1日で3人の有名人の訃報が伝えられた。
青島幸男さん
(放送作家、俳優、参議院議員、東京都知事)
岸田今日子さん
(女優、「ムーミン」の声優、自由学園の先輩)
中島忠幸さん
(お笑いコンビ「カンニング」)
有名人の訃報が続くことはあったが、一日で3人の訃報というのは珍しい。
一応医者の書いているブログなので、病気について簡単にコメントしておくことにする。
<病名>
青島幸男さん:骨髄異形成症候群
岸田今日子さん:脳腫瘍
中島忠幸さん:急性リンパ性白血病
骨髄異形成症候群という病名は、聞き慣れない人も多いだろう。どういう病気かを説明するには、骨髄の働きを簡単に説明しないといけない。
ほとんどの骨の真ん中は空洞になっていて、そこに骨髄というものが詰まっている。骨髄では、血液の中に流れている赤血球・白血球・血小板という細胞が次々に産生されている。骨髄異形成症候群というのは、血液の細胞を作る骨髄の機能が低下してしまう病気の一種である。
骨髄を「血液細胞を作る工場」と考えると、骨髄異形成症候群はその工場の性能が落ちたような状態である。正常な骨髄では、血液細胞の原料を100とすると、そのほとんどが製品となって血液中に出荷される。骨髄異形成症候群では、材料が100あっても工場の性能が良くないため不良品ができてしまう。骨髄は不良品を出荷しないで処理する仕組みがあるため、血液中に出荷される血液細胞が不足してしまう。その結果として、赤血球が不足すると貧血、白血球が不足すると感染症、血小板が不足すると出血症状などが現れる。
ニュースではさかんに「骨髄異形成症候群で死亡」と言っているが、骨髄異形成症候群の人は世の中にたくさんいる。この伝え方はそのような人たちに「次は自分か」という恐怖感を与えるので好ましくないと思う。骨髄異形成症候群にはいくつか分類方法があって、無治療でもほとんど命にかかわらないタイプもあれば、治療が非常に難しいタイプもある。病名だけ伝えて、その中身を伝えないのは報道姿勢として無責任だ。(日刊スポーツの記事では幅広い概念の病気というようなことがちゃんと書いてあった)
岸田今日子さんは、脳腫瘍だったと報道されている。脳腫瘍には2種類ある。最初から脳にできる原発性脳腫瘍と、他の場所のがんが転移してきた転移性脳腫瘍だ。原発性脳腫瘍はがんなどの悪性疾患のうちではかなり少なく、亡くなる人で数えるとがん死亡数のうちの0.5パーセント程度に過ぎない。転移性脳腫瘍の方が多い(正確な数はわからないが)。ここからは推測になるが、脳腫瘍が亡くなった原因としても、他のところにできたがんの脳転移であった可能性の方が高い。脳転移するがんのうち一番多いのは、肺がんだ。ニュースを聞いた瞬間「肺がんの脳転移かなー」と思った。思っただけです。
カンニングの中島さんは、急性リンパ性白血病で亡くなった。いくつかの報道で「急性リンパ
球性白血病」と書いてあるが、普通は「球」はつけない。アンディ・フグなど有名人に「急性前骨髄球性白血病」が何人か続いたので「球」をつけるのが正しいと思い込んだのかもしれないが、急性前骨髄球性白血病は病気の細胞が「前骨髄球」という細胞の性質を持っているからそう名付けられているだけで、大きな分類では「骨髄性」と「リンパ性」であり、リンパ球性白血病というのはおかしい。急性リンパ性白血病は小児に多い病気で、小児の急性リンパ性白血病はかなり治癒率の高い病気になっている。対して成人の急性リンパ性白血病は急性骨髄性白血病に比べると少ないが、治癒率のなかなか上がらない疾患である。非常に強い抗がん剤の治療や骨髄移植がおこなわれるが、5年生存率は30%前後である。
骨髄異形成症候群は悪性疾患に分類していいかどうか微妙なところだが、脳腫瘍と急性リンパ性白血病は悪性疾患である。いわゆる「がん」の仲間だ。悪性疾患(統計上は「悪性新生物」という名前で分類)による死亡は日本全国で毎年32万人以上にのぼり、四半世紀後には55万人くらいになるだろうといわれている。
今も増えつつある「がんによる死亡」を、ただ悲しむだけで時がたてば忘れてしまうのではなく「このようなことは自分にも起こるかもしれない。その時には悔いのない病気との付き合い方をしたい」と考える方が、これからの日本の変化への対応としては前向きであると考える。
準備の一環として「がんになっても、あわてない」是非お役立てください。
話は変わるが、岸田今日子さんが出た中学高校は「自由学園」という東京都東久留米市にある学校だ。何を隠そう(隠してないが)、私もそこの中学と高校の出身である。自由といっても「自由の裏側には規律がある」など、自律と自立のための教育をかなりしっかりしてもらった。寮生活も含めた学園生活は、世に言う自由とはかなり異なり、どちらかというと厳しかった。受験勉強に役立つような授業はあまりなかったので、大学受験の前には大変苦労したが、他の学校では教えない、生きる力をつけるような、人間としての実力をつけるような教育は、日本の中でも指折りなのではないかと思っている。
自由学園出身の有名人がまた一人逝ってしまった。