野菜産地の農繁期のお百姓は忙しい。
今の時期、暗いうちに畑に出て明るくなるのを待って収穫をはじめる。
間に合わないときは車のライトをつけて作業をする。
朝ごはんを食べに家に戻り、食べて出かける。10時におやつを食べまた収穫。お昼ごはんを食べ、また収穫。おやつを食べて草をむしり、次の日の出荷の段ボール箱を組み立てておいて、お風呂入ってごはん食べて寝る。
秋になるまでこれが毎日。プール?海?知らん知らん。
これが毎日。
今から二十数年前の夏、長野の菅平でレタスを収穫していた。アルバイト。
信越線上田駅からバスで延々登っていったところに菅平高原があった。
冬はスキーでにぎわう菅平は、夏はラグビーの合宿とペンションとレタスの大産地だった。
農学部の学生は、そのレタスの大産地に用がある。
住み込みのアルバイト。来る日も来る日もレタスレタスレタス。
はじめての長期の実習だったから俺はヘトヘトで、ホントにごはん食べて体動かすだけ。
何も考えられないし、なんの欲求も出てこない。
あ〜いよいよいっぱいいっぱいになってきておかしい。
あちこちの家で飼われているイヌがうらやましくなってきた。「いいなぁ、昼寝・・」
それを過ぎるとこんどは郵便局の配達のおにーちゃん。「いいなぁ、バイク涼しくて気持ちよさそう・・」
ここまで来ると今で言う逆ギレってやつかな?
当時、食生活の変化を背景にレタスなどの高原野菜は大きな需要があった。
大手スーパーが産地と直接取り引きするスタイルが始まっていて、「産直野菜」という言葉が一般化しつつあった。
村は、共同出荷を迫る農協と軋轢があったものの、活気づいていた。
お昼ごはんを食べ身支度をして外に出る。
運送会社の大型トラックがもう来ていて午後の荷物を待っている。朝、須坂のリンゴの出荷をすましてきたそうな。
収穫に向かう4トンの幌トラックの荷台にいつものように乗り込む。
ゆるゆると走り出すトラックの荷台の俺に、大型トラックの運ちゃんがリンゴをひとつ投げてくれた。
ストライク!
ハラマキをした太った運ちゃんが、ハリウッド俳優にちょっとだけ見えた。
ペンション街を抜け山の畑に向かう荷台でリンゴをガブリとかじる。
テニスコートのおねーさんの白いスコートがまぶしい19才の夏・・・。
暑いです。でもこんな夏も好き。
ご自愛ください。