「がん・小児など国立6センター、医療政策“司令塔”に」
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厚生労働省は、国立がんセンターなど全国6か所の国立高度専門医療センター(ナショナルセンター)を、2010年度に独立行政法人化するのを機に、政策提言型の医療拠点とする改革案をまとめた。
先駆的な治療法を開発する従来の役割に加え、終末期、在宅医療など地域と連携した医療システム整備の推進役としての機能を強化する。センターを司令塔に、がん、心臓病、小児、高齢者医療などの政策を具体化させる狙いで、13日、6センター長を集め、課題の検討に入った。
がん、小児、高齢者医療などの中核機関である各センターは「病院機能は充実していても、病気の原因解明や治療法の実用化は苦手」「患者には『良い病院』の一つという印象しかない」などの問題が指摘されてきた。(記事ここまで。読売新聞9月13日)
(コメント)
国立がんセンターなどの病院は、高度な医療を提供する病院としての機能は優れている。一方、研究などはがんセンターより大学の方が多く行われている。そして医療政策に関しては、いろいろな諮問機関に意見を聞くことはあるものの、これまで厚生労働省が全てを掌握してきた。
日本の医療システムは、WHO(世界保健機関)が世界一と評価するように、全体としてはまずまずうまくできていると思う。しかし、これだけの高齢化社会になった日本で、先進国中では最少の医療費(GDP比)でなんとか医療を維持できているのは、奇跡に近い。ゆがみはあちこちに現れ始めている。
医療が破綻しないためには、さらなる効率化が必要である。どこの病院でもたくさんのメニューを用意している体制では、分野によっては効率が悪い。国が日本全国の2次医療圏に一つずつ「がん診療連携拠点病院」を置いて、地域のがん診療をそこに集約しようとしているのも、効率を高めることが目的の一つであろう。
私が従事している緩和ケア
(緩和ケアについてよくわからない方は「がん治療 痛み緩和 本腰」等このブログの他の記事も見てみて下さい)の分野に関しては、国立がんセンターが
終末期、在宅医療など地域と連携した医療システム整備の推進役としての機能を担うという文脈のようである。おそらく、「第3次対がん10カ年総合戦略」や「がん対策基本法」にある、さまざまな計画の中心となっていくということなのだろう。
現状では「がん診療連携拠点病院」に指定されている病院でも、緩和ケアチームがまだ信頼を得ていないところもある。拠点病院の主治医から「うちの病院の緩和ケアチームに任せるのはまだ心許ない」と、拠点病院以外の緩和ケアに患者さんが紹介されて来たりする。拠点病院に指定されるためには緩和ケアの機能があることが条件になっているが、チームが「ある」ことが求められているだけで、チームの実力や働きやすい環境の整備はこれからというところが多いようである(これは緩和ケアチームのメンバーになった人から直接聞いた言葉だ)。
2006年4月から、「在宅療養支援診療所」という制度も動き出した。名乗りを上げた診療所は全国で8000を超えるらしい。「24時間体制で看取りまでおこなうことができる」のが指定の要件となっている。実績を積み上げられないと在宅療養支援診療所の指定は取り消されるらしいので、数年たって残っていれば、それなりの実績のある在宅療養支援診療所ということになるだろう。ここでも、ある程度のレベルの緩和ケア知識や手技は必要とされる。
緩和ケアがあらゆる地域で求められ、それに医療が応えられるようになるためには、やらなければならないことがたくさんある。まず、地域の人たちに求められるようになるためには何が必要かを考えてみる。
一番大切なこととして、緩和ケアに対する意識を、利用者側も医療者側も変えていく必要がある。緩和ケアは一般に、「がん末期の人がかかる医療」と理解されている。がん末期という状況は、命の終わりを直感させる。これまでは緩和ケアを提供できる医療機関が少ないこともあり、いよいよ命が終わりに近づいた時に緩和ケアを受け始めることが多かった。そのため、緩和ケアは「できたらかかりたくない医療」というイメージが根付いてしまった。
2002年にWHOが発表した緩和ケアの新しい定義では「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に対して、疾患の早期より問題が起こらないようにしたり、起こったら適切に対処する、チームによるアプローチである」と書いてある。極端なことをいえば「がんと言われた。困った」だけでも、緩和ケアを受ける資格ができたといえる。
私が働いている諏訪中央病院では、2000年頃から「緩和ケアは、がんによって生じる不都合に可能な範囲で対応する医療である」と定義している。実際に、まったく症状がなくて医療的なことはほとんど必要ないが、何か病気による不都合出てきたら見てもらう関係を作っておくために来院する人も多いし、化学療法や内分泌療法などを受けながら、不都合に対してだけ緩和ケア外来にかかっている人もたくさんいる。
次にすべきこととして、緩和ケアに必要な知識や手法を、医療現場にできるだけ早く、十分に行き渡らせなければならない。がん診療連携拠点病院や在宅療養支援診療所に緩和ケアを求めても、不十分な緩和ケアしか提供できないのでは申し訳ない。計画はされているようだが、爆発的に知識や手法が広まるような手だてを考えていくべきではないかと考える。
国立がんセンター中央病院には、緩和ケア「病棟」はない。また、がんセンター東病院(千葉県柏市)には緩和ケア病棟があるが、患者背景が一般の病院とは異なっているものと思われる。つまり、がんセンターには「地域で必要とされるような」緩和ケアの経験が、若干不足しているのではないかという懸念がある。国立がんセンターが中心になって進めていくということなので、地域の事情も十分に配慮した計画を立てて、絵に描いた餅に終わらないような配慮を行わなければならない。
これまで実績と経験を積み重ねてきた全国の緩和ケア病棟には、かなりのノウハウがある。そのノウハウを活かさない手はないと思う。残念ながら、緩和ケア病棟を持っている病院でがん診療連携拠点病院に指定されるところは多くないと思われる。それだからこそこれまでの経験や知識など、さまざまな財産を持っている緩和ケア病棟が「でもやっぱり行きたくないところ」にならないように、既存の緩和ケア病棟もこのネットワークに上手に組み込んでほしい。新しい緩和ケアチームや在宅療養支援診療所と、以前からある緩和ケア病棟やチームが、お互い知恵と力を出し合って、地域に合ったネットワークを柔軟に作っていくことが大切だと考えている。
(正直言うと、諏訪中央病院もがん診療連携拠点病院になれないらしいので、この新しいネットワーク構想から仲間はずれにされてしまうのではないかと、ちょっと怖かったりするのも本音)