策定にかかわった人だけがそれなりに評価している平成20年4月の診療報酬改定だが、日本医療法人協会の豊田会長は「良かったという人はいないのではないか」と総評している。
記事は次のとおり。
今回の診療報酬改定「よかった人いない」
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/15106.html
2008年3月14日【CBニュース】
日本医療法人協会の豊田堯(たかし)会長は3月14日の代議員会・総会のあいさつで、薬価を除く本体部分が8年ぶりに引き上げられる4月の診療報酬改定について「これでよかったという人はいないのではないか」と述べ、今回の引き上げ幅では病院医療の窮状を解消するには不十分との認識を示した。
豊田会長は、今回の診療報酬改定について「長年続いた(本体部分の)マイナス改定が下げ止まり、0.38%とわずかだがプラスになった」、「医療関係者に経緯がよく見える形で改定が行われた」と一定の評価を示した。
ただ、本体部分の引き上げが0.38%(医科はプラス0.42%)にとどまった点は「形だけはメリハリがついたが、実質的には今回の改定でよかったという人はいないのではないか」と述べた。その上で、良質な医療の提供にはどれだけの財源が必要なのかを明らかにした上で、それを確保していくことが不可欠との見方を示した。
また、本格的な制度運用が4月から始まる社会医療法人については「(改正医療法の成立から)1年9か月が経ってようやくアウトラインが決まった。実際に動き出すまでにあと2週間程度しかないところで政省令と告示のパブリックコメントを募集したり、ばたばたしている」と厚労省の段取りに苦言を呈した。
いったん社会医療法人の認定を受けた後、取り消しになった場合の税制面の取扱いなど、いまだに不明確な部分があることも不安視した。
(記事ここまで)
中央社会保険医療協議会(中医協)の議論の過程は、ネット時代になったこともあって以前に比べると広く公表されるようになったが、議論の不十分さを世に知らしめることにもなった。何パーセント上げるか下げるかという議論にあれだけの時間を費やして、具体的な細かい点数の上げ下げは、会議ではほとんど議論されない。
細かい項目の総和がプラス0.38%(診療報酬本体部分)になるようにするなんて、ものすごく複雑な計算が必要なのではないかと思うが、なんとか方式という名前は聞いたことがあるが、本当にきちんと検証されて個々の項目の診療報酬が決定されているのかどうか、非常に怪しいと感じている。
昨年12月に、神奈川県保険医協会は、これまでの診療報酬改定率よりも、医療機関の収入が低く抑えられていたという分析結果を公表した(その時の当ブログ記事は→
こちら)。診療報酬改定率なんて、実際には決めた数字のとおりにはならないものなのである。それなら、低めに数字を設定しておいて、でも医療機関が苦しくならないような個々の診療報酬を設定することも可能なのではないか。
今回の診療報酬設定も、これまでと同じことをやって収入が減るものが、ざっと見渡しただけでもいくつか見つかる。たとえば、

これは心臓の超音波検査(心エコー)に関する項目である。これまで心筋や弁の動きを見る基本検査に加えて「ドップラー検査」という血流を見る検査をおこなった場合には、200点(2000円)の加算がついていた。今回「ドップラーは当たり前になったので加算は終了」ということになったが、ではその分が検査料に含まれることになったかどうか見てみると、100点しか増えていない(780点→880点、Mモードのみが400点→500点。経食道エコーは今まで安すぎたので、800点→1500点という大幅値上げになったことは評価する)。今時心臓の超音波検査でドップラーを使わないことなど考えられないから、実質的には検査料1回あたり1000円の強制値下げである。
今回の改定は「病院勤務医を救うために病院に手厚く」と表向きは言っていたが、主に病院でおこなわれる心エコーがこれだ。何度も書いているように、本体部分0.38%のプラスというのは、昨今の光熱費の高騰だけでも実質マイナスになってしまう程度の数字である。今までのたび重なるマイナスの解消にはほど遠く、病院を「手厚く葬る」ための改定になってしまうのではないかと懸念している。
今後2年間この診療報酬を適用すれば、多くの病院の赤字が膨らむ。さらに、地方自治体が抱える公立病院の赤字が自治体会計と一体で計算されるようになるため、自治体が倒産しないためには病院を切らざるを得ないところもたくさん出そうだ。「弱いところが倒れるのは予定通り」と考える人もいるかもしれないが、病院がなくなった地域の人々がどれだけ不安になるか、どれだけの地域を廃墟に追い込むか、空恐ろしいものがある。
厚生労働省は、最近の「何をやっても不十分」な仕事ぶりを、わざとやっているのだろうか。そうでないなら、医療現場と同じく厚生労働省も絶対的な人手不足と予算不足なのではないか。人手はいても人材不足、予算はあっても配分が不適切という可能性もあるが。「構造改革」というとどこでも予算を削ることを意味していた時代もあったが、今の国の仕組みから厚生労働省がちゃんとしてくれないと医療は立ち直れないのだから、偉い人がちゃんと仕事をする厚生労働省を組み立て直して欲しい。間に合わない気はするが。