今年5月に、医師不足に対する窮余の策として「医師給与の歩合制」を取り入れることを決定して開始した、大阪府の阪南市立病院。「どうなるか注目してみたいと思う」と
書いたが、市議会で議決された方針なのに市長が替わった途端に反対方針が出され、再び危機に陥っているらしい。
知ったのはここ数日だが、ニュースとしては10月31日に報道されていた。
まずは共同通信配信と思われる地方新聞記事から。
医師の集団辞意で診療休止も 大阪・阪南市立病院
2008年10月31日 13:30
大阪府阪南市立病院の内科と総合診療科の医師8人が、辞職の意向を病院側に伝えていたことが31日分かった。全員が退職すれば診療休止など病院運営に大きな支障が出る恐れもあり、市側は慰留する方針。
同病院は6月、医師の平均年収を1200万円から2000万円に引き上げたが、10月26日の市長選で初当選した前副市長が給与を引き下げる意向を表明したため、8人が反発したとみられている。
同病院をめぐっては、昨年6月末から今年3月末にかけて内科医5人を含む計12人の医師が退職。内科を一時休止する一方で、歩合給与制度を導入し、新たに医師を招いて今年9月から内科を再開していた。
(記事ここまで)
これだけ読むと、金に釣られて就職した医師が、給料下げるなら辞めるって言ってるだけの話みたいに読める。提示された給料を就職してから下げるというだけでも、退職理由としては十分だと思うが、今までの医療報道を見ているせいか「医師のわがまま」と書きたいのかなと勘ぐってしまう。
続いて産経新聞の記事。
再び医師が辞意表明 存続危機の大阪府阪南市立病院
10月31日13時55分配信【産経新聞】
医師の大量退職から一時、存続も危ぶまれた大阪府阪南市立病院で、新たに招いた医師らの多くが辞意を表明していることが31日、分かった。今月26日の市長選で、給与引き下げを検討する可能性に言及した元副市長が、医師招聘(しょうへい)を進めてきた現職を破り初当選し、医師が反発。同病院は再び危機的状況に陥る恐れが出てきた。
同病院は医師の大量退職で昨年7月から内科を休診するなど経営難に陥った。市は医師確保のため、歩合給を導入するなどして、年収約1200万円の医師給与を約2000万円に引き上げ。医師確保が進み、今年9月からは内科診療も再開していた。
市長選では、元副市長の福山敏博氏(58)が、医師確保に取り組んできた現職の岩室敏和氏(61)を破った。福山氏は当選後、歩合給について「公立病院にはなじまない」などとし、見直しの可能性に言及していた。
同病院は慰留しているが、医師の1人は「8人が辞意を伝えている。新給与体系は議決されたもので、議会を無視した発言に不快感を感じる。新たな医師確保にも新給与で話を進めており、変わると信用にかかわる」などと話しており、来年にも辞職する考えを示した。
(記事ここまで)
市長が替わると、医師や医療に対する方針も変わってしまうことはよくある。「歩合給は公立病院にはなじまない」と考える人を、市民が市長に選んだのだから、しかたがない。たとえ市民の7割が反対でも、投票をした人の過半数が賛成していれば民意となる。それが民主主義というものだ。
そういう人を市長に選んだのだから、市民は「病院は何が何でも存続させろ」と、無理強いしてはいけないと思う。病院が存続すれば市の財政はより苦しくなるだろうから、新しい市長に任せるか、市議会と市長の調整能力に期待して、外野で意見を述べるにとどめるのが、正しい姿勢のような気がする(反対意見もございましょうが)。
最後は朝日新聞。
医師8人が辞意、再び存亡の危機 大阪・阪南市立病院
2008年10月31日19時38分【朝日新聞】
医師の大量退職で内科が閉鎖されるなど、一時存亡の危機に追い込まれた大阪府阪南市の市立病院で、医師2人が病院側に辞意を伝えていることがわかった。辞意を伝えている医師の一人によると、ほかに6人が辞意を漏らしているという。26日の市長選で現職を破った新市長の病院運営方針への反発が理由とみられる。8人が退職すれば内科など主要な診療科の外来・入院がストップするのは避けられず、同病院は再び存廃を迫られることになる。
辞意を伝えた医師2人は病院の立て直しを図る市側の勧誘に応じ今年2月以降に順次赴任した。
11月12日に就任する新市長が当選後、医師確保のために現市長が導入した歩合制の給与体系の見直しや、特定の大学からの医師派遣ルートの確立など、新たな病院運営方針を表明。これまでの医師確保の経緯を無視して運営方針が変わることに、医師らは不信感を抱いているという。
同病院は昨年6月末に医師9人が退職して内科を閉鎖。医師の平均年収を1300万円から2千万円以上に引き上げる給与改定などで医師確保を進め、今年9月から内科を再開していた。市は、医師の慰留に全力を挙げるとしている。(記事ここまで)
一番可哀想なのは、頑張れば頑張るだけ収入が増えるという新しい給与体系に魅力を感じ、阪南市立病院に就職した医師たちではないだろうか。「この条件なら多少忙しくてもやりがいがある」と受け取って、一大決心で就職を決めた医師ではないかと考える。それが就職間もないうちから足元が崩れそうなことを言われたら、崩れないうちに逃げ出そうと考えるのは、普通の思考回路だと思う。
「給料が下がれば辞めるのか。金の亡者だな」というような意見も、ネット上では見かけた。各新聞の記事も、医師はみんな金の亡者であると思う人が読めば、妬みと憎しみが増幅されるような気がする。でもどんな仕事でも、提示された条件と実際の待遇が大きく異なれば、文句は言っていいはずだ。
市長が替わったことで振り回され、一緒に働く医師の勧誘にも支障を来し、「こいつ2000万円ももらってるのか」という目で見られることにプレッシャーを感じ、辞めるといったら「金の亡者」「人情のない人」のような意見を浴びせられる。それも今の時代の日本で医師という職業を選んでしまった因果というものか。
お疲れさまです。