました。注意してください。)」
という防災放送が町内中に流れてくる。
耳を澄まして聞いていると場所は農場のすぐそば。
・・・そっか。またやって来たんだね。
前にも書いたけれど農場の周りには熊がいる。
http://air.ap.teacup.com/satofarm/329.html
農場がある場所は、縄文の時代から人が住んでいる古い集落で、田んぼの基盤整備(小さな田んぼを集約して大きくし水路をコンクリート化して大型機械が使えるようにした土木事業)の時は、ちょっと作業が始まると必ずどこかしらで遺跡や住居跡が出て、そのたび作業が中止になった。
街道から離れた所にある集落で、二本の川に挟まれ、そのうちの一本(尾白川)の側は、切り立った崖になっていて天然の要塞になっている。
そういう古い集落の北西の角、元は桑畑だった所で鶏を飼っている。
(おそらく集落から見て鬼門の方角で、牛塚と呼ばれる小さな塚があるから、もしかしたらそこで結界してあって、その先は神様が住む彼岸だったのかもしれない。)
で、熊がときどきやって来るのはその牛塚の向こう。昔の集落の外側。
今は新しい広い道が出来たり、河岸工事で遊水地を作っちゃったからさっぱりわかんかくなっちゃってるけど、こんこんとした湧き水が流れていたり、胡桃の木があったり、どんぐりの木なんていっぱいある場所だった。
南アルプスと中山(887m)を結ぶケモノ道でもあって、熊だけじゃなく鹿、イノシシ、キツネ、タヌキ、ウサギ、アナグマ、リス、テンこのあたりにいる動物はなんでもいる場所だった。
もう子供がいるような年頃になった地元の連中がまだ中学生だった頃にもたまに朝、出くわしてたけど、何年か前に一度ハンターに撃たれてから見かけなくなっていたんだけどね。
そっか。またやってきたんだね。
熊の事は、この写真集が詳しい。よく書けてると思うし、見てて楽しい。
http://www.amazon.co.jp/gp/aw/d.html?a=478758605X
熊もなぁ・・・大変だよなぁ・・・
この村に限らず、日本全国どこでもそうなんだけどサ。
田んぼがブルドーザーで四角く作り直されて(水や風の流れが変わって)、山の砂利を取り尽くして(植生が変わって)、山の神社のさらに上が切り開かれて別荘が建ち(車の音にも慣れちゃって)、人がいっぱい移り住んできた。
そりゃ熊も暮らしにくいよ。
これからどうなるんだろうな。
ただでさえ少子化で学校統廃合が進んでいるのに、別荘で子育てしてるわけじゃなさそうだからなあ。
すごい勢いで人が減り、山はさらに荒れるんだろうな。
どんな村になっていくのか、さっぱりわからないのは俺だけか?
土の上なんかで鶏を飼って、懐古趣味?って思われるかもしれないけど、考えている事はいつも未来の事。
小さな農場で、生産量もすんごい少ないから、誰の相手にもされないんだけどサ。
餌の事、投薬の事、飼育方法の事、飼育密度の事、流通の事、とかとかとか。
どういう養鶏が「未来的」なのか?考えてはやってみてる。
ここで農場を始めて30年目。
何も変えられずにいるけれど、何もしていないわけじゃない、考えがまとまらないわけでもないけど、成果はまだ少し先。
ふぅ・・・
そんな時に熊が戻ってきた。
誰にも相手にされてないような気もするけれど、熊だけは待っていてくれて、様子をのぞきに来たような気もする。
となりのツキノワグマ。
ごめんな、もうちょっと待っててな。
いったいいつになったら人間は森や山と上手く付き合えるようになるんだろう?と思うけど、もうちょっとだと思うんだよ。
もうちょっとしたら上手く付き合えるようになると思うんだよ。
それまで、車と鉄砲撃ちに気をつけて、しのいでくれるとうれしいよ。
