日本が医師不足だということは、政府と厚生労働省以外にはよく知られるようになってきたが、このまま進むと主要国中では「世界一医師が少ない国」になるという予測が示された。
記事は次のとおり。
<医師人口比>日本、20年に最下位へ OECD30カ国中
5月28日 毎日新聞
人口1000人当たりの日本の医師数が、2020年には経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国中最下位に転落する恐れがあることが、近藤克則・日本福祉大教授(社会疫学)の試算で分かった。より下位の韓国など3カ国の増加率が日本を大きく上回るためだ。日本各地で深刻化する医師不足について、国は「医師の地域偏在が原因で、全体としては足りている」との姿勢だが、国際水準から懸け離れた医師数の少なさが浮かんだ。
OECDによると、診療に従事する03年の日本の医師数(診療医師数)は人口1000人あたり2人。OECD平均の2.9人に遠く及ばず、加盟国中27位の少なさで、▽韓国1.6人▽メキシコ1.5人▽トルコ1.4人――の3カ国を上回っているにすぎない。
一方、診療医師数の年平均増加率(90〜03年)はメキシコ3.2%、トルコ3.5%、韓国は5.5%に達する。日本は1.26%と大幅に低く、OECD各国中でも最低レベルにとどまる。各国とも医療の高度化や高齢化に対応して医師数を伸ばしているが、日本は「医師が過剰になる」として、養成数を抑制する政策を続けているためだ。
近藤教授は、現状の増加率が続くと仮定し、人口1000人あたりの診療医師数の変化を試算した。09年に韓国に抜かれ、19年にメキシコ、20年にはトルコにも抜かれるとの結果になった。30年には韓国6.79人、メキシコ3.51人、トルコ3.54人になるが、日本は2.80人で、20年以上たっても現在のOECD平均にすら届かない。
近藤教授は「OECDは『医療費を低く抑えると、医療の質の低下を招き、人材確保も困難になる』と指摘している。政府は医療費を抑えるため、医師数を抑え続けてきたが、もう限界だ。少ない医師数でやれるというなら、根拠や戦略を示すべきだ」と批判している。【鯨岡秀紀】
(記事ここまで)
韓国がこのままの医師数増加率で進むとは思わないが、日本と肩を並べる高齢化の急速な進展に備えて「今医者を増やさなければならない」という判断を国がしている。「医療費亡国論」の呪縛から逃れられずに、お茶を濁す程度の政策発表しかしない日本に比べて、100倍くらいまともだ。ここで比較されている3国を差別するわけではないが、医療レベルから考えても日本がこれらの国と最下位を争う事態は異常である。
日本はなぜ、医師数も医療費も抑えよう抑えようとしているのだろう。米国のように国内総生産(GDP)の15%も医療費に使っている国が抑えようと言うならわかる。しかし日本は1980年代から「抑えろ」と言い続けて、今のところ医療費抑制には世界一成功している。日本の医療費はGDPの8%を超えたぐらいで、先進国中では最下位である。経費をとことんまで抑え込もうとすれば、どんな産業だって潰れる。現状ですでに、押さえ付けていい限界を越えているように感じる。実際に日本中のあちこちで十分な医療を受けられなくなってきている。
今のところまだ、医学部には優秀な学生が集まってきている。今なら医学部の定員をしばらく5割増にしても、粗製濫造にはならないと思う。しかし今の政策を続けていくのであれば、医師の未来には展望がないと見切った優秀な学生は医学部を受験しなくなり、医学部には入ったけれど卒業できなかったり国家試験に受からなかったりという学生が増え、レベルの低い学部になっていくだろう。教育費をいくらかけても国家試験を通らないのでは医師数は増えない。
政府・与党は
医師養成数を少しだけ増やす方針を発表したが、各大学の医学部定員を5人ずつ増やしても、医師の増加率は毎年約0.14%上乗せになるだけだ。医師不足地域の10大学を10人ずつ増やす分を足しても、0.175%程度の寄与率にしかならない(上の推計では1.26%が1.435%になる程度)。他の国の増加率に比べて、いかに本気度の足りない、選挙対策の意見表明かということが見て取れる。
「実現すれば医師不足は間違いなく解消する」というたわごとは、実際の数字と比較すると「詐欺」に近い。
貿易や製造業などの業績は国際情勢によっても大きく影響を受ける。それに比べると、高齢者の数や要介護者の割合、有病率などのデータは、比較的予想通りに推移する。そこに対して適正な規模の経済を割り当てることは、国の経済の安定にも必ず寄与するはずだ。「社会保障は経済のお荷物だ」という考えが安倍内閣の信条のようだが、その根拠が何なのか理解に苦しむ。
日本を動かしている人たちに言いたい。
今ならまだ間に合うかもしれない。医療費亡国論を捨てよう。医療や福祉が健全な社会保障の一つとして重視され、経済の重要な一部分として機能できるような、適正な医療福祉規模を設定し直そう。医師数と医療費は二回りぐらい一気に増やさないと駄目かもしれず、それには思い切った施策と支出が必要かもしれない。しかしそれをせずに、OECD最下位を争うような医師数と医療費で、世界第2位の経済大国に見合った医療をやれと無理強いしても続くわけがない。