週明けの東京市場は年初来最安値となったが、ニューヨークダウ平均株価はついに1万ドルを割り込んだ。株価は目に見える動きで実体経済の指標となるが、震源地の米金融証券市場はもっと激しく収縮している。当分見通しは暗いかも。
記事は次のとおり。長め。
信用不安の連鎖断ち切れず NYダウ4年ぶり1万ドル割れ
10月7日1時8分配信【産経新聞】
【ワシントン=渡辺浩生】ニューヨーク株式市場のダウ工業30種平均が4年ぶりに1万ドルを割り込んだのは、米国発の金融危機が欧州に上陸し、信用不安の波が世界にドミノ式に広がっていることに一層の危機感が高まっているからだ。先週成立した金融安定化法の即効性に早くも疑問が浮上しており、負の連鎖を早急に断ち切るために、欧米日の主要国が協調した緊急対応策を打ち出すことが求められている。
ブッシュ大統領の金融市場作業部会は1万ドル割れの直前、声明を発表して、世界の市場と金融機関に広がる混乱について「米国と世界各国の当局者による協調した力強い政策対応が必要」と訴えた。
米政府は最大7000億ドル(約75兆円)を投入して金融機関から不良資産を買い取る安定化策の実施に向けて、週末返上で作業を進めた。しかし、資産評価の民間専門家の雇用や入札形式の具体的な買い取りの詰めなどの調整作業がなお必要で、開始までに「数週間かかる」(関係筋)とみられている。
米政府・議会で金融安定化法に関して2週間も費やして審議している間に、ウォール街発の金融危機は欧州に上陸。欧州の銀行間資金取引の金利は急伸し、システミックリスク(金融機関の連鎖破(は)綻(たん)の危険)の高まりと預金者の不安が急速に広がっている。
市場は米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)など各国中央銀行による資金供給拡大でなんとか息をつないでいるのが実情だ。しかし、欧州諸国の危機対応も足並みがそろわず、欧州で深まった信用不安がアジア、米国へ再上陸する悪循環に陥っている。新興国市場にも動揺は波及している。
米国内では市場にお金が回らない信用収縮がすでに実体経済をジワジワむしばんでおり、大企業から中小企業まで資金繰りが悪化して、雇用削減の嵐が全米で吹いている。年末に向けて米国のリセッション(景気後退)入りの可能性は一段と高まってきた。
米金融安定化法は「金融危機の根源である住宅市場の落ちこみと金融機関の資本不足に直接対処するものではない」(エコノミスト)という評価が多く、効果に限界があるのは明白。米国内では、実体経済に即効性のある追加策を求める声も上っているが、米政府・議会は金融安定化策成立を受けて11月4日の大統領選に向けた政治的空白期に入ってしまう。
ワシントンで10日に先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が開かれるものの、具体的な処方箋(せん)を示すのは困難との見方が支配的だ。世界恐慌の恐怖に、後手に回る主要国への不信感が不安心理をあおっている。
(記事ここまで)
米国が独自の理論で作ったサブプライムローンなどのおかしな仕組みが崩れて、世界は莫大な損失を被っている。この先、大型倒産が続けばCDSという火薬庫に飛び火することは避けられず、その損失はさらに何倍にも膨らむ可能性が残っている。金融安定化に向けて日本銀行や各国中央銀行は驚くほどたくさんの資金を市場に供給し続けているが、安定する前に資金が底をついたらその先はあるのだろうか。
今後先進各国は、「いつ米国と自国経済を切り離すか」を考え始めた方がいいのではないか。米国経済は巨大であるが、その巨大さゆえに今倒れられたら巻き添えの大きさも世界を揺るがす。しかし幸いなことに、米国経済はものすごい勢いでしぼみつつある。ある程度までしぼんだら値頃感が出て、米国を買う投資家も出てくるだろうが、実体経済の弱さと借金の多さから考えて、買い時はまだまだ先と考える。
バブルが一気に崩壊しないで、コントロールしながらしぼませていくことができるように、今は各国中央銀行も米国政府もお金を注ぎ込まないわけにはいかない時期ではある。しかしその一方で日本は、日本銀行の資金が底をついてしまわないうちに、日本一国でもそれなりに経済が成り立つ「独立国」になる準備を、並行して進めた方がいいと思う。
もちろん、それは簡単ではない。資源はないし、食糧自給率もカロリーベースで4割だし、外国にものを買ってもらわないと成り立たない経済構造であるなど、完全な自立は無理だろう。しかし国内の経済構造を変えていくことによって、日本は貧乏ながらもそれなりにほぼ自立できる実力はあるのではないかと思う。その準備を怠れば、米国崩壊に巻き込まれて日本も倒れる。
日本の弱点をカバーする作戦が必要である。資源のある国とは、仲良くしておかなければならない。食糧自給率も高める努力をしなければならない。日本の製造業はそれなりの実力があるはずだが、外国が買ってくれる財力がなくなれば、国内消費分だけを作る規模に縮小しなければならない。それだけだと経済は縮小する一方であるが、その分を社会保障分野の規模拡大で補うことができるのではないかと思う。
日本の社会保障費が世界的に見て安いのは、国が全部値段を決めているというのが一つの理由である。その中で、製薬会社などには一定の利益が出るような値段設定をしているため、医療現場の利益や人件費は極端に少なくなっている。最近フジテレビで黒岩アナウンサーが「潰れる公立病院は潰してしまえ」などと言っていたが、最大限の経営努力をしていても状況が恵まれていない病院が大赤字になるのは、極端に安い値段設定が一番の原因である。
介護職に若い人が定着しないのも、極端に安い介護報酬が原因である。かつてコムスンの折口会長は「ビジネスとして介護サービスが成り立つようにしなければ、明るい高齢社会は実現しない」と言っていたが、激安報酬のもとでビジネスとして成り立つには規模の原理だけでは無理だったようで、法を犯すことになり結局退場させられた。介護の現場は、ボランティア精神の強い人ばかりが残って働いている。
社会保障分野の経済規模はできるだけ絞り込んだ方が良いと、日本人は20年以上にわたり思い込まされ続けてきた。経済規模を絞り込むということは、活動の規模も絞り込むということである。米国ではこれまで、かなりの社会保障活動がボランティアによっておこなわれてきた。日本もそれができるはずと思った人がいるのかもしれないが、米国の大規模なボランティア活動の陰には、大金持ちの資金援助があった。その土壌がないのに日本でボランティア活動に期待するのは無理がある。
医療や介護などの社会保障分野で働く人には、それなりの報酬を支払うことを、日本人の常識にしていく方がいいと思う。それなしには社会保障分野の拡充は望めないが、それができれば社会保障分野で働いて報酬を得ることが、経済活動になる。その規模が拡大していけば、経済を活性化させる原動力になる。日本の経済構造は、社会保障分野も重要な柱と考える形にシフトしていくべきだ。
その形にシフトするためには、財源は必要である。医療職や介護職が働けばどこからかお金が湧いてくるわけではなく、それを支払うためのお金のプールが必要になる。それは税金になるのか、保険になるのか、それ以外の財源になるのかわからないが、これまで散々ケチってきた経済界は、もうちょっと出してもいいんじゃないか。そうしなければ、日本の経済規模をそれなりに保つことは難しい時代に入るのではないか。
2月にも
書いたが、米GMの車一台の値段には約1500ドルの従業員や家族への社会保障費(医療保険など)が含まれている。それに比べるとトヨタなどでは1台あたりGM車の10分の1以下らしい。半年以上たったので今は多少変わっているかもしれないが、日本の製造業の競争力の大きさは、社会保障分野の犠牲の上に成り立っている部分もあるといえる。経済界の体力も十分な余力があるとはいえないかもしれないが、社会保障にも重心を置くべきタイミングになってきていると考える。
米国は壮大なバブルだったことが判明し、ユーロバブルも化けの皮が剥がれつつあり、ロシアの経済も不安定、中国もバブル崩壊の真っ最中、中東のオイルマネーは宙をさまよっている、韓国は大企業への一極集中で国としては資金がショートしかかっている。その中で日本は、バブルの痛手があったために比較的堅実な資金運用をし、実体経済も製造業もそれなりの力を保っている。
米国に巻き込まれて共倒れする運命を選ぶのではなく、日本は日本として自立できるような道を選んでほしい。舵取りを誤ると、日本はただ金を出しただけで、大損して終わってしまう。かといって「これからの世界は日本が牛耳る」みたいな作戦に出れば、90年代のバブル崩壊と同様の現象にまた遭遇する危険がある。米国とは一定の距離を置き、必要があれば米国を切るぐらいの覚悟がないと、これからの世界では生き残れない。