◆プロボクシングWBA世界ライトフライ級王座決定戦12回戦 ○亀田興毅=協栄= 判定 ファン・ランダエタ=ベネズエラ=●(2日・横浜アリーナ) “浪速の闘拳”亀田興毅(19)=協栄=が涙のベルト奪取を達成した。初の世界挑戦で同級1位ファン・ランダエタ(27)=ベネズエラ=と対戦した亀田は1回にダウンを奪われ予想外の苦戦をしたが、2−1の判定で勝利。史上3人目となる10代での世界王座獲得を達成したものの、不本意な内容に試合後はプロ12戦目で初めてファンに謝罪した。課題を残し、3兄弟全員の世界チャンピオンへ亀田一家の夢が今、始まった。
あふれ出る思いを亀田は抑え切れなかった。「お母さん、おれを産んでくれてありがとう」。夢のベルト奪取にこれまで隠していた母への慕情が一気にあふれ出た。2年前に両親は離婚。母は今、大阪市内で1人で暮らす。「お母さんを含め家族全員で取ったんや」。
初の世界挑戦。異常なまでの注目度に19歳の胸は重圧で押しつぶされた。1回だ。敵の右フックでアマ時代を含め29戦目で初のダウンを食らった。「ビックリしたな」2回以降もペースを取られた。目を覚ましてくれたのはおやじだった。「何やっとるんや!」ラウンドごとに強烈なビンタをもらい失いかけた闘志を奮い立たせてくれた。中盤からは左ボディーを中心に逆襲したが7回にまたも苦境に陥った。パンチで右目上をカット。生涯初の流血だった。
救ってくれたのもまたおやじだった。小学1年までのいじめを撃退したのも父の後押し。4歳から町の空手道場に通った。11歳でボクシングを始めた。やんちゃが過ぎてクラスメートの家に謝る時も全力で頭を下げてくれた。警察に補導された時も警官の理不尽な言動にかみついてくれた。2年前に離婚してからは、6歳の妹・姫月(ひめき)ちゃんの育児から家事すべてを男手ひとつで守ってくれた。
デビュー前には心ない声も耳にした。朝から晩までボクシングに没頭する姿に近所からは「アホちゃうか」。しかし、忘れられない父の背中がある。02年9月21日。アマの試合で初めて負けた。試合会場の札幌から大阪まで父は何かをこらえるように一切、口を開かなかった。「あの時のおやじを思い出すと、あんな思いをさせたらアカンといつも思い出すんや」。
11回だ。敵のすさまじい連打に棒立ちになった。「倒れてたまるか」必死の思いでクリンチで逃げた。プロ12戦目で初めて経験した12ラウンド。わずかの差での逆転勝利。夢の世界をつかんだ親子は号泣して抱き合った。肩から巻いた世界のベルトを外すと「ここまで育ててくれてありがとう。おやじにプレゼントします」。最初のベルトは約束通り父の腰に巻いた。亀田親子の夢がクライマックスを迎えた瞬間だった。
判定の結果に、リング上に物が投げられた。不本意な内容は、自分が一番分かっている。だからこそ「ブサイクな試合してすみません」。ビッグマウスが初めてリング上で謝罪した。「100のうち1も力は出てなかった。試合で初めて疲れたと思った。だから課題も分かった。もっと練習せなアカン」。夢は3階級制覇と兄弟全員の世界奪取。屈辱をバネに親子で今日から走り出す。
亀田興毅「どんなもんじゃーい! きょうはブサイクな試合してすんません。おやじのボクシングを世界に通用すると証明できてよかった。ベルトをおやじにプレゼントします。おやじありがとう」


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