「横倉日本医師会長、働き方改革から医師を外せと要望」
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日本医師会の横倉義武会長は、政府が進めている「働き方改革」の中の時間外労働時間の問題について、「そもそも医師の労働を労働基準法で規律することが妥当なのか」と記者会見で述べた。医者は過労死もやむなしという人が、日本医師会のトップとは。
ニュースは次のとおり。
医師の残業規制妥当か議論を 日本医師会会長
2017年3月29日 20時30分【NHKニュース】
日本医師会の横倉会長は、時間外労働の上限規制をめぐって、医師は、患者から診察などを求められた場合に正当な理由なく拒むことができない義務があるなどとして、規制の対象とすることが妥当かも含め、抜本的に議論すべきだという考えを示しました。
政府は、29日の働き方改革実現会議で、長時間労働の是正などに向けた実行計画を取りまとめ、医師に関しては、時間外労働の規制の対象とするものの、特殊性を踏まえた対応が必要だとして、2年後までをめどに規制の在り方を検討するとしています。
これについて、日本医師会の横倉会長は、記者会見で、「そもそも医師の勤務を労働基準法で規律することが妥当なのかも抜本的に考えたい。正直に言って、医師が労働者かと言われると違和感がある。勤務時間の規制に抵触しようと目の前の患者を救ってほしいというのは多くの国民や医療関係者の声だ」と述べました。
そのうえで、横倉会長は、医師には患者から診察などを求められた場合に正当な理由なく拒むことができない「応召義務」があることなどを踏まえ、規制の対象とすることが妥当かも含めて、抜本的に議論すべきだという考えを示しました。
(ニュースここまで)
「応召義務があるから、医師の労働は労働基準法にそぐわない」というなら、その矛盾の解消を立法機関に求めていくのが筋というものだろう。日本の医師は日本医師会の奴隷ではない。勤務医の多くは脱法的に長時間労働を強いられているし、開業医は自営業者であるからその網に引っかからないだけで、命を削って患者に奉仕することを求められている。この状況を「続けていくべきだ」と考える人が日本医師会長だとは、なんともはや。
勤務医の時間外労働に関しては、労働基準監督署の指導が入る例も増えてきているが、抜本的な改善には誰も手を付けていない。「休みの時間に働いた」時間外労働は、それなりに時間外手当が払われるようになってきたらしいし、違反が見つかった病院に未払いの賃金を支払うよう指導が出されたりしている。そんなことは当然だが、全国の病院で続いている脱法的な労基法違反は、改善の芽が出たかなと思ってもその後が続かない。
脱法的な労基法違反というのは、「当直」「日直」である。法の上では「宿日直」として定義されており、労働基準法の例外的な扱いになっている。どのように例外的かというと、「宿日直の時間は労働時間に含めない」「賃金も普通に働いた日の三分の一以上あれば良い」という例外である。ただし「じゃあ宿日直にすればいいや」と青天井に働かせられたのでは勤務医がみんな過労死してしまうので、そうならないような「規定」がある。
大前提として、労働基準監督署に届け出て「宿日直許可」を受けることが定められている。宿日直許可を得ていない医療機関が宿日直扱いで医師を働かせるのは違法である。宿日直許可を得るためには、その時間帯に当直や日直をする医師は「ほとんど働かなくて良い」状態であることを届け出る必要がある。
具体的にどれくらい働いていいかというと、たとえば平成14年11月18日に厚生労働省労働基準局監督課長から出された通達(基監発第 1128001 号)を見ると、月に何日実労働があるかによって時間が変わってくるのだが、
「1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が16日以上である場合において、自主点検表4(6)の救急患者の対応に要した時間が最も多い日について勤務医及び看護師ともに1時間以内のもの」となっている。この救急患者というのは、院内の急変対応も含む。
「全く働かなくて良い当直」の日数が月の半分以上なければ、「救急患者に医療行為を行った日数が16日以上」になる。その場合は、「一番長く働いた日が1時間以内」でないといけないのである。つまり、基本的に「寝当直」と呼ばれるような「まず呼ばれることはない」当直の病院でなければ、宿日直許可は下りないはず。…はず。夜間の救急を受け入れることにしているような病院は、この規定を守ることなどできるはずがない。
ところが救命救急センターのような24時間体制で交替制勤務を敷いている病院を除けば、ほとんどの病院は「昔取った宿日直許可」で当直を続けているか、虚偽の報告をして当直を続けている。ずいぶん前に働いていた病院(どこだか忘れた)でそこをどうしているのか事務職員に聞いてみたところ、素直に「医師は十分仮眠が取れています」と報告していると教えてくれた。フラフラになって働いていた頃の話。
他の病院で「原則論から言ったら、医師の当直は労働基準法違反」と言ったら、「違反なんてしていません!」と真顔で反論されたこともあった。そうか労基法違反という認識すらされていないのかと思ったが、お給料もらっている身でいざこざを起こすと家計が苦しくなるので、そうですかと答えて引き下がった。勤務医が当直をしているのは、本来は「何かあったときのため」で、「働くため」であってはいけないのだが、その認識は医師を含めてほとんどの人に欠けている。
一方の開業医。一つの診療所に複数の医師が勤めているところは少なく、ほとんどは医師が一人の診療所である。国は高齢者に「かかりつけ医」を持つよう薦め、在宅を診る診療所医師は24時間対応するよう求め、医師法第19条には「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と書かれている。この通りに働けば、週に168時間身柄を拘束されていることになる。
団塊の世代が高齢者と呼ばれる年齢ゾーンに入り、日本はこれから「多死社会」へ驀進する。これまで終末期医療の主な場所だった病院は、終末期医療にお金がかかることと、十分長生きした高齢者の看取りに向かない環境であるなどの理由でベッドを増やさない方針が示されており、増える死亡者を看取る場所は、自宅や高齢者向けの施設などがどんどん増えることになる。そこを担うのも、主に開業医である。
開業医は自分が事業主で管理職であるため、深夜割増賃金と年次有給休暇の規定を除き、働き方は労働基準法に縛られない。しかしだからといって、平均年齢が約60歳の開業医が、求めに応じて深夜にも休日にも働くべきだとは思わない。国が求める医療が現場の医師に過重な負担をかけるのであれば、そうならないように医師を守るのが、働き方改革の求める方向性なのではないか。
患者が求める診療に医師が応えきれないのであれば、過重労働しなくても済む社会習慣や体制を求めるべきだと思う。具体的には、夜間に息を引き取っても医師を呼ぶのは夜が明けてからにするとか、看取りをする医師を当番制にして集約化するとか、医師以外でも死亡確認ができるようにするとか。
ところが横倉義武日本医師会長は、「正直に言って、医師が労働者かと言われると違和感がある。」と記者会見で述べた。労働者と思っていけなければ、何なんだろう。労働する人は、みんな労働者ではないのか。奉仕者だと考えるとしても、労働基準法の例外規定すらも超える働き方をする奉仕者が、良い奉仕ができるとは思えない。
「勤務時間の規定に抵触しようと目の前の患者を救ってほしいというのは多くの国民や医療関係者の声だ」というのは、私もそう思う。でも、その声に応えるためには医師が過労になることを厭わないかというと、そんなはずはない。医者だって自分のための時間は欲しいし、休む時間も欲しい。少なくとも睡眠時間は確保したい。楽なペースで働いている開業医もいるのだろうが、国や患者が求める医療を提供するには、今の人手と体制では不十分だと感じる。
ここ2か月の私で見ると、深夜(22時〜5時)に呼ばれてちゃんと寝られなかった夜が、少なく数えても16晩あった。それ以前にフルタイムで働いているし、持ち帰って時間外に積み上げている仕事もたくさんある。私は「こんな生活続けていたら早死にするんだろうな」とぼんやり覚悟してやってるけど、それをみんなに求めるべきではないと思うし、できたら早死にしたくないとも思っている。
どうか「働き方改革」に、医師も混ぜてもらえますように。医者は国の奴隷、国民の奴隷、日本医師会の奴隷だと考える人が、日本の医療行政に影響するようなことを言わなくなりますように。祈るしかないのかな。
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