「中部6県で新型インフルワクチン29万回分余ってる」
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中部6県の医療機関だけで、29万回分の新型インフルエンザワクチンが余っており、すべて医療機関が損失をかぶらざるを得ない状況になっていることがわかった。
記事は次のとおり。
余るワクチン29万回分 全額医療機関の負担に
中日新聞 2010年4月25日 朝刊
http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2010042502000039.html
新型インフルエンザの沈静化で、中部6県(愛知、岐阜、三重、長野、福井、滋賀)の医療機関に29万回分(4億4000万円相当)ものワクチンが余っていることが、各県への取材で分かった。メキシコで新型インフルエンザによる死者が出ていると世界保健機関(WHO)が発表してから、24日で1年が経過。余剰ワクチンは返品できず、費用を全額負担しなければならないため、医療機関から悲鳴が上がっている。
「返品したいんですが…」。愛知県新型インフルエンザ対策室には3月下旬まで、医療機関からほぼ毎日、余剰ワクチンの返品を求める電話が相次いだ。
同県の担当者は「接種に協力的だった医療機関ほど、ワクチンが余った。何とかしてあげたいのだが…」と同情するが、打つ手がないのが現状だ。
厚生労働省によると、余剰ワクチンの86%を占める輸入ワクチンは解約や返品交渉をしているが、国産ワクチンのうち200万回分が医療機関の余剰在庫となっている。1回分約1500円の仕入れ費用は、全額が医療機関の負担となる。
名古屋市西区の名鉄病院は、同市の予防接種センターとして積極的に接種したが、1月以降は急激に減り、約500回分が余った。購入費は75万円。宮津光伸センター部長は(60)は「ちょっと多すぎる」と嘆いた。
22回分のワクチンが余った同市中区の開業医(51)も「半額でもいいから買い取ってほしい。これでは次に流行が来たときに、協力する医療機関がなくなってしまう」と憤る。
岐阜県では600回分の在庫を抱える診療所もあり、県医師会が今月、日本医師会に「早急に国としてワクチンの返品を受け付けるよう、強く働きかけをお願いする」とする要望書を提出した。厚労省は「当初から返品は受け付けないと示しており、次の流行の備えに使ってほしい」との姿勢を変えていない。
大部分を占める瓶タイプのワクチンは有効期限が1年あるが、注射器に入った0・5ミリリットルタイプは半年しか持たず、多くは5〜6月に使用期限を迎え、廃棄処分される。
国は次の流行期に向け、新型と、季節性のA香港型、B型の3タイプを組み合わせたワクチンを製造する方針を示しており、今秋にも完成すれば、新型だけのワクチンは需要が低くなる見通しだ。
(記事ここまで)
普通の商売だったら「需要の見通しを誤って発注した」ということで、発注責任者がお咎めを受けるところだろう。多くの医療機関では、診療所では医師、病院では薬剤部の責任者が発注するところが多いだろう。しかし今回はその人たちに損害の責任を負わせるのは酷だと思う。
こういうと「医者は経営感覚が甘い」とか「責任逃れだ」とか思う人も、いるかもしれない。しかし記事中にもあるように「ワクチン接種に協力的だった医療機関ほど、ワクチンが余った」のである。厚生労働省や保健所などが言ってきた「インフルエンザ対策」に素直に協力しようとした医療機関が、大きな損失を抱えることになった。
昨年10月に新型インフルエンザワクチンに関して「おかしいぞ」と思うことを、開業医の
多田智裕先生が書かれたものを紹介した。この中にもあるように、新型インフルエンザワクチンは季節性インフルエンザワクチンの1.5倍の価格で医療機関に売られ、医療機関はたくさん新型インフルワクチン接種をしても、ただ忙しさだけが増える状況だった。また希望するワクチン本数を伝えても、実際に届く本数は大きく減らされたりしたため、次は多めに希望数を出したら希望する全量が届いたりすることもあった。
営利企業であれば、これぐらいのことで経営が揺らがないくらいの余裕はあるだろう。しかし医療機関というのは「営利を目的にしてはならない」と医療法に定められている。診療報酬も、わずかに利益が出るギリギリ、あるいはよほどうまくやらないと赤字というレベルに設定されている。つまり、多くの医療機関には経営体力の余裕は、ほとんどない。
そこに「予定外の仕事」として降って湧いた新型インフルエンザ対策は、前述の多田先生も書かれているように、ほとんどが医療機関の負担を増やすようなやり方でおこなわれた。今までにない事態なのだから負担が増えるのは仕方がないが、頑張ろうとするほど損をするような「医療機関におんぶにだっこ」体制は、今後のことを考えるとまずいのではないかと思う。
今のトリインフルエンザの状況を見ていると、トリインフルエンザをベースとした「強烈な新型インフルエンザ」がヒトの間で流行するのは、そう遠くないと思う。その本当に強力な新型インフルエンザが来た時に「前回懲りたから、今回は協力しないで降りる」という医療機関が増えたら、日本のインフルエンザ対策は成立しないし、国民の不安や不満は非常に大きくなるだろう。
厚生労働省に「余ってるワクチン買い取って」といっても、買い取る予算は出てこないと思う。であるなら、「今回はどうしてこういう事態になったのか、次の新型が来た時にはどうするつもりなのか」を厚生労働省がよく考えて、考えた結果を医療機関にはっきり伝えるべきである。それと、インフルエンザ対策に協力しても、それで医療機関の経営が傾かなくても済むような予算措置は、どんな非常時であっても必ず取るべきである。
今後のインフルエンザをはじめとした感染症対策には、参加可能な医療機関すべてが賛同して参加することが前提条件である。「今度も前回と同じような状態だったらうちは潰れてしまう。今回は辞退する」とか「前回失敗したから、今回は大幅に控えてワクチンを注文」というような医療機関がたくさんあれば、対策は絵に描いた餅で終わってしまう。そうならないための身動きの良さを、これからの政治には期待する。期待しても無駄かもしれないが、期待する。
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