うちの鶏小屋は、森の入口に建っている。
森の入口に建っているから、ときどき森からお客さんがやって来る。
国蝶オオムラサキやジョロウグモの昆虫類にはじまって、モグラやらテンやら、サル、シカ、イノシシといろいろとやって来る。
もうそんなことはないけれど、鶏小屋を建てたばかりのころ、産卵箱のふたを開けたら中でヘビが、アゴをはずしてまさにたまごを丸飲みしてる最中だった、なんてこともありました。(さすがにこのときはビックリして「うわわぁ」と腰のぬけた声が出ちゃいました)
そんなところにうちの鶏小屋は建っているのですが・・。
ある朝、鶏小屋へ行ってみるとうちの番犬が、ちょっと困った顔をしている。
何があったの?と様子をうかがってみると、寝ている犬小屋の90センチほど横で空き部屋になっている先代の番犬の犬小屋に何かいると言う。何がいるのよ、とのぞいてみると・・そこにタヌキがいた。ボロボロの子ダヌキが。
どうもこのごろ、見かけるタヌキやキツネが、あんまりきれいじゃなくて、ボロボロだったものですから、気になって調べてみると、疥癬(かいせん)という皮膚のにつくダニの一種で、ここ数年、キツネ、タヌキなどを中心に野生動物で流行がみられるようです。
全国的な流行のようで、捨て犬、野犬から野生動物に広まったという説が有力です。野生動物と人の生活の距離が近くなったのが原因だとか。
この子ダヌキも、目も見えないぐらい弱っていて、一晩中鶏舎のあちこちをぶつかりながらさまよったあげく、空いている犬小屋にもぐりこんだようです。
にわとりにも皮膚につく虫がいます。
羽ジラミやワクモと呼ばれる虫がいます。これは、ニワトリの皮膚にくっついて、ニワトリのフケを食べたり、血を吸ったりして生きています。当たり前ですけど、これにはニワトリもイライラ。ストレスになり健康上よくありません。産卵も減ってしまいます。
にわとりが、自力でこれを落とすのは、砂浴びが唯一の方法です。
これはなかなか見たことがあるひとじゃないとイメージできないかもしれませんが、にわとりは、土のうえで砂をあびます。自分がちょうど入るぐらいの大きさの浅い穴を掘りそこにすっぽり入ります。そして足と羽根で器用に全身に砂をかけ、体の手入れをします。(人間でいえば風呂の感じですか)
天気のいい日に鶏小屋に日が差したときなんか、もう一斉に、競うように自分のあなを作り砂浴びをしています。
ケージやコンクリート床の鶏舎では出来ないのですが、毎日風呂にはいるのと同じですからとても重要な日課です。
私が土間飼いにこだわる理由のひとつがこれです。
通常、養鶏場は、ケージ、ブロイラーともに、この類の虫や菌、ウィルスを防ぐため、コンクリートでかためてあります。
畜産関係者に言わせれば、なんでコンクリにしないのか、その方が消毒も楽だし、清潔じゃないか、ということになるのですが。
これだけ生理的に「やりたい!」ことを、させないのも変だな〜、きっと何か大事な理由があるのだろうと思いますので、(もお、ほんっとに、小さなヒヨコのときから、ニワトリは砂浴びが大好きです。)土間で飼い、砂浴び出来るようにしています。
土間飼いって、手間かかります。殺菌剤、殺虫剤でシューっとやって、ザーっと水洗いってわけにいきませんので、手間かかります。
土自体がくたびれてくることもあります。砂浴びといっしょに土の中の小石を食べますので減ってきたりします。山土(やまつち)買って来て足してやる必要もあります。
でも。大変ですけど、土の上で飼ってやりたいです。
鶏小屋を襲われるのはとても困ることですが、ヒトがもちこんだ病気で野生動物が弱っていくのは、心が痛みます。
鶏小屋にいたずらして、逃げ去るキツネの、あの金色に輝くシッポの美しさといったらない。野生動物のしなやかな美しさは、ヒトの理屈を蹴散らす絶対的な美しさだよなって。もっと尊敬しなくてはと自戒をこめて思います。
まず、家畜を尊敬しながら飼うことから始めようっと。
結局、何度も森へ追い返したけれど、その子ダヌキは森に帰ることが出来ず、鶏舎の裏の日溜まりでうずくまって死んでいった。
かかりつけの獣医さん(
http://air.ap.teacup.com/q_petclinic/)にこの話をすると「 M ちゃん、キツネはあんなに追い払ってにわとり守るのにね。犬って自分より弱いものかくまうんだよねー。」と説明してくれた。
あの夜。ヒトにはわからない犬とタヌキのやりとりがあったんだね。