昨日(7月1日)夜のフジテレビ系報道番組「プレミアA」で、医療費不払いのことが取り上げられていた。3年間で全国の未払い総額は853億円にもなっているとのことだ。
給食費や保育園の保育費を払わない親が増えていることが話題になっているが、医療費の不払いも無視できない問題になってきている。番組では公立昭和病院(東京都小平市)の例を取り上げていた。
公立昭和病院には、未払いの医療費を回収する専任の職員がいる。電話で支払いの催促をしたり、自宅へ出向いてお願いをしたりしていた。中には架空の住所で登録して医療を受けている人もいて、行ってみたら催促のしようもなかったり、1万円だけ払って後は音信不通になる人がいたり。
顔をぼかして声も加工して、画面に出てきた未払いの人がいた。4年前の出産費用を踏み倒し続けているという。払わないことに何だかんだと理由をつけて言い訳していたが、どれも身勝手な言い訳にしか聞こえなかった。特に出産は、一時金が健康保険組合などから出るのが一般的だから、それを使い込んでしまわなければ出産費用が支払えないはずはない。
医療を受ければ医療費がかかるのは当たり前だ。医療はボランティアではないし、日本は医療の全額が税金でまかなわれる国ではない。医療費がかかることがわかっていて医療を受けておきながら、その支払いを踏み倒すというのは、詐欺である。
公立昭和病院では、この専任職員の活躍で1ヵ月に約350万ほど回収できたらしい。しかし人一人の人件費を考えたら、それほどお得な仕事ではないと思う。「公立昭和病院は医療費不払いを許しません」というアピールにはなるかもしれないが。
独立行政法人福祉医療機構(WAM)が3月に出したまとめによると、一般病院の2005年度の医業利益率は1.2%で過去最低だそうだ。ここ数年は2.5%程度で推移していたが、2005年度は一気に悪化し1.2%になり、診療報酬が大幅に引き下げられた2006年度はさらに悪化していると見られている。このような状況で、全国の医療費未払いが3年で853億円というのは、病院によっては死活問題になっている。
番組のコメントで「医療機関を守るためにも、きちんと支払っている人の医療を守るためにも、医療費を支払わない人は医療を受けられないように考えても良いのではないか」というものがあった。それができれば病院の苦労もずいぶん少なくなるのだが、実はそれをしてはいけないことになっている。
医師には診療を求められたら正当な理由なくそれを断ってはならない「応召義務」というものがある。それによると、次のような理由で断ってはいけないことになっている。
1.医療費が未払い
2.患者の病気が専門外である
3.勤務時間外である
4.天候が荒れている(不可能な場合を除く)
5.特定の人を診る医師(企業内診療所など)
6.満床
患者に不利益がないようにという通達であるが、現在の医療情勢でこれを全部守っていたら、医師には基本的人権が認められないことになる。これは昭和24年に出された通達であるが、現在でも生きている。
ちなみに、断ることに合理性が認められるのは、
1.単独医師の医療機関で他患を診察中
2.医師が酩酊(無医村ではそれでも診ろ)
3.医師が重病
4.患者が酩酊
5.医師が不在
などである。これに加えて地域の中でその日に別の当番医がいる場合は、そちらを紹介しても構わないことになっている。しかし「それでもどうしても」といわれた場合は断ってはいけない。
これらによって患者は医療を受ける権利を保障されている。医師は自由や権利を制限されている。番組中の「医療費を(支払えるのに)支払わない人は医療を受ける権利を制限されることもやむを得ないのではないか」という発言は、この昭和24年の通達が時代の流れに合わなくなってきていることの証左ではないだろうか。
この国の医療行政は、昔言ったことに縛られすぎている。しかも十分に練られた発言ならともかく、当時の責任者が思いつきで出してしまったような通達にも振り回され続けている。時代の変化や情勢の変化に合わせて前言を撤回するダイナミックさを、「これからの」厚生労働省には期待したい。