(今の養鶏は分業化されています。だから普通たまごを採る養鶏場はたまごを産み出す少し前の大きさの大ビナをヒヨコ屋さんから導入します。うちは、思うところあってヒヨコのときから自分の所で育てているのですが、ある時「大きくならないヒヨコ」がいました。
http://air.ap.teacup.com/applet/satofarm/200808/archive
それは高度に交配選別される家畜では珍しいことでした。何年かに一度あるかないかという、大きくならないヒヨコを飼っていました。)
その大きくならないそのヒヨコはいつまでもウブ毛のままで、同い年の体の大きな個体につつかれ群の中ではいつも下位になっていた。
あまりにつつかれ、そのままでは衰弱して死んでしまうので、群から離してその次に産まれた年下の群といっしょに飼っていた。
ところがその次の群でもウブ毛のままで、他のヒヨコの方が大きくなって、つつかれるようになってしまった。
それで。
鶏小屋から出して、群から外した。外で自由にさせておいた。
何が原因で大きくならないのかは、わからないのだけれど、こんな場合そんなに長生き出来ないことが多かった。
それでも「飼いたい。」ということで水とエサ鉢を置いてやり、自由にさせておいた。
チビという名前がついた。養鶏場ではありえないことだけれど、はじめて名前のついたヒヨコを飼うことになった。
外に出してしばらくは、とても具合が悪そうで、やっぱりダメか、と思っていた。どこでどう死んだか、は教えなければいけないと観察していたのだけれど、何とか自力で持ち直した。
夜、キツネやネコやイタチにやられてはいけないと思い、暗くなる頃探すのだけれど、どこにいるのか全然わからない。ホントにゼンゼンどこで寝ているのかわからない。
朝農場に行きどこからか出てくるまで少し心配した。
チビは農場の中で一番安全な場所を見つけて、そこで寝ていた。
それは番犬の犬小屋の板一枚はさんだ反対側の隙間だった。犬もそれを許していた。
それからずっと農場の中をウロウロしていた。
同い年のヒヨコは成鶏になりタマゴを産み始めた。その次の群もタマゴを産み始めた。
うちは平飼いにして地面の上で自由にして飼っている養鶏だから、ニワトリ本来の行動はかなり解っているつもりだった。けれどそれは鶏小屋という屋根の下の範囲のことなんだと気づかされた。
ニワトリは地面で暮らす動物だ。カラスやトビに上空から襲われることがある。
トビが農場の上をホバリングしているときは、屋根の下から出ることはなかったし、屋根と屋根の間の移動は走った。
思った以上に上空の事は見えているし、注意もしている。野生の(?)ニワトリは目がいい。
「あれ?大きくなったねー。」
農場にタマゴを買いにいらしたお客様がおっしゃる。
「そうですね。ものすごくゆっくりですけどねー。」
と笑って答える。
北風が吹き、雪が降り、チビは農場をウロウロしていた。
「なんかこの頃大きくなってこない?」
「動きもゆったりしてきたしね。」
「かっしりしてこない?」
「してきた。最近俺に近寄ってくるんだよね。う〜ん、ひょっとして・・」
「よく食べるよ。それに何か場所を探してる。」
「薄暗くて、狭いとこ?」
「そう。」
立春が過ぎ、しばらくした日。
チビがタマゴを産んだ。
孵化後140〜150日でタマゴを産み出すとされるこの品種で、360日かかって大きくなり、ついでにタマゴを産み始めた。
チビは大きくならないヒヨコじゃなくって、ものすごくゆっくり大きくなるニワトリだった。
ニワトリがタマゴを産んだ。
「それが目的の養鶏場なんだからそんな当たり前なこと・・」いやそうじゃなくって。
群から離れざるをえなかったヒヨコが生き抜いて大きくなった。
世代をつなぐタマゴを産んだ。それがうれしくって。
家族で喜んで、チビを知っている親戚の小学生にそれを知らせる葉書を書いた。
ご近所のお客様もきっとみなさん喜んでくださるにちがいない。
ただ一人、ちょっと迷惑顔なのが、自分の家を産卵場所にされてしまったうちの犬。
チビは犬小屋の中でタマゴを産んでいる。
もう春なんだな。どうかお風邪など召されませんように。