現在発売中の週刊新潮9月24日特大号に「がんの死亡がゼロになる『超早期診断』の革命的最新診断」という特集記事がある。
9月2日に書いたのと重なるものもあるが、簡単にご紹介。詳しく知りたい方は、買って読んで下さい。
今回の特集は、138ページから5ページ。4つの「超早期発見」のための診断技術が紹介されている。
1.「マイクロRNA」
9月2日に行った勉強会でも講演があった、がん細胞が出す「マイクロRNA」を測定する検査が最初に紹介されている。すでに一部実用化されていること、現在は手遅れで見つかることが多い膵臓がんを完治可能な段階で見つけられる可能性が高いことなど、分析や展望も載せている。
2.唾液の「メタボローム解析」
メタボロームというのは、細胞が何らかの活動をした後に出てくる物質のことで、解析技術が飛躍的に高まりつつある。唾液でも検出できることがわかり、大腸がん、乳がん、膵臓がん、口腔がんのチェックで自費で2万円。保険適用を目指していると。
3.「テロメスキャン」
がんが「ある」ことがわかっても、どこにあるかがわからないと治療につながらず、不安が逆に大きくなりかねない。テロメスキャンは、これまでのPET検査の限界だった5mm以下の小さいがんを「見えるようにする」技術。ただし、蛍光タンパク質を利用して光る部分を検出するため、胃がんなどの「粘膜」のがんは見つけられるが、奥にあるがんも見つけられるとは書いていない。多分見つけられないだろう。「ノーベル賞技術」と書いてある(蛍光タンパク質を用いているというだけ)のと合わせて、私としてはちょっと期待はずれ。
4.「プロテオチップ」
血液中に「ヌクレオソーム」という物質があると光るバイオチップの話。昭和大学江東豊洲病院の医師と、神戸のバイオベンチャーが共同開発。胃がん、大腸がん、膵臓がんの3種類に関しては、直径0.1mm以下の「ステージ0」の段階で検出できるという。ただしまだ20例しか実績がないので、症例数を増やしてエビデンスを積み重ねたいとしている。
9月2日に聞いた話と合わせて、がんの超早期診断が、今後数年以内に「当たり前」になっていく流れなのだろう。みんな、他の技術よりも優位に立てるように、海外との開発競争に負けないように、夢を持って開発に当たっているように見える。
これらのうちのどれがメジャーな検査法になって、どれが研究開発の甲斐なく埋もれていくのかは、現時点ではなんともいえない。開発をしている人と利害関係を持たないどこかの誰かが全体の流れを作っていくか、圧倒的に強い技術が独り勝ちを収めるか。
現時点で、がんが「ある」ことを確かめる方法は、いくつも出てきそうな気がする。どの臓器のがんか、どれぐらい悪い性質を持ったがんかも、たとえばマイクロRNAなどでは簡単に割り出せそうだ。治療に関しても、これまでの外科的な治療、内視鏡治療、さらにはラジオ波治療やピンポイント放射線治療などで、微小ながんを撃退することは十分可能と思われる。
問題なのはその間をつなぐ「どこにがんがあるのか」を特定する検査が、まだ不十分な気がすることだ。PET検査では、以前「間もなく1mmくらいのがんも検出できるようになる」といわれていたが、まだ5mmぐらいが検出限界のままだ。PETに向かない内臓もある。最も解像度が高いCTは細胞単位で見えるというが、生きている人は動きがあるので難しいらしい。
そうはいっても、「この内臓に微小ながんがある」ことがわかれば、見つけられなかったらそれはまだ「超早期」であり、普通の「早期がん」になるまで待っても十分間に合う。見つけられる大きさになるまでその臓器だけを重点監視して、見つけたら速やかに治療をするようにすれば、命を取られることはない。そのような「待ち伏せ療法」が、今のPET検査を超える検査が出てくるまでは、がん診療の主流になるのではないだろうか。
もう一つの流れとしては、その「見つかる大きさになるまで待っている」のが耐えられない人のために、自費でやる(かどうかは国次第だけど)免疫治療なども流行るようになるかもしれない。免疫治療というと、医師の中でも高く評価している人は少ない。しかしがんをやっつける免疫の仕組みはかなり細かく解明されてきており、超早期のがんでは免疫によって撃退できる可能性も結構あるのではないかと考える。金儲けを目的にやっている免疫治療は大嫌いだが、きちんとした研究を積み重ねている免疫治療を超早期の人に適用したら、それなりに「がんが消える」人がいるのではないかと思う。消えたかどうかの判定も、マイクロRNAなどの「超早期診断」の方法がそのまま使える。
このように、超早期診断の実現は、これからのがん検診・がん治療を大きく変えていく可能性が高い。超早期でわかるということは、進行がんになるまでの時間も余裕があるということだ。手遅れにならないように打つ手があると広く知ってもらうことが、超早期診断で不安になる人を量産しないためには重要だろう。
医療側もそのような時代が来ると考えて準備していく必要があるし、求められる治療をなるべく低侵襲で遅滞なくおこなえるような人材の確保も必要になる。そうして本当に「がん死亡ゼロ」に近づくという結果が出た時には、「“がんもどき理論”なんてあったね。なつかしいね」という時代になるのかもしれないし、「手術が必要な患者さんが来るなんて、久しぶりだね」という時代も来るのかもしれない。
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