「センスないな、日本人て。」
何年か前の出来事、建築関係で知り合ったフィンランド人が、その席が和んできたときにぼそりと切り出した。
前段階の会話で探りを入れておいて、こいつなら分かるだろうという合間にフィンランド人はその言葉を放った。
「私は日本のヘビーティンバーを始めて見た時に全身が震える様な感動を受けたんだ。だってそうだろう?あの完成度の高さ、力強さ。」
「イギリスにもティンバーフレームがあるが、アレより上だよ。他に見ないよ、こんなフレームは。」
「それを平気で取り壊すんだ、日本人は。信じられないよ。」
「そして、その後に建てられる家は新しいだけというもの。ホント、センスないよ。」
その席では日本人代表の私であるが反論は出来ずに相槌を打ちながら聞き流した。
私は仕事で、樹種から間取まで完全フルオーダーのログハウスを手掛けている為に、フィンランドやカナダからの視点で建築のお話を伺う事が出来る。恵まれた環境で、目から鱗という事もしばしばだ。
そして、あるとき、カナダのブリティシュコロンビア州から、木材を輸出している組合が有志を募り日本に視察に来た。その際に私が手掛けたログハウスもご覧下さるという。
内容としては、自分達が輸出したログハウスがどの様に建てられているか・日本人のニーズは何かという雰囲気だ。
私は過去のフィンランド人の言葉を思い出し、一寸した悪戯を思いついた。
そして、視察当日に実行した。
まずはカナダから輸入したフルオーダーのハンドカットのログハウスを案内した後に、地松を使った骨組みを持つ在来工法、現しの柱や枠廻りを超仕上で仕上られ丹念に組まれた建築中の別荘に案内したのだ。
遥々、海を渡って来たカナダからの視察団は自分達が輸出したログハウスより一段と輝いた目で食い入る様に現場を見ている。
そして、視察団の一人の口からこぼれる様に「EXCELLENT」と言葉が漏れた。
日本人だって、しっかりした信念で建物を求める施主さんは居るのだ。
それが分かってもらえたかもしれない。

カナダ、BC WOODの視察団の皆様と記念写真。