
8月21日の日本経済新聞。一面の新聞名の横に「iPS 次は血液」という3面の記事の案内と写真が載っている。そこに写っているのは、京都大学iPS細胞研究所の江藤浩之教授。
記事は次のとおり。(ここは京都新聞から)
iPSから血小板、輸血へ臨床申請 再生不良性貧血患者に
2018年8月19日23:18配信【京都新聞】
ヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った血小板を血液の難病患者に輸血する臨床研究について、京都大が実施承認を求めて厚生労働省に申請したことが19日、関係者への取材で分かった。拒絶反応を起こしやすく輸血できない患者に対し、患者から作ったiPS細胞を用いる。学内での審査は既に終え、厚労省に承認されれば臨床研究を始める。
対象となるのは、血小板などが減少し出血しやすくなる難病「再生不良性貧血」のうち、拒絶反応を起こしやすく他人からの輸血ができないタイプの患者1人。患者由来のiPS細胞からできた血小板を輸血することで、拒絶反応を抑えつつ症状を改善させる狙いがある。iPS細胞からできた血小板が正常に働くかなど、安全性と有効性を確認する。
iPS細胞から血小板を作る研究は、京大iPS細胞研究所の江藤浩之教授らが実施。マウスを使った実験などから、臨床に必要な品質の血小板を大量に作製する技術を確立していた。
iPS細胞を使った再生医療の臨床研究は、目の病気「加齢黄斑変性」の患者への移植が既に行われている。
(記事ここまで)

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このブログでは、江藤浩之教授の業績を
2011年12月から時々拾っている。血小板を作ることはだいぶ前に成功しているが、良い血小板を大量に、しかも安価に作るのはとても大変なんだろうなと思っていた。今回ついに臨床試験にこぎつけたが、費用の点ではまだ一般の血小板輸血に取って代わるまでには時間がかかりそうだ。
現在は献血に頼っている血小板輸血が、iPS細胞を用いて安全にできるようになったらいいなと、血液内科医を長いことやっていた私は切実に感じる。血小板は寿命の短い細胞で、赤血球輸血と違って保存がきかない。そのため輸血用の血小板の確保は大変苦労している。中でもHLA型を合わせた輸血が必要な人のための血小板製剤は、献血できる人が限られるためその人の都合も合わせてもらう必要がある。血液センターでは大変な苦労をする場合がある。iPS細胞から安定して血小板が作れれば、その苦労がなくなる。
日経の記事の中には「品質の悪い細胞が紛れ込む可能性がある。研究チームは移植前に放射線をあてることで取り除く方針だ。」と書いてあって、放射線なんて当てて大丈夫かと心配する人がいるかもしれないが、これは大丈夫。放射線を当てることによって細胞分裂を止めて、輸血された人の身体の中で勝手に増殖しない処置は、普通の輸血全てに基本的におこなわれている。放射性物質を混ぜるわけではないので残留放射能もあるはずがない。
世界最先端と思われる江藤教授のところでも、工夫に工夫を重ねてようやくここまで来た、という印象なのかなと思う。障壁はたくさんあって、実用化まではさらにいくつかの障壁があるのだろうと思うが、是非未来の患者さんたちのために頑張って成し遂げてほしい。
ちなみに前にも書いたが、江藤浩之教授は大学の同期生で、オーケストラでも一緒で、しかも今私が働いているのが長野市なので、長野高校出身の共通の知り合いも多い。そんな身近な人がこんなに大きなニュースソースに(しかもいい記事で)なっているなんて、自分がちょっと偉くなったような勘違いをしそうだ。
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