米製薬大手ファイザーが、新型コロナウイルス感染症治療薬パクスロビドで良好な成績を出したと報告した。
記事は次のとおり。
ファイザーの飲み薬、重症化9割減…オミクロンにも有効な可能性
2021年12月15日【読売新聞】
【ワシントン=船越翔】米製薬大手ファイザーは14日、新型コロナウイルス感染症を治療する経口薬(飲み薬)パクスロビドによって、重症化しやすい患者の入院や死亡のリスクが89%減ったとする臨床試験の最終結果を公表した。新たな変異株「オミクロン株」にも有効な可能性があるという。
アルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)は声明で、飲み薬は「パンデミック(世界的な大流行)の収束に欠かせない重要な手段になると確信している」と強調した。ファイザーは先月16日に米食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可を申請している。
米メルク社が開発した飲み薬モルヌピラビルは、11月に英国で使用が承認されたほか、FDAの諮問委員会も緊急使用を認める勧告を出しており、FDAが近く承認の可否を判断する見通しだ。メルクの日本法人MSDも厚生労働省に製造販売承認を申請している。
米ジョンズ・ホプキンス大の集計によると、新型コロナによる米国の累計死者数は14日、80万人を突破した。累計感染者数は約5020万人で、死者数とともに国別で世界最多となっており、服用しやすい飲み薬の普及が求められている。
(記事ここまで)
報告された成績が実力を正しく示しているとすれば、新型コロナウイルス感染症治療の「本命」が出てきたと評価して良いと思う。これまで新型コロナウイルス感染症治療に使われてきた薬にはレムデシビル、デキサメサゾン、バリシチニブなどがあるが、いずれも「使わないよりは良い」「入院期間が何日か短縮される」というくらいの評価だった。交代カクテル薬のロナプリーブも2021年7月から使えるようになって重症化の抑制に効果が出ているようだが、注射薬であるというのがやや使いにくい。
その他の薬は、たとえばファビピラビル(アビガン)は軽快までの日数は短縮されるという成績を示したけれどまだ治験中、イベルメクチンはさまざまな報告を総合すると最初に言われていたような「劇的な効果」は少なくともなさそう、当初は有効と言われていた吸入ステロイド剤も実力とリスクを考えると強い推奨にはならないなど、新型コロナウイルス感染症を「怖くない病気」にする薬は、現時点ではまだ現れていないと評価している。
今回発表された薬「パクスロビド」は、ファイザーの新たな抗ウイルス剤(PF-07321332)と抗HIV薬リトナビルを配合した飲み薬だ。重症化しやすく死亡率も高い高齢者などを対象とした試験結果で、発症3日以内に内服した人で入院や死亡のリスクが89%減少したと報告している。他にもメルクや塩野義が内服治療薬を出そうと頑張っているが、パクスロビドに匹敵するような成績が出せるかどうか。
パクスロビドの実力が本物だとすれば、もともと若い人は死亡率が高くない(とはいってもインフルエンザよりは高く、後遺症が長く続く人もいるので甘く見ることはできないが)ので、リスクのある人を飲み薬で救えるとなれば、新型コロナウイルス感染症は一気に「怖くない病気」になってくる。
オミクロン株が「怖くない新型コロナウイルス」なのではないかという噂もあるが、そう判断するにはまだ情報が足りない。もしオミクロン株が「ものすごくうつりやすくて死んだり重症化したりしない」新型コロナウイルスなら、みんなでかかれば免疫ができて他の変異株にもある程度通用するだろうから、弱毒化ワクチンと同じようなのが勝手に次から次へとうつってくれることになり、いってみれば「ワクチンみたいなウイルス」になる。期待はしているが、そううまくはいかないだろうなあ。
ちなみに「弱毒のウイルスが感染の主流になって、これまでのいろいろなパンデミックは収束に向かった」と書いている記事を見かけたが、それは正しくないと思う。スペイン風邪は1918年〜1920年に世界で大流行し、当時の人口約19億人のうち5〜6億人が感染して死者数は2000万人〜1億人以上と言われている。しかし2009年の新型インフルエンザ流行時に超高齢者の死亡が少なかったのはスペイン風邪の抗体が有効だったという説が正しければ、当時の人は実はほぼ全員感染していて、死ななかった人が2009年の新型インフルエンザに抵抗できたのだろうと思う。今回の新型コロナウイルスは、現時点で世界の感染者数(漏れている人はもちろんいるだろうが)が2億7千万人ほど。感染していない人の方が圧倒的に多い。
ちなみに、「これだけの人しか感染してなくて、これだけの人しか死んでいない病気に、こんなに対策をするのはおかしい」みたいなことを堂々と公言している人がよくいるけれど、何を言ってるんだろうと思う。怖がらずにウイルスのなすがままになっていたら、今みたいに平穏な生活は送れていないし、ワクチンも間に合わなかっただろう。怖がって対策をして、時間稼ぎをしているうちにワクチンも打てたし、今回のような薬もできてきたことで、スペイン風邪より圧倒的に少ない被害でなんとかなりそうというストーリーで「これで良かった」と考えるのが正しい捉え方だと思う。
SARSやMERSが収まったのは、全く別のパターンだ。SARSやMERSでは発症すると高熱が出て具合が悪くなり、発熱のチェックで感染者を特定しやすく、封じ込めることが可能だった。そのため、感染した人の死亡率は高かったが、多くの人に感染する事態にはならなかった。新型コロナウイルスは症状が出始める2日前ぐらいからウイルスを排出したり、無症状や軽症の人も多いために気付いた時には多くの人にうつっていて、リスクの高い人は亡くなった。スパイク蛋白の変異と本体部分の弱毒化は別物なので、弱毒化していることに期待するのはもう少し待った方がいい気がする。
というわけで、現時点ではパクスロビドへの期待は私の中ではかなり大きい。どれくらい作りやすい薬なのかはわからないが、ここまでワクチンで経済的余力がたくさんになったであろうファイザーが、良心的な価格で市場に出してくれること、それと長期的に副作用が出てこないこと、触れ込み通りの実力を発揮してくれることを期待する。
↓下のメアド欄はセキュリティが低そうなので、書かない方が無難です↓