ここでこんな仕事をしていると、あまり人に会うことはない。
ほとんどいつも、半径10メートル以内にいるのは、ニワトリか、犬かだ。
何年も「はじめて会う人」がなかった年が続いたこともあった。
信じてもらえないかも知れないが、山村でこんな仕事をしていると、本当にそんなことがある。
たまごの販売を強化しなければならない、ってんで、いわゆる営業ってやつに出た。
午前中ににわとりの仕事を押し込んで、家人にまかせ、電車に乗る。
肩が触れ合う距離にぎっちりヒトがいる。当たり前のこんなことに「慣れる」必要がある。
目黒線、大井町線なんて一体何年ぶりだろう。
「もう緑色のボディーじゃないんだ。当たり前か。」
田園都市線、世田谷線。世田谷線まで新型車両、ま、これも当たり前。
何軒か小売店さんを回り、夜になって案内をもらっていた自然食品店の店主の会合におじゃまする。
お話しを聞かせていただいて、飲み屋へ。
「青いカラのたまごもあるんだよー。」
入った飲み屋で、つるつる頭の大男が語り出す。
この人も自然食品店の店主。良く知ってるナ。
そう、一時期ちょっと話題になった青いカラのたまごは、南米原産のアローカナという鶏との交配種のニワトリのたまご。
「青」というより「白っぽいたまごのカラにうす〜く青みが入った」ぐらいの色なんだよね。
たまごやにわとりの話になれば、俺も「語る」ぞ。
だってそれしか知らねェんだもん。
10人も入ればいっぱいの間口1間の小さな飲み屋。
わいわいとオヤジばっかり6人で、自然食品、有機農業の話で盛り上がる。
大声で、まったくうるさい客だ。「そういう」店だったからいいけれど、普通の店なら嫌がられてるよ。
たばこの煙とオヤジたちの薄い頭(一人ハゲ)から立ちあがる湯気で狭いお店がかすんでいる。
いい気持ちだ。やっぱりヒトも群れて暮らす動物なんだな、とつくづく思う。
山にこもっていると、景気が悪いなんて活字ばかり目にとまる。
いやいや、世間はもっとしなやかでしたたかだ。
大丈夫、みんな夢がある、酒は美味いし、元気だよ。
最後はやっぱり。時計をにらみながら、誰が最初に席を立つか。最終列車のチキンレース。
まだまだ話し足りないけれど、ドア蹴るように開けて駅にダッシュ。
間に合ったのは誰?あきらめたのは誰?