(今回、個人情報保護のためちょっとフィクションです。)
たま〜に、農場にやって来るイッタ君という元気な少年がいる。
ずっと小さい頃から、たま〜にお母さんに付き合わされて卵を買いにやって来る。
たま〜にだから、会うたびぐいぐいデカくなって、もう中学2年生。
少年と呼ぶにはちょっと無理があるようになってきた。
少し前、そのお母さんとイッタ君の話になった。
「イッタ君元気ですか?」
「いや、それがぁ・・・・・」
当地の中学校は各学年一クラスの小さな学校で、全部で7〜80人。
学区も広くて一番遠い子は6〜7キロの道のりを自転車で通う。
南アルプスの山々の裾に広がる田園の農道を朝夕自転車が連なっていく。
放課後、野球部の練習を終えて同じ方面に向かう仲間と校門を出たイッタ君は、最初の田んぼを左に曲がり丘を上る。
農協のライスセンター(精米工場)の横を抜けると雑木林の茂みになっていて、そこから下の釣り堀までが下り坂。
その下り坂が、結構な下り坂で、一応舗装はされているのだけれど、それはそこ、農道だもんだからデコボコ舗装で、勢いがつくとかなりのスリルだ。
車が少ない農道で、舗装道路の下り坂で、でも適度にデコボコがあって。
そうなると男子中学生がやることは一つだ。
うぉ〜!
と雄叫びを上げながら野郎どもはその坂を下る。
上級者になるとさらにべダルをこぎながら下る!
その日、ちょっとだけ運が悪かったイッタ君は、もう坂を降りきるあたりで釣り堀のおじさんに「お〜いイッタく〜ん。」と声をかけられてしまった。
返事をしようとしておじさんの方を向いてしまい、踏み込むはずだったべダルがなくて・・・
空を飛んだ。
「まあ、声かけられたのが不運でしたね。男子ってのはいっぺんに二つの事は出来ませんからね。」
「何か血だらけになってあちこちの人にダイジョウブ?って声かけてもらったみたいなんですけど、ダイジョウブデスって言って帰ってきたみたいです。」
「中学高校時代の男子は不死身ですから。」
「そ、そうなんですか?」
「はっきり言ってヤローってのは馬鹿ですから。俺が自分でそう思いますもん。」
「ば、馬鹿?」
「もちろん個人差はありますよ、けどそうなんですよ。そういうもんだと思ってつきやってやってください。同時にいろんな情報処理出来ないですから。そういう生き物ですからイッタ君も。
鶏もそうでね、オンドリなんてのは・・・」
オスってのは、おしなべて馬鹿なんだと思う。
ヒヨコから育てているとオスっていうのはホントにアホだなぁと思う。
小さなとき臆病なのはオスのヒヨコだし、中雛の時何かやらかすのもそう。
周りが見えてないというか、自分の事がわかってないというか・・・
でも。
長く鶏を地面の上で平飼いで飼っていて。
そのアホさかげんに種としての理由があるんじゃないかと思うようになった。
例えば夜、キツネに鶏小屋を壊されて、部屋の中に入り込まれて群れが襲われたときは、雌鶏を奥にやり雄鶏が戦いを挑む、普段から小さな喧嘩をして順位付けされている一番強いのが行き、一番がダメなら二番、二番がダメなら三番が戦う。
あきらかに自分より大きく強い、牙を持つ相手に、威嚇のダンスと羽根のパンチと爪のキックで立ち向かう。
ね、アホでしょ。
そんなの勝ってこないよ。ダンスと羽根と爪だよ。
朝それに気づいて部屋に入ってみると、やられているのはオス。(キツネは首から上が好物だから)首のない雄鶏がころがっている。
相手や自分のサイズやいろいろを考えて行動するように最初から出来てないんじゃないか?って、だから思う。
(もちろん個体差はあるし、性的特徴もグラデーションだから、大雑把な話だし、それを理由に雌性を理解しなくていいなんて社会的な話なんかじゃ全然ない。生物の原始的な性の話)
「でも聞けばみんなあちこちでやってるみたいですね。」
「ですね。この前はリューちゃんも背中をべろっとやったみたいだし。」
「背中!どうやって??・・・」
たしかに、この山すその村じゃどっちの方向に行っても学校とは坂になってる。
んふふ、トライしたくなる坂がどの通学路にもあるんだよね。
そうやって、すりむいて血が吹き出て、ここらの中学小僧どもは、傷の痛みと生血の気持ち悪さを知る。
そうやってすっころんで、知らないうちに暴力の本質を知る。
その現実感がいつか大人になった時、力の抑止力になればいいと思う。
自制できるかっこいい大人になってくれればいいと思う。
イッタ君もリューちゃんもユイゾウも。
ジュン君マー君はまだ? いっぺん飛んどけ!
