昨夜(というか今日になってから)、NNNドキュメント’06という番組で、産科医療の悲惨な実態がドキュメントされていた。産科が悲惨な状況になっていること、厚生労働省が有効な対応策を打ち出せていないことなど、一般の人にもとても良く実情がわかる構成になっていた。
番組の内容は、岐阜の大垣市民病院で頑張る産科医を中心に進められたが、全国各地の病院が産科の看板を次々に下ろしている実態や、福島県の大野病院で起きた事故なども交えて、中立な立場で、客観的に事実と状況を伝えようとしていた。基本的な姿勢として、誰かの味方をしようとか、誰かを貶めようという意図が無いように感じられ、そのことが逆に説得力を高めているように感じられた。
この番組はたまに見るような気がするが、今回の番組構成は対象を絞りすぎず、広げすぎず、ワンポイントエッセンスもところどころに挿入されていて、かなり出来の良い番組だったように思う。医療関係でない一般の人がこれを見たら、「お医者さんって、こんなに過酷な仕事をしてるんだ。優雅な世界じゃないんだね」と素直に思ってもらえるんじゃないだろうか。
残念なのは、放送時間が遅いことだ。CS放送(日テレニュース24)では9月30日24時から再放送をするらしいが、地上波では再放送がないのも残念だ。このような番組は、できるだけ多くの人に見てもらい、現状の問題点を認識して、医療者と医療を受ける側がお互いの立場を理解して、納得できる妥協点を探っていくきっかけにできるような時間帯に放送して欲しい。
厚生省から厚生労働省へと続く無策や愚策が現在の状況を招いたという趣旨の番組コメントも、「その通り!」と拍手したくなった。医療において何か良くない結果が生じれば、何でもかんでも医療従事者、特に医者に攻撃が加えられるのが昨今の流れになっている。番組では、福島県の大野病院の事例を引き、この時の主治医がマスコミのカメラに囲まれて逮捕されたことが、「危険を伴う医療行為から逃げ出したくなる医者の心理」を加速していると受け取れる構成になっていた。実際あの事例は、ギリギリのところで何とか踏みとどまって頑張っている医者のやる気を凍り付かせるのに、十分な効果があったと思う。
日本の医療政策は、何をやりたいのだろう。一度医療を完全な崩壊に導いて、それから再構築しようとでも考えているのだろうか。再構築については何も見えてこず、崩壊させようとあの手この手を繰り出しているようにしか見えない。しかし、一度医療が崩壊してしまうと、立て直すのは予想よりはるかに難しいことは、2000年以降の英国がお手本を示してくれている。崩壊させない方が余程無駄が少なくて済むし、崩壊している間に不幸せになる人が少なくて済む。
今回のような番組や新聞報道(9月19日の朝日新聞などもそう)がもっと多くされるようになれば、厚生労働省の政策も「医療崩壊へまっしぐら」では進められなくなるだろう。これまでマスコミは、どうも厚生労働省に苦言を呈することが少なく、逆におかしな政策のお先棒を担ぐような報道が多かった。今回のような番組が増え、よりバランスの取れた、みんなの幸福が最大になるような政策を、編み出していって欲しい。官僚には頭のいい人がたくさん集まっているはずなのだから。
(番組の内容については、下にある「ある産婦人科医のひとりごと」に、もう少し詳しく書かれています。トラックバックしていただきましたのでご覧下さい。下の「トラックバック( )」のところをクリックするとリンクが出てきます)