2017年1月20日(現地時間)、米国の第45代大統領に、ドナルド・トランプ氏が就任した。
記事は次のとおり。
「米国第一」保護主義へ転換=温暖化対策、計画を撤廃―トランプ米新政権
【時事通信】2017年1月21日3:24配信
北米自由貿易協定(NAFTA)も再交渉を求め、参加国のカナダ、メキシコが応じなければ離脱する意向を示した。オバマ前政権が策定した地球温暖化対策の行動計画は撤廃する。「米国第一」を貫き、保護主義的な政策を辞さない構えだ。
基本政策としてホワイトハウスのホームページで公表した。通商戦略実行の「手始めとしてTPPから離脱する」と表明。既存協定についても米国の利益にかなわなければ再交渉する方針を示した。米国の戦略転換は、世界経済の成長を支える自由貿易体制に影響する恐れがある。
日米など12カ国が署名したTPPは、米国が批准しなければ発効しない仕組み。トランプ新政権の離脱表明により、現状の協定は発効のめどが立たなくなった。日本政府関係者は「引き続き米国に批准を働き掛ける」と語った。
トランプ氏は就任演説で通商、税、移民政策などを通じ、米国の利益を追求すると宣言。「(自国産業や雇用の)保護こそが素晴らしい繁栄と強さをもたらす」と訴えた。「米国製品の購入と米国人の雇用」を求めていく考えを強調した。
新政権は基本政策で「不公正貿易」に厳格な措置を講じる方針を発表した。雇用を今後10年間に2500万人増やし、4%の経済成長を取り戻す目標も掲げた。
環境・エネルギー分野では温暖化対策計画撤廃のほか、外国の石油に依存せず国内生産を拡大する方針を言明。シェールオイル・ガスの増産により、二酸化炭素(CO2)排出削減が大きく遅れそうだ。
(記事ここまで)
トランプ大統領は、アメリカ国民に希望を抱かせるような言葉をたくさん盛り込んだ就任演説をした。しかしトランプ氏が言っていることの中で、疑問に思うことはたくさんある。
米国内のインフラ整備をするというが、減税しながらどうやって財源を確保するのだろう。橋や道路、トンネル、空港、鉄道などを更新した方がいいのはわかっていてもできていないのは、財源がなかったからだ。どこから生み出すつもりなんだろう。埋蔵金とかあるとでも思っているのかな。国や地方自治体やFRBにあるのは借金ばっかりですってば。
ラストベルト(Rust belt=錆びついた工業地帯)を復活させるという。米国の自動車産業は、隆盛を極めたデトロイトあたりは廃墟が林立しているのが現状だが、それを一旦壊してから再生するのか。それとも捨てて新しい製造業の集積地を作るのだろうか。どちらにしても大きな投資が必要になる。そうやって製品ができても、人件費が安い他の国で作った製品とは価格で競争できないから、輸入品には高い関税を掛けて米国産を買わせるようにする。それは米国民にとって幸せなことなのだろうか。
そうなった時に、他の国は米国産のものを買うだろうか。日本だって、今までは外国産を買っていたけど、国産に戻せるものは国産にしようという流れになってこないだろうか。米国の製造業が衰退したのは、工場を国外に造ったからだとトランプ氏は言うが、米国の製品の魅力が他国製に追い抜かれたからという面を見落としてはいないだろうか。
「アメリカ・ファースト」を連呼していた。「米国のためになることを最優先する」という方針は、米国が米国だけで完結して存続できるなら、他の国に迷惑を掛けずにできるなら、やってもらっても良いと思う。しかし今はそんな時代ではない。一つの国で生きていける時代じゃないから、「グローバル化」なんていって米国主導で「貿易なしには生きられない世界」を作ったんでしょうが。それを今さら「アメリカ・ファースト」なんて言って、逆戻りさせられるわけがないでしょう。
演説の中でトランプ氏は、「私たちは米国の産業を犠牲にして、外国の産業を豊かにしてきた」「自分の軍を犠牲にして他の国の軍隊を守ってきた」「海外に何兆ドルも使って、自分の国の産業は衰退した」「他の国を豊かにするために、米国の富や強さや自信は消費された」と言っている。いやーそれは違うと思う。搾取された富の多くは、ごく一部の米国人の懐に流れ込んでいるのだよ。例えばこんなニュース。
世界人口の半分36億人分の総資産と同額の富、8人の富豪に集中
【AFP=時事】2017年1月16日(月) 13:01配信
貧困撲滅に取り組む国際NGO「オックスファム(Oxfam)」は16日、世界人口のうち所得の低い半分に相当する36億人の資産額と、世界で最も裕福な富豪8人の資産額が同じだとする報告書を発表し、格差が「社会を分断する脅威」となるレベルにまで拡大していると警鐘を鳴らした。
この報告書は、スイス・ダボス(Davos)で17日から世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)が開催されるのを前に発表されたもの。それによると、世界人口のうち所得の低い半数の人々の資産額の合計と同額の富が、米誌フォーブス(Forbes)の世界長者番付上位の米国人6人、スペイン人1人、メキシコ人1人の計8人に集中しているという。
(記事ここまで)
経済のグローバル化だとか、金融証券市場の自由化だとか、そういうのはほとんどが米英主導で進めてきたことだ。パナマ文書で話題になったタックスヘイブンだって、元はといえば英国や米国のお金持ちが、どうやったら国に吸い上げられずに、しかも違法でない方法でお金を持っておけるかを考えて編み出したものだ。違法じゃないといっても「脱法」的なものだから、「危険ドラッグ」みたいに言い換えたらいいんじゃないかと思う。
グローバル企業のやり方をトランプ氏が否定するのならば、今世紀に入ってから米国が得てきた利益のかなりの部分が、今後は得られなくなる。グローバル企業の製造方法は、米国内だけで完結させたら高コスト体質にならざるを得ないからだ。iPhoneにしろノートパソコンにしろ、あの値段で売れるのは、他の国に安く部品を作らせて、安く組み立てさせているからだ。今の米国には無理。
トランプ氏の経済政策(政策と言っていい段階になっているのか、よくわからないが)は、保護主義的なものが多い。これまでは米国が率先して「保護主義はいけない」「自由な貿易を」と言い続けてきたが、そう言い続けている手前、あまりあからさまな関税を掛けたりはできなかった。しかし日本に対しては、日米構造協議などの恫喝で「輸出の自主規制」を求めたり、自由と言いながら自由でない貿易を率先してやってきたのも米国だった。トランプ氏はそういう「建て前と本音」みたいなのが、嫌いなのかもしれない。
米国を第一に考えるのならば、保護主義に走るよりも、脱法的な方法で蓄財している人の資産を吐き出させればいいのではないか。もともと脱法的な稼ぎ方をしていた人たちが、自分達が儲けてもいい正当な理由として主張していた「トリクルダウン仮説」は、そういうものだったはずだ。貧困で社会が生きにくくなっているんだったら、使い切れない富を抱えている人は気前良く差し出すべきだ。
TPP離脱とかNAFTAの見直しなど、「自由貿易が正しい」というここ数十年の価値観(米国が唱えてきたやつだけどね)を、基本的に否定していく方針らしい。就任演説を聞いていると、自由貿易は米国が損をするばっかりだったから、これからは昔のような保護主義でやっていくんだと言っているように聞こえる。このへんは、トランプ氏の勘違いだ。自由貿易で米国は損をしていない。保護主義で米国が得られる利益より、自由貿易を捨てる損失の方が大きくなるだろうと思う。
国と国との関係については、トランプ氏は歴史や力関係などを十分把握していないのに、いろいろなところに口を出しているように見える。これはかなり危険なことで、米国という(腐っても)超大国の大統領は、国と国との力関係に影響するような発言は、絶対に間違いないというものだけにしておかないと、また米国が戦争の種を世界に撒き散らすことになる。
トランプ支持派と反対派で米国が二分されているというニュースがあったが、民主主義の権化のようなことを言っていて、その国が自国の選挙で選んじゃったんだから、その責任はトランプ反対派も飲み込んで、トランプ大統領の下で「希望を持てる世界」を作る努力をするしかしょうがないじゃないですか。トランプ大統領になって、時代は逆行しているような発言が次々出てきているが、だからといって大統領が暗殺される米国にだけは戻ってほしくないと思う。
さてここからの4年間、どんな世界になってしまうんでしょう。人の笑顔が消えてしまうような時代になりませんように。
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