
午後5時45分から諏訪中央病院講義室に於いて「がん患者さんの話を聞く」勉強会が開かれました。現在治療中の患者さんお二人にお越しいただき、忌憚ないご意見を交えて、話をしていただきました。
会場には医師・看護師を中心に40名以上の職員が集まり、熱心に話を聞きました。今回は初めての試みでもあり、取材などは呼ばずにセミクローズド(院内のみ公開)でおこないました。定期的におこなっている「化学療法の勉強会」の一環です。
患者さんの一人目は、乳がんの女性。この方は現在、諏訪中央病院の通院治療センター(外来で化学療法をする部門)と緩和ケア外来に通っている。住んでいるのは隣の医療圏で、何回も「茅野や諏訪など諏訪中央病院の近くに住んでいる人がうらやましい」と言われていた。
「インターネット上などで探しても、抗がん剤治療の専門医は長野県内には「いない」ということになっていて、適切な主治医が見つけられない。専門医を増やすことも頑張ってほしいし、適切な情報提供をしてほしい」と言われていた。専門医の問題については、学会同士でゴタゴタしていたことや、がん治療認定医制度が動き始めたばかりという問題もあり、これから急速に進むだろう。
私はこの方の緩和ケア医として、痛みの治療は今は何もしていない。何をしているかというと、定期的な外来と、心が行き詰まったときのメール相談などをしている。共同通信から配信された「さよならのプリズム」という記事にも、やりとりの一部が紹介されており、今回はその記事のコピーも配布された。
やや緊張している感じも受けたが、いつも以上に「伝えたい」という気持ちが伝わってくる話しぶりだった。
二人目は喉頭がんの男性。大学病院で診断を受け、喉頭全摘の手術方針とされた。喉頭全摘というのは、のどを全部取ってしまう手術で、気管の出口はのどの前面に新たに作られるので、声が出なくなる。コミュニケーションが取りにくくなってしまうことと、手術後の患者さんから筆談で「手術をするなら死んだ方がまし」という意見などを聞き、手術しないという選択をした。
その選択をした患者さんに対して、病院は「好きにすれば」という態度で、それからどうすればいいかは自分で調べ、考えなければならなかった。調べて、喉頭温存療法をしてくれる静岡がんセンターを見つけ、化学療法+放射線治療を受けた。治療は非常に厳しく、死んだ方がましと思うこともあった。
肝臓に転移が見つかり、非常に大きなショックを受けた。まず手術をしたが、再発。その後ラジオ波療法などもするが、ふたたび大きくなり、車で静岡がんセンターに行くのを続けることは難しいと考えた。
具合が悪かったとき、諏訪中央病院にかかった。大きな病院はみんな「紹介状がなければお断り」という時代に、初めて行ったのにすぐ受け入れてくれ、静岡がんセンターにもすぐに問い合わせをしてくれた。
諏訪中央病院で山下部長の化学療法を受けている。山下部長は親切で行動力があり理想の医師だと尊敬している。3週間ほど前に新しい抗がん剤治療のために入院したが、治療後ひどい口内炎となり、また死んだ方がましと思った。しかし適切なケアで改善し、退院してからは今日の話の準備を一生懸命やってきた。
というわけで、パワーポイントのスライドと、感じたこと気付いたことなどを箇条書きにした資料、さらに製造業の経験を活かした「このようにしたら良いのではないか」というさまざまな提言など、盛り沢山のプレゼンテーションをしていただいた。
お二人とも、病気を抱えて大変なことがいろいろありながら、諏訪中央病院のために本当に一生懸命話をして下さった。かかわっている病院職員はみんなこの人たちが好きだし、この人たちは諏訪中央病院のことが好きだという、当たり前だが非常にいい関係にあるように思う。
聞いていた職員からも、終了後「いい会だった」という感想がたくさん聞かれた。より良い病院に育っていくために、投書や感謝のお手紙などでは得られない、貴重なヒントをたくさんいただいた。
地域の中でがん医療を適切におこなうためには、どんな時でも頼ることができる病院である必要がある。諏訪中央病院はがん診療連携拠点病院ではないが、可能な範囲でこれからも、地域の人に「諏訪中央病院があって良かった」と言ってもらえる医療を続けていきたいと思う。