これまた少し前。
農場にタマゴを買いにいらしたご近所さんとおしゃべりになる。
東京に営業に行って来たばかりで・・と言うと
「営業ってどうやってやってるんですか?」
と聞かれる。
そのご近所さん、自営業だから気になるようだ。
どう?ってったって、ネットであたりをつけて、あとは飛び込み。
話がついてるなんてことはほとんどない。
その飛び込みってのがなぁ・・
こんなこと書いてたら営業職の人に笑われちゃうんだけど、苦手なんだナ。
お店の前に着くとドキドキしちゃうし、上手く説明出来なかったり、値段が高いとか言われるとへこんじゃうし。
ま、でもこれしか知らないからやるんだけどね。
資料作って、お店のじゃまにならないように隅っこで。
相手のこと考えながら、思いの丈をぶちまける。
ホントにね、これしか知らないから、ぶちまけるしか。
で、たいがい、
ごめんなさい・・
他から仕入れてるところがあって。・・(いまつきあってる人がいて)
近くに行ったら立ち寄らせてもらいます。・・(いつまでも仲のいい友達でいましょう)
ってことになる。ふぅ〜。
なんだか青春時代の恋愛のようだ。
タマゴだからね、買う側にすればどこも大差がないかもしれない。
だから自分の思いを伝える。
農業をやりたいんだ。農場をやりたいんだ。にわとりを飼いたいんだ。いいタマゴがつくりたいんだ。
その日はずっとふられっぱなし。
住所たよりに行ってみたらもう違う店になってたり。
何軒目か。
その店は古い店だから名前は知っていた。
だけどぜったいどこかの平飼いタマゴが入っているだろうから行ったことはなかった。
坂を上ってお店を見つけ、のぞいてみる。
あれ?なんだか人の気配がないぞ。
声をかけるとご主人が出てきた。僕より一回りぐらい年上の感じ、俳優の萩原流行に似てる。
ここでも資料を広げて必死にタマゴの話をする。
よく聞いてくださって、農業の話や、20年ぐらい前の有機農産物流通業界の話でもりあがって。
それから一呼吸おいて。
「うちでも何種類かタマゴが置いてあったらおもしろいと思うよ。でもね、こう景気が悪くてはそういうこと出来ないんだよねぇ。・・・・それに、実は女房が去年亡くなってサ。」
え?そうなんだ。
「急だったから、がっくり来ちゃってね。仲間やお客さんにはげましてもらって、やっとね・・。」
そうこうしている間も、ときどきお客さんがやって来ては、おしゃべりをして買い物をしていく。
常連さんが、まるで家族のように、ゆったりと。
「今日、この後は?何軒か予定?大丈夫?じゃいいか。」
それからもう少しおしゃべりして、別れ際、
「サトーさん、おかーちゃん、触ってる?触んなきゃダメだよ。触ろうと思ったって死んじゃったら触れないんだからね。」
営業かぁ・・
思いを伝えようと回っていたら、思いを伝えられてしまった。
恋愛のような営業をしていると、胸が苦しいけれど、ときどきこうして大人を知る。