もう1年半前の温泉ハシゴ旅。機会を失っていたのでこの際記録のために。
場所は宮城県の温泉地、鳴子温泉郷。その中心、共同浴場、滝の湯。二日間の逗留場所に選んだのはその隣のお宿ゆさや。滝の湯のただ券をもらって、何度も入りました。レモン味の酸性泉。樋から掛け落とされる新鮮な源泉。熱い源泉。その水音に酔いしれる素敵な時間。

こういうお風呂に出会うと、このお湯にもう一度浸かる機会が来るのだろうかどうだろうかと哲学的な自問に陥るのです。それもまた温泉旅のサンチマンタリズム。とにかく、ここを基地にして、二泊三日の温泉ハシゴを楽しみました。
○1日目:仙台から車で鳴子入り。鳴子の入り口にある温泉街、川渡温泉の共同浴場へまず小手調べ。茶色い湯花舞う、激熱新鮮湯。いきなりしびれました。地元の人に交じっての入湯。緊張もしました。
そこから鳴子温泉の中心部に向かって車を走らせます。その途中、東鳴子温泉。今回のひとつの目玉、高友旅館です。ここの黒湯と呼ばれる源泉に入るために立ち寄り。油臭。強烈な温熱感。黒湯すごい。と思って体を休めるための隣の透明な軽そうな大きな湯船に入ったら……これがまたガツンと来る強い源泉。あっちでガツンこっちでガツン。何カ所かある小さな浴槽を回っているうちに、へろへろになってしまいました。宿に着く前に既に満腹感。
宿に入ってからはゆさや自慢の緑なす含芒硝重曹−硫黄泉、“うなぎ湯”とあだ名される濃厚なアルカリ性の温泉を楽しみ、返す刀で隣の滝の湯の酸性泉を楽しむ。うはは。すばらしい。
○二日目:朝早く宿を出て向かったのは、幻想的な潟沼。ph2.2の強酸性の沼。……鳴子火山の爆発的噴火で生まれた池。当然、至る所から火山性の噴気が上がっています。

魚は一匹も住めない死の沼。

プクプクと吹き上がるガスだけが動いている。

冬枯れと相まって、寂寂たる風景。地下からの硫黄成分の噴出は至る所から起こっているようで、アスファルト舗装の駐車場、端から崩壊。ベンチやらテーブルやら。多分そう言うのも次から次へと崩壊。ここに車を止めていたら、半年で塗装がいかれるだろうな。
もう心も体も冷え切ったので、温泉に入りに山を下りる。まだ朝の9時を回ったところ。この時間空いているのは……姥の湯旅館。ここも数種類の源泉が楽しめるんだけどあいにく掃除時間で空いている温泉はひとつだった。それでも体が芯から温まってよみがえった。義経の湯だったと思う。硫酸塩泉……よく温まります。
そこから俄然ハシゴです。すぐそばの西多賀湯に突撃しました。

人がいなくて貸しきりだったので、写真があります。薄い緑がかった白濁湯。硫黄のよい香り。硫化水素泉。最高です
そしてすぐ隣の東多賀湯へも続けて入ります。ここは人気で人がたくさん入っていってぎゅうぎゅうしながら、どばどば掛け流される源泉を楽しみました。アトピー性皮膚炎にとてもよいそうです。飲泉もしてみました。
そこから一路中山平温泉。しんとろの湯という激熱にゅるにゅるの重曹泉の公衆浴場をはじめ、東蛇ノ湯を楽しみ、蕎麦も食し。それからいよいよこけしに行くわけです。

日本こけし館、岩下こけし資料館をハシゴして、お土産のこけしなんぞを購入。
これにて二日目終了。ゆさや宿泊客限定露天風呂にも入れて充実の夕暮れ時を迎えました。ぬるぬる重曹泉の素敵な露天風呂。
○3日目。もう帰和する日です。夕方の飛行機まで頑張って回ります。朝早く鳴子を立ち向かうは県境。あとで気がつくんですが、この道、松尾芭蕉が奥の細道で通った名跡なのです。その同じ道をレンタカーでぶっ飛ばします。はせを、ごめん。目指すは、奥の細道最大の難所、山刀伐峠。もうこれ、山形なんです。宮城県山形県をまたぐ旅行になりました。なんの前知識もなく、交通量の少ない、雪解け終わった峠道をぐんぐん目指してたどり着く山形県尾花沢市。そこの道の駅で買い物をして……それ以上のさしたる目的もないので引き返す途中。赤倉温泉にふらり立ち寄るわけです。「湯守りの宿三之亟」という素敵なお宿。ちょうど男性に割り当てられていたのがひょうたん湯。これがよかった。写真がないけれど。軽い透明なお湯なのに、ぐんぐん温熱が入ってきて汗がどばどば。パワーのあるお湯でした。
そのあといただいたのが、川沿いの露天風呂。これも素敵なお湯でした。硫酸塩泉ぐいぐいときます。

赤倉温泉をあとにして、一路鳴子に向かって戻ります。その途中で思わず立ち止まったのがここ。「封人の家」という看板にひかれて止まると、ものすごく古い巨大な民家。どうぞどうぞと招き入れられて、鉄瓶がピューピュー吹いているいろり端に座り、お茶をいただく。これがめちゃくちゃ美味かった。

黒々とした板間。柱、梁。どれも力強くて本物。この板間のむこうに奥座敷。反対側が土間。典型的な日本家屋。その土間には異常に大きな馬屋。お茶を振る舞ってくださったおじさんの説明を聞き入りながら、ここがとても大事な場所であることがだんだん分かってきた。いや、分からずにここに来たことを恥じる。ごめんなさい。ここは奥の細道に登場する家だったんだ。
蚤虱馬が尿する枕元
うわ。チョー有名。ここだったんだ。ここで悪天候に阻まれ、尾花沢への行程で難儀したんだ。難所山刀伐峠越えには山賊の害があるということで、用心棒の若者を付けて送り出された芭蕉と曾良。

その茶飲み話にあとから加わった初老の男性。しっかりした山歩き姿。この人朝、中山平に向かうこれも奥の細道の名所「尿前の関」のあたりを歩いていたおじさんだ。すごい。ここまで歩いてきはったんや。と思ったらこの方、仕事を10日ぐらい休んでは、奥の細道を少しずつ歩いているんだって。それこそ、深川の宿から始めたんだって。そして今、いよいよ山刀伐峠越えに挑もうと。ごめんなさい。車でぴゅーって。聞かれて困ったのは、山刀伐峠の雪はどうでしたか?って。あ。車道は綺麗に除雪してありますが……、旧峠道らしき所は(ちらりと見ただけでしたが……)雪に埋もれていたなぁ。あれはちょっとラッセル覚悟の道やなあ。ということを断片的にお知らせしました。どうされただろう。あのあと。無事に尾花沢側に抜けられただろか。
おじさんと別れ、鳴子に戻ります。鳴子温泉郷巡りでまったく足を運んでいなかったエリア。鬼首温泉エリアに向かいます。間欠泉が目当てです。これです。

寒くてぶるぶる震えながら……ちゃんと入場料金払って見に来たんだからしっかり見ようと。思ったのですが。びゅーってぶしゅーって。ふーん。確かに間欠泉だね。うん。ちょっとショボクテ泣きそうになりました。別府の竜巻地獄のイメージを持ってはいけません。それなりに楽しかったですよ。
このあと、最後のシメに、東鳴子温泉の高友旅館の黒湯をもう一度楽しんでから……そして当然へろへろにゆだってから、仙台空港に向かって車を走らせたのでした。一年半も前のこと故、いろいろ記憶があいまいなんですが。濃い温泉が近所にぎゅっとつまっている夢のような温泉でした。必ずもう一度いくぜ。