サイトウキネンオーケストラなどで有名な小澤征爾氏が、食道がんであることを自ら告白し、今年前半の全30公演をキャンセルして治療に専念すると公表した。
記事は次のとおり。
<小澤征爾>食道がんを告白 6月までの公演をキャンセル 「半年以内に戻ってくる」と
1月7日17時17分配信【毎日新聞】
世界的指揮者の小澤征爾さん(74)が7日、東京都内で会見を開き、食道がんの治療に専念するため、15日〜6月26日にウィーンと日本で予定していた全30公演をキャンセルすることを明らかにした。小澤さんは「年末に受けた人間ドックで食道がんが見つかりました。本当は今日、ウィーンにいなくてはいけない日。仲間、お客さんに迷惑をかけて申し訳ない。先生の言うことを聞いて半年以内に戻る」と語った。
公演キャンセルは同日午前、所属事務所が発表。小澤さんが自身の言葉で経緯を説明したいと主治医の岡田正人医師が同席して会見を開いた。岡田医師は「食道がんは大きさよりも深さ。(小澤さんは)非常に浅いところにある早期のもの」と説明。手術後に元の生活に戻るまで半年が必要という見通しで、来週の検査結果を待ち、治療計画を立てるという。
小澤さんは02年に日本人として初めて、ウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任。在任中は帯状疱疹(ほうしん)や、椎間板(ついかんばん)ヘルニアなどで活動を休止、公演をキャンセルしたことがあった。同劇場での任期は6月までで、6月26日の最終公演でタクトを振れず、任期を終えることについて「残念。でもひょっとしたら(完治して)振れるかも。あんまり言うと先生に怒られちゃうけど」と話していた。
小澤さんは7月以後のスケジュールについては「カーネギーホールなど、いろいろな計画がある」と病気を全く感じさせない口ぶりで、がん宣告についても「15年前に兄貴もなった。兄貴の伝統を受け継いでるのかな。飲んでも食っても平気なので全く自覚症状はない」と人ごとのように語り、「腰は痛いけど、そのうち治します。毎年、年末か年始に受けてる人間ドックに行かなければ、いまここにいない。みなさんも受けた方がいいですよ」と受診を勧めていた。
会見ではエッセイストで娘の征良さんと、息子で俳優の征悦さんから「新年早々、お騒がせして申し訳ありません。家族みんなで力を合わせて乗り越えたいと思っています」と連名でのコメントも発表された。【西村綾乃】
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小澤さんは記者会見で「人間ドックは毎年1回受けた方がいいです。飲んだり食べたり全く自覚症状がない。人間ドックを受けることをお勧めします」と言っていた。ドックを受けていなかったら、自覚症状が出るまで気付かず、完治が望めないところまで進んでから発見された可能性が高い。
主治医の岡田医師は
「食道がんは大きさよりも深さ。(小澤さんは)非常に浅いところにある早期のもの」と述べたと書いてある。しかし治療は手術が必要で、治療期間は半年ということだから、進行がんの可能性もあるのではないかと読みながら思った。
というのは、現在本当に浅いところ、つまり粘膜表面だけにとどまっていることがはっきりしている食道がんは、胃カメラ(内視鏡)で治療をすることが多くなっている。それで全部切り取れることや、手術に比べて治療後の回復が短期間で済むことなどが、内視鏡治療を選ぶ理由になる。
しかし食道がんは粘膜のすぐ下の粘膜下層というところに達すると、リンパ節転移の可能性が出てくる。内視鏡治療で食道粘膜のところにある病変は切り取れても、リンパ節転移は切り取れない。今回手術を選択することになるようなので、粘膜下層に達している可能性がある程度以上あると主治医は考えているのではないかと思う。
手術をすれば、リンパ節に転移しているかどうか確実に判定でき、完治の可能性がどれくらいあるか、その後どのような治療をどの程度までやるのがいいかが判定できる。しかしリンパ節転移があった場合、治療をして完治するかどうかは、できる限りの治療をした後、ある程度の時間が経つまでわからない。
なんにしても今すべきなのは、できるだけ早く正確に状況を判断し、これが一番良いと思われる治療を実行することである。それにより仕事に多大な影響が出るが、ここは仕事を優先して治療を遅らせるべき場面ではなく、今回の小澤さんの選択は正しい。
食道はのどと胃袋をつなぐ管なので、切ったらそのままにしておくわけにはいかない。切りっぱなしだとごはんの通り道がない。そのため、胃袋を管のように作り直してのどまで持ち上げてつなぐなどの方法が取られる。それをするためには、胸部だけでなく腹部ものども切らなければならない。つまり食道がんの手術は大変で、手術後の回復にも時間がかかることが少なくない。
進行がんだということがはっきりしていれば、化学療法と放射線治療が選ばれることが多い。今回手術を選択した(と確定したわけではないのかな?)というのは、もし進行がんだったとしてもかなり早い段階であり、手術が最も完治の確率が高いと見ているからではないかと思うが、術後の回復に時間がかかったりすれば現場への復帰も大変になる。
どうか治療が上手くいってその後の経過も上手くいって、またあのテレパシー能力があるとしか思えない人間離れした指揮をする姿を、早く見せてくれますように。