
時々書いている諏訪中央病院の「教育回診」。院外から優れた医師を呼んできて、短期集中でノウハウを教わりまくってしまおうという試みです。今週後半は麻生飯塚病院の清田雅智先生に初めて来ていただいています。今日は夕方6時から、院内職員向けの講演会「勉強のしかた」。
清田先生は長崎大学医学部出身で、その後途中で国内外の病院へ研修に出ることはあるものの、ずっと麻生飯塚病院に務められています。現在は総合診療科医長という肩書きだそうです。
先生の書かれた講演概要は次のとおり。
演者は日本の受験勉強で身につけてきた勉強法は社会へ出たときに、ある時限界をみることがあると思っている。知識の習得の効率性のよさは、良いのだけれども、応用問題に弱いのではないかと感じることがある。研修医時代に医療の現場で、医学部での勉強が役立っていなかったと感じることが多かったと記憶しているが、当時の自分にはそれが何故だか分かっていなかった。単に学生時代に医学以外のことに時間を割きすぎたためだと考えていた。海外に短期間であるが、留学したときに何となくそのことに思いを馳せることがあった。いまでは、それは試験の出し方に関係があったのではないかと思っている。
日本と、欧米での大学での学び方の相違について個人の意見を述べさせていただき、明日からの職業人としての勉強のしかたの一助となればと思う。
講演は、学生時代は水泳部の部活などで勉強は遅れ、最後の猛ダッシュで国家試験に間に合わせたことから話が始まった。日本で当たり前の受験勉強の方法では、日本式の試験で良い点を取ることは出来るが、欧米の試験問題の出し方は違うため、日本の勉強法は評価されない。その点を指して清田先生は、「日本の勉強法では知識は身につくが、知恵は身につかない」というような表現をされた。
日本では受験勉強の際に、コンパクトにまとめられた資料を記憶することが多くなる。それに対して欧米では、試験に答えるためには参考資料として示された本を読んできていることが前提となっていたり、その知識を自分なりに整理していることが求められたりする。
また、日本では講義の最中などにその流れを止めるような質問をすることは憚られるが、米国では自分にわからないところがあったら躊躇なく手を挙げて質問し、聞かれた側も「なんだよ流れを止めて」などと思わずそれに答える。しかも大したことない質問でも「excellent!」とか「good question!」などと言ってから回答する。これがアングロサクソンの学習態度、学習習慣だということも言われていた。
ものごとの表面、浅いところを広く学ぶだけでなく、その大元を探るような勉強のしかたは大切だということを言われていた。その一つの例として、「ダーウィンに消された男」という話を題材に出されていた。進化論といえばダーウィンだが、実は共同発表者として昆虫学者のウォレスという人がいて、その人の方が進化論の根幹に関する論文を書いたのに、巧みな操作で多くの手柄がダーウィンのものになった、という話(勝手に要約しました)だ。
このことを白日の下にさらしたのは、アーノルド・ブラックマンという人であるが、この人がダーウィンの進化論を探るうちに、当時の学会議事録などからウォレスの業績が表舞台から消える顛末を探り当ててしまったらしい。しかも進化論の発表から100年ほどたってからのことだ。このことを例に「大元を探る努力」は大切であると、清田先生は話をされた。
講演終了後は質疑応答の時間。
質問)文献検索の良い方法は?
回答)一般的な文献検索システムで絞り込んでいく方法が「王道」だと思う。自分もそうして文献を集めている。「魂のある文献検索」が重要。(←このへんは話を聞いていないとわかりにくいですね)
質問)初期研修医は文献検索をしないで指導医に聞けといわれるが、3年目からのことを考えると少しはできた方が良いのではないかと思う。
回答)「まず俺に聞け」と言える指導医はかっこいい。それはそれでいいのではないかと思う。
当院佐藤泰吾医師)自分がそういうスタイルで指導を受けてきたので、当院ではそれを踏襲している。

最後に清田先生はこのように
(画像をクリックすると拡大されますが、見えにくいかも)図を書き「学習曲線というのがあり、同じように努力を続けていてもどんどん成果が上がる時期と、スランプに陥る時期がある。スランプの時に努力をやめてしまう人が多いが、努力を続けることによってまた次の収穫が多い時期がやってくるので、諦めずに頑張ってほしい」ということを言われた。
当院研修担当の一人、佐藤泰吾医師は清田先生をお呼びした経緯について「諏訪中央病院の臨床研修体制も新しい制度になって5年目。これからの諏訪中央病院のためにも、新しい風を入れていくべき時だと考えた。それには清田先生が適任だと思った」と言われていた。
諏訪中央病院の臨床研修は、このように新しい試みもどんどん取り入れつつ、日常診療では各個人の実力もしっかり身につくような体制を取り続けることが出来るように、院内の医局以外の部署も協力して取り組んでいます。信州の片田舎ではありますが、これから初期・後期研修を受ける予定の方々、選択肢の一つとして考えてみるのも悪くないと思いますよ。