辻元清美さんと居酒屋で 帰ってきた「総理、総理!」
永田町に帰ってきた社民党の辻元清美さん(45)、その笑顔はぎこちなく見えた。秘書給与詐取事件で執行猶予中の身ながら、衆院選に出馬、比例で復活当選できたのに。彼女の胸中を地元で聞いた。【鈴木琢磨】
◇小泉さんの政治は「寒流」や。私は「暖流」の流れつくりたい
4年ぶりに大阪は阪急高槻市駅そばの立ち飲み屋「磐石」ののれんをくぐった。マスターは覚えていてくれた。「あの記事、家宝にしとるで」。9・11テロのショック冷めやらぬ中、戦後初めて自衛隊の艦艇が「戦時」のインド洋に向かっていた。歯ぎしりしているに違いないな、と辻元さんに会った。それが事務所近くのここだった。
思えば、絶頂期だった。国会論戦で小泉純一郎首相に詰め寄っては「総理、総理、総理!」。ムネオハウスの一件では「疑惑の総合商社」と追及した。さえていた。いつしか浪速の元気印はヒロインになっていた。だが、インタビューから4カ月後、週刊誌が彼女の疑惑を報じるや、正義の味方は泥にまみれ、あっけなく転落した。
夜8時すぎ。ちょっと顔をこわばらせて辻元さんがそーっと入ってきた。でも、ほろ酔いのおっちゃんらはお構いなしである。「おー、キヨミちゃん、ソーリ、ソーリ、またやってや!」。色っぽいおねえさんも携帯を取り出して写真をねだったり、白い造花を髪に挿してあげたり。で、やおらカウンター内をのぞいて、おでんのこんにゃく、ダイコンを注文、酒は樽酒(たるざけ)をグラスで。いける口である。
●お帰り
それにしても、この間、いろいろあった。ありすぎた。懲役2年、執行猶予5年の重い判決を背負いつつ、参院選(大阪選挙区)を戦って落選したのはつい1年前である。選挙カーには<ごめん>の文字が躍っていた。傷だらけになりながら、はい上がってきた。タナボタまでいる国会に。3年半ぶりの赤じゅうたん、どうでした?
「なんかびりびりって磁場みたいなもんかなあ。緊張したんやけど、うれしかった。自民党国対委員長の中川秀直さん、お帰りなさいって言うてくれてね。院内の社民党の控室に小泉総理らとあいさつに来てくれたとき。私、小泉さんは言うてくれへんのって聞いたらな、ちっちゃーい声で、お帰りって言うてくれた、かなあ」
政治は非情である。それを体験した身にとっては、たとえ社交辞令であっても、じゅんと心にしみたのだろう。郵政民営化に反対し、刺客とのし烈な選挙戦となった野田聖子議員の姿を見つけては駆け寄った。「お互い大変やったなあ」。声をかけずにいられなかった。「あとからこっそり、結婚まだしないの?って言われてしもて(笑い)」
ざわつく飲み屋で、ダイコンをつつき、ぐいっ、ぐいっ。つとめて明るく、淡々と語る。でも、さすがに論戦の舞台、第1委員室の前を通りかかったときのことを思い出しては万感、胸に迫ったのか、はしを止めた。「私が参考人招致されたところやろ。トコロテンみたいに国会を追われてな。江戸時代、この不届き女めが! なんて石投げられたりとかあったやん。そんな感じもしたかなあ」
●非情じゃない
涙でマスカラが落ち、目の下が真っ黒になった。あのシーンをテレビで見たとき、いささか残酷すぎて再起不能だな、と思ったけれど、質問に立った民主党議員は優しかった。「私はあなたの才能を高く買っています。もう一度出てくるように」。実はね、と辻元さんが打ち明けるのだった。「民主党の代表になった前原誠司さんも心配してくれて、辞職後、会ったりもしてた。安保に対する考えは違うけど。ここから京都は近いし」。非情ばかりじゃなかったか。
本会議場での首相指名選挙が終わった。「小泉純一郎君、340票……」。そう読み上げられたとたん、辻元さん、背筋がぞっとしたらしい。「アカン、アカン、感傷にひたってる場合やないってね。3分の2の巨大与党、大政翼賛会的空気のなかで、国会に戻してもらったんや。私は仕事してなんぼ、3年半前と時間がぴたっとつながったな。まだ荷物も片付いてへんのに、法案の資料をだーって読んだりして。不思議やね」
下町酒場の癒やしか、清美節が回復してきた。おっちゃんらも聞いている。「官房長官!」。見れば、常連客の福田康夫前官房長官のそっくりさん。「次期総理やったわ」。どっときた。「政策の話したいねん」。こちらが牛すじをほおばっていると、ぐぐっと腕を引く。憲法9条のこと? そうじゃない、カンリュウだというのである。ヨン様のことかいな?
「小泉さんは新保守主義をどんどん進めている。勝ち組・負け組の社会。『寒流』の政治や。貧富の差が広がって治安も悪化する。ある程度の格差は認めても、広げないようにせんと。人権とか、環境とか途上国との共生とかな。なんでも平等なんて言わへん。商売人の子やもん。この1年、日本中を歩いたけど、地方では『暖流』の流れが根づいてた。官から民というても、民間は効率優先、そこからこぼれたものをどうしたらいいのか。そのシステムがあった。私は『暖流』の流れをつくりたい」
夜も更けた。しばらく事務所まで辻元さんと商店街をぶらつく。おばちゃんが自転車を止めて「頑張ってや!」と励ます。「へこたれへん」。そんな気持ちで彼女は精いっぱいの笑顔を返そうとするのだけれど、まだまだ自然じゃないなあ。気ばっている。聞いてみた。なんで、そんなに無理するの? 「うーん、ジタバタしてるんや。私。ジタバタ、ジタバタ」

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