1960年に名古屋で生まれた。
普通科高校へ行き、農家でもないのに農学部に進んだ。
おもしろそうなので、あちこちの農家で実習していたら、おもしろくなって、作物の生産現場にいることに引き込まれていった。
国内で何カ所か、卒業してからカリフォルニアで、農業実習して、メキシコの会社で農場に勤めた。
それから、ここ白州にやって来た。
カリフォルニアの野菜農場では、野菜の生産をしていた。
その管理作業でほぼ毎日使うのが「ホー」という名前の草かき道具だ。
雨が少ないカリフォルニアでは、このホーが、種まき、定植、中耕、除草全ての作業に使われた。
この道具を握らない日はなかった。手のひらがマメだらけになって固まり、指がホーの形に曲がった。
柄(え)が長いものをロングハンドホー、短いものをショートハンドホーと呼ぶ。
立ったまま使えるロング、腰をまげて使うショート、という違い。
細かい、丁寧な作業が要求される農場ではショートを使う。
広大な農場で一日中これを使っていると、腰が曲がり顔がむくむ。
しかも時間いくらの労働というコスト管理がきちんとされるから、そうとうなスピードで作業をこなさなければならない。仕上がり内容も問われる、これはキツイ。
それで1983年当時、すでにこのショートハンドホーの販売は、条例か何かで禁止されていた。
農場労働者の健康を守るためなのだそうだ。
使うことまでは禁止されていなかったので、多くの野菜農場は倉庫の中にショートハンドホーを買いだめしてあった。
学生時代に国内で実習した農家は、さすがに実習生を受け入れるだけあって何かの産地の大型経営農家であったり、篤農家であったり、農学部の卒業生だったりした。
フツーの農村に入ってきたのはここ白州がはじめてだった。
小さな田んぼの稲作をやっていて、農家の二階でお蚕を飼っていて、畑にはそのエサになる桑が植わっていて、冬は出稼ぎ、そういう山村だった。
そこにやって来て、あ〜そうなんだ〜・・と最初に戸惑ったのが農薬の使い方だった。
アメリカでもメキシコでも、農薬はカギのかかる戸棚で管理されていた。
薬品の毒性のレベルでマスクを変えたし、農薬を散布した後はシャワーを浴びるまでは飲食は禁止だった。
それがここでは、手ぬぐいのほっかむりだった。
使い終わった空き容器はそこらに捨ててあった。
ふ〜む。
「食糧自給率」なんて単純に数字の比較ではわからない。
その数字よりも実態の差はもっとある。
食糧を生産する態勢になってないのである。
畑の形状がどうで、営農形態がどうで、農民の意識は?働いている年齢層は?
収入のうちの農業収入の割合は?そもそも社会の中での農業の位置づけは?
例えば、農場で働く労働者の健康を守る法令がある国もあれば、ほっかむりで農薬をまいている国もある。
その差は大きいし、それから25年が経過しても農業に関する意識はあまり変わっていないようなんだけど。
もう少し丁寧な、報道なり政治家の発言がないと伝わらないよなぁ。
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画像はショートハンドホーに代わるものはないか?とホームセンターで売っていた草かきの柄を切ったもの。