2週間ちょっと前にこのブログでも取り上げた、多剤耐性遺伝子「NDM-1」を持つ細菌が、日本国内でも検出された。
記事は次のとおり。
新タイプの耐性菌検出、国内初=インドからの帰国者―獨協医大
9月6日(月)13時22分配信【時事通信】
抗生物質がほとんど効かなくなる遺伝子を持つ新たなタイプの耐性菌が、インドから帰国し獨協医科大学病院(栃木県壬生町)に入院していた患者から検出されていたことが6日、分かった。国内で見つかったのは初めて。患者は回復し、他の人への感染はなかった。
この耐性菌はインドやパキスタンで広がり、両国からの帰国者を中心に欧米でも増えており、国際研究チームが先月警告を発していた。
同病院によると、昨年5月、50代男性患者に発熱などの症状が出たため検査したところ、抗生物質が効かない大腸菌が検出された。詳しく調べた結果、「NDM―1」と呼ばれる遺伝子を持つ多剤耐性菌であることが分かった。男性は入院する直前にインドから帰国していた。
(記事ここまで)
NDM-1は現在のところ、大腸菌や肺炎桿菌などのグラム陰性桿菌から検出されている。獨協医大の会見では「感染対策を喚起した結果、院内感染の拡大は見られなかった」と発表している。この表現は、他の人に入り込んだ可能性を排除していない表現だと思った。
大腸菌は、誰の大腸の中にもいる。普通の大腸菌は大腸の中にいても、その人の体に悪さはしない。大腸菌と一口に言っても、それはたくさんの種類の菌の総称で、中には「O-157」など病気を引き起こす「病原性大腸菌」もいる。NDM-1はプラスミドにある遺伝子なので、病原性大腸菌にも入り込む可能性は高い。
獨協医大では「感染症としての拡大は見られなかった」が、他の人の身体に入り込んでいる可能性は否定できないと思う。患者さんと接触した可能性のあるすべての人の大腸菌を培養して、NDM-1を持つ大腸菌がいないことを確認したのならかなり安心できるが、そうは発表されていない(知る限りでは)。
大腸菌は普通は「いるだけ」なので、その中にNDM-1遺伝子が入り込んでいても、それだけでは何の騒ぎも起こらない。しかしそれが逆に怖いところで、適切な対策を取らないと、大腸菌全体の中でNDM-1遺伝子を持つ大腸菌の割合が知らぬ間に増えていることもあり得る。
NDM-1遺伝子を持つ大腸菌は、インドやパキスタンではかなりの保菌者がいると見られている。その原因として、インドでの「抗生物質の入手しやすさ」を挙げる人もいる。つまり、NDM-1を持つ大腸菌もそうでない大腸菌も持っている人が、ちょっと熱が出たときなどに安易に街の薬局で抗生物質を買って飲むと、大腸の中でNDM-1遺伝子を持たない大腸菌が減って、NDM-1の割合が増えているのではないかという指摘である。
日本では、黄色ブドウ球菌の中のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の割合が増えたときに「抗生物質の不適切な使いすぎ」が原因としてあげられ、安易な抗生剤投与は減ったような気もする。それでも風邪を引いたときなどに「念のために」抗生物質を飲むことは、まだかなりの割合でおこなわれている。医師の側が出す場合も、患者さんが求める場合も、いずれも少なくないと思っている。
NDM-1遺伝子を蔓延させないために、抗生物質の投与を積極的に控えることが役に立つのなら、そのようなデータを揃えた上で、医療関係者にも国民にも広く知らせた方がいいと思う。その際に、抗生物質を投与すれば助かる病態の人にも投与を控えるようなことになっては本末転倒なので、そうならないためのガイドラインも合わせて呈示する必要もあるが。
NDM-1が病原性の強い菌と合わさって、人類を脅かすようになってからでは遅いから。それが防げるものなのかどうかも、今の時点ではよくわからないが。
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