蜘蛛よ、蜘蛛よ。

2006/1/28 | 投稿者: losthouse

スパイダーマンを題材にしたイラストを、30分以内に書き上げなさい。

そう上司に命令された僕は、葉書大の藁半紙をデスクの抽き出しから取り出すと、ボールペンを握りすぐに仕事に取りかかった。
最近のハリウッド映画のやつは観ていないけど、子供の頃に東京12チャンネルでやってたスパイダーマンなら大好きでよく観ていた。主題歌の7インチ盤まで買ってもらって、そのスリーヴに印刷された写真を毎日のように模写していたから、未だにスパイダーマンの身体の複雑な網目模様を、資料無しに正確に描くことが出来る。
僕には格好の題材じゃないか。
でも普通にスパイダーマンを描いても面白くないし、会社が僕に求めているのはそんな仕事ではないだろう、僕はまず「ガロ」ふうの、もっと正確に言えばつげ義春「ヨシボーの犯罪」ふうにデッサンが狂った全裸でスキンヘッドの男を、画面左半分に丁寧に描いた。内股で正面を向き、腹の前で腕を組み合わせている様はちょっと「ねじ式」みたいでもある。
背景にはお定まりのビル街を書き込み、闇夜の雰囲気が出るように青のボールペンで網をかける。
ここまでで15分。もうあまり時間が無い。
再び黒のボールペンに持ちかえて、そのつげスタイルの人物のうえに、記憶を辿り正確にスパイダーマンの網目模様を書き込んで行く。
比較的シンプルな下半身を即座に終え、肩のラインと胸、腕の処理で少し複雑になる上半身への書き込みを終えると、いよいよ顔面である。
言ってみれば顔面の模様は中央、鼻の上辺りから放射状に伸びる蜘蛛の巣模様であるが、実際に描いてみるとそう単純でないことが解る筈だ。オリジナルのスパイダーマンはヒーローとして格好良くみえるように、放射線の広がりが巧妙なバランスでデザインされている。

ちょっと崩してやろうと思った。そのほうが面白いと思ったのだ。
網目の放射角を実際より少しばかり広めにとり、蜘蛛の巣というよりは格子模様のように見える感じにデザインした。
時間をかけて、一本ずつ男の顔に黒い線が引かれていく。
何本も線を引くうちに、目の周り、境界線が少し乱れてしまったので、アイラインを引いて誤摩化した。唇にも赤いボールペンでほんのりと朱を差して、格子模様に埋もれないようにしてやる。

そして色付けをしているうちに30分が経ち、僕のスパイダーマンが出来上がった。
失敗だった。僕のスパイダーマンの身体は、乳首と陰毛が見える以外はオリジナルと寸分違わぬ出来映えだったが、僕なりの趣向を凝らした顔面は、最早スパイダーマンとは呼べぬほどにオリジナルからかけ離れていて、どうかけ離れていたのかというと、網目ではなく格子模様にラインが引かれた顔の印象を例えるなら、蛇の頭、ガメラの腹、鰐の背中、浴室のタイル、そのタイルの目地、とにかく僕が生理的に気持ち悪いと思う事象が完璧に再現されているだけでは無く、それら全ての抽象、あるいは象徴、気持ち悪さの絶頂であった。
自分の絵をみて気分が悪くなった僕は生まれて初めてオフィスで吐いて、同僚や上司の顰蹙を買った。

それからの僕がすっかり格子模様の虜になり、月に一回ほど商売女を買っては風呂場に沈めた挙句、死体の全身、もちろん顔面にも錐とナイフで格子模様を刻み込み、目の周りや口元に丁寧に化粧を施し、血が滲む赤いラインに彩られた死体を眺めては何度も嘔吐を繰返しつつ同時に欲情してその遊びがやめられなくなってしまった事や、自らの身体にも格子模様の刺青を施し、顔にも彫ってくれと頼むがどこの彫師も断りやがるので、遂に自室に閉じこもり血にまみれながらも自分で自分の顔に素晴らしい格子模様の装飾を施したに至る経緯に関しては、話したくもないしあんたも聞きたくはないだろうからこれでやめる。




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