グローリア

2007/12/24 | 投稿者: losthouse

いまはもう疎遠になってしまった知人がむかし、どんなに不幸なときでもそれがクリスマスなら街を歩くだけで救われる、というような事を言っていて、冗談だろ、ざけんなよ、そんな気持ち悪い顔でそんな気持ち悪い事言うな変態、って言うと、冗談じゃない、ざけてもいない、そんなに気持ち悪い顔でもない、デパートのイルミネーションやケーキ売りの呼び声だけで、それだけで彼はとっても幸福になれるのだと言った。だからおらぁクリスマスだいすきだぁ、とも。

そんな彼の事を突然思い出したのは、クリスマス・ムード真っ只中の新宿を友だちと歩いていたからで、別段幸福なわけでも不幸なわけでもない、タワーレコードでも行くぅ?って何の気無しに歩いていただけなのに、突如訪れる無敵感、躁状態。
救世軍のトランペットやら街行くアベックやら酔っ払いやら托鉢僧やらひっきりなしにスピーカーから流れる鐘の音などを目にし耳にしているうちに、なんだか凄まじく楽しくなってきて、よし、今夜は僕の驕りだ、ついてこい、つって高級ホテルの最上階にあるいやらしいバーに行って1杯1600円のマティーニとかをしこたま飲んで、これは随分飲み易いね、おかわり、って言い続けて酔うまで飲んで、俺は無敵、愛しているぜ、メリークリスマス、とか言い出して、「病気なんじゃないの?」とも言われたが気にしない。あ、お支払いはカードで。何故なら金を持っていないから。

で、もうちょっと落ち着いて飲み直そうか、ということになって24時間営業のスーパーマーケットに買い出しに行くと、店内が異様な緊張感に包まれていて、何かと思えば胸の前に葱やらメロンやら毛蟹やらを抱えた初老の男性が、「ロクちゃん、ロクぅ!カゴもってこいよ!重いんだよ!」って怒声を発していて、ロクと呼ばれた小柄な老女がはいはい、って小さな声で言って店の入り口までカゴを取りに歩いて行く。ロクちゃんがカゴを取りに行っている間も男性の怒号は止まず、しかしそれはロクちゃんに対してというわけでもなく、どうやらこのスーパーに入る前に行っていた居酒屋で不愉快な思いをしたらしく、「もうあんな店二度と行かねぇ、ぶっ殺す、中野の街自体がもういやだ、二度と行かない」等とずうっとぶつぶつやっていて、ロクちゃんがカゴを持って来て必死になだめるのだけれど、「フグ、フグは?フグ喰いてぇ」とか叫び出すものだから、平和なクリスマスを過ごすその他の買い物客は、ひどく緊張を強いられてみんな顔面が硬直している。

「ほら他のお客さんいるから、どうしたの?もう帰ろう、ねぇ?」
「ああいやだ、二度と行かねぇ、金は要らないからもう帰れ、なんて言いやがった。中野なんて大っ嫌いだ、フグ、フグ。あぁっ!タクシー代は?ロクちゃんタクシー代は?!」
「払った払った。払ったから。もう帰ろう、ね?」
「ああ腹立つ。中野。フグ。金は要らないから帰ってくれ、なんて。ああカゴが重い」

ああ、こうして僕が今日一日、無敵の幸福感を満喫してしまったばかりに、この世にまた不幸なひとがひとり増えてしまった。
いったい何がほんとうの幸いなのかわかりません。

尚もぶつぶつ続けている男性とロクちゃんを店内に置き去りにして、僕はシャンパンと生ハムをぶら下げて帰り路。「ボクはキミをロクちゃんみたいには絶対扱わないよ」と気障な声で彼女に囁き、彼女も応えて「きもちわりぃ、寄るな変態」って言って大いに笑った。インエクセルシスデオ。




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