9月23日にMRICで配信された記事。在宅医療を担う車両への駐車禁止の取り締まりによって、国が進めたいといっているはずの在宅医療がとてもやりにくくなっているという話。
ここに書かれているのとそっくり同じようなことは、私のまわりでも起こっている。「駐禁除外指定車」の札は私も持っているが、それが効かない場合もあるというのは、初めて知った。
みんな迷惑にならないように最大限配慮して止めているはずと思うが、それでも捕まっている。駐禁取り締まりが在宅医療のやる気を大きく削いでいるのは事実で、何とかしてほしいと思うので転載。
記事は次のとおり。
長尾クリニック・院長(尼崎市)
阪神ホームホスピスを考える会・世話人
長尾和宏
2009年9月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
http://medg.jp
これからは政治主導
鮮度抜群の”産直ネタ”満載
読まなきゃ損する『ロハス・メディカルweb』
http://lohasmedical.jp
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周産期医療の崩壊をくい止める会より http://perinate.umin.jp/
緑虫との闘い
―「がん対策基本法」施策と矛盾する在宅車両の取り締まりへの提言―
長尾クリニック・院長(尼崎市)
阪神ホームホスピスを考える会・世話人
長尾和宏
【政権交代した今こそ矛盾の解決を】
人間復興か、はたまた医療費抑制政策か。おそらく両方の意味でしょう。国を挙げての在宅医療推進が謳われています。07年に制定された「がん対策基本法」では「がん患者の意向を踏まえ、住み慣れた自宅や地域での療養を可能とする」とし、「在宅での療養と看取り」を勧めています。しかし当院のような都市部では在宅車両を標的にした理不尽な駐車違反取り締まりが連日行われています。その結果、在宅医療の日常業務に支障をきたしスタッフのモチベーションを大きく損ねています。警察や行政関係各方面に働きかけても解決の糸口が見えず、大変困っています。
政権交代した今こそ、政治主導による縦割り行政の打破による問題解決を期待します。
【取り締まりの実態】
09年5月のGWの真最中、阪神間のある在宅医から嘆きのメールが流れました。在宅看取りのため緊急往診したわずか20分間にヤラレタ!と。駐車禁止除外票を提示して明らかに邪魔にならない場所に止めたが無駄だったそうです。在宅療養支援診療所は365日、24時間対応を義務付けられています。しかし休日返上で一生懸命に緊急対応した結果が犯罪者扱いなら、誰でも落ち込みます。
多くの人は、「たかが駐車違反だろう。駐禁除外票を提示して上手く停めればいいだけなのに何を大げさに」と思われるでしょう。しかし、「駐禁除外票より道路交通法が優先する」という原則のため駐禁除外票は、当院のような都市部では多くの場合、効力がありません。付近に駐車場があれば当然利用しますが近くに駐車場がない場合が多く、仕方なく迷惑にならない場所を探して、少し歩道に乗り上げたり、やや広い一方通行で左に民家の入口がある場合はしかたなく右側に駐車しますが、これらは全部アウトです。
私自身も毎日が、路上駐車取締員との追いかけっこです。緑色の制服を着て2人ひと組みで町中をウロウロしている彼らは通称「緑のおじさん」、ないし誰が名づけたのか「緑虫」と呼ばれています。路上で「緑虫」と口論になったり、取り締まりが気になって患者さんと十分に話せなかったり、運悪くたった5分で捕まって落ち込んだり、ショックで辞表を出す職員の対応に追われたり・・・。もはや「緑虫」抜きで日常が語れなくなってきました。
当院は複数医師で外来診療と並行して在宅医療を行う、いわゆるミックス型診療所です。
この2年半を振り返ってみて、当院の在宅医療車両の駐車違反摘発件数は恥ずかしながら
2007年 1件、2008年 5件、2009年 7件の、計13件、でした。
職種別では医師4件、訪問看護師7件、訪問リハビリ2件でした。違反事由としては、右側駐車3件 横断歩道付近1件 駐車場出入付近2件 消火栓付近1件、歩道乗り上げ2件 左側0.75m違反1件 その他3件でした。一番よく使う中古の軽車両は07年1件、08年2件、09年1件とすでに4回捕まり、地元警察署からリーチを宣告されています。
【緑虫が活躍する尼崎市南部の道路環境】
尼崎市南部の特に住宅地域の道路は狭い道や一方通行が多いのですが、そのエリアの在宅患者さんの急変や看取りなど緊急の訪問要請時には、規則に沿った駐車場所を自宅付近で探し出す時間的猶予がないのが現実です。自転車も多く使いますが多少距離があったり、点滴、栄養剤、医療器具などの荷物が多かったり、また雨天の時など自動車無しでの在宅医療は考えられません。
よく調べてみると当院は駐禁取締の最重点地域に位置していました。駐禁問題は知る範囲では阪神間や名古屋、横浜など中核〜100万都市に限られた問題のようです。超都心では駐車自体ができないし、逆に田舎では取り締まり自体が無用でしょう。尼崎市南部では規則に照らし合わせると、駐車禁止除外標章を受けても、その標章を活用できる場所は極めて少ないことに気がつきました。
往診代や交通費は実費請求が認められていますが、当院では駐車場代をはじめ交通費は頂いていません。医療費の支払いすら大変な方が大勢いる中、交通費の請求なぞ経済不況下では困難です。よく「ドライバーを雇って2人で往診せよ」とも言われますが、診療報酬に「ドライバー加算」を検討して頂けるのでしょうか?
【在宅スタッフのモチベーションの失墜】
在宅医療の主役は訪問看護師ですが、この世界に入って最初に出会うのが「緑虫の洗礼」です。さらに訪問看護師などの医療職にとどまらす、ケアマネージャー、訪問入浴業者、介護用ベッド搬入業者も容赦ない緑虫の洗礼を受けて、陰で泣いています。
緑虫はとても賢く人間的です。私たちの目と鼻の先に駐車している、その筋の(いわゆる暴力団)事務所周囲のエサ(駐車車両)には全く手をつけません。モメルからでしょう。だから駐禁除外票を提示している医療・福祉車両に的を絞って食い散らかしていきます。日々のノルマを手っとり早く上げるには、善良であることが保障された医療・福祉車両を食べるのが安全で最も効率がいいのです。緑虫にとってこんな美味しい餌はありません。「駐禁除外票を狙え!効率がいいぞ」という指示でも出ているのでしょうか。
この状況が続くと、在宅医療の阻害要因になると懸念します。当院でも、退職を願い出たり、まじめに仕事をしているのに駐車違反による減点で免許に傷がつき落ち込んで外来業務に異動させてほしいと願い出る看護師がいました。運営側としては、駐車取り締まりに関わる、膨大な事務作業(現場の確認、運転者からの事情聴取、弁明書の作成、違反金の手続き等)を強いられます。毎回弁明書を書きますが、違反が撤回されたことはありません。違反金はお金で解決可能ですが、失われた点数やゴールド免許の権利は回復できません。
【緑虫との闘いから見えてきたもの】
街中をウロウロしている緑虫に、美味しい餌を食べられないようにするには一体どうすればいいのでしょうか。この1年間、阪神間の在宅医療関係者の間の最大の興味は「緑虫対策」であり切実です。在宅医療に関して本来議論すべき話題より、たった5分で犯罪者に仕立てられないための目先の防衛策のほうが優先します。緑虫問題が解決しない限り、落ち着いて在宅患者さんに対応できません。在宅医療推進を謳う一方で、在宅関係車両を狙い撃ちする緑虫の取り締まりを黙認する国の姿勢は矛盾しています。
警察関係者と相談した結果、見えてきたものは、「警察と厚労省の横の連携が悪いこと」「現場の緑虫には裁量権が一切ないこと」などです。大げさに言えば、「縦割り行政」や「地方分権問題」にも行きつきます。現在、なぜか医師の駐車禁止除外票は、緊急往診に限られていて定期的な訪問診療には適応されません。緊急往診に限るのは現実的ではありません。さらに訪問看護や介護業者への駐禁除外票発行は、医師とはまた別の複雑怪奇な規則が定められ、またかなりの地域差があるようです。多職種連携を大前提とする在宅医療の現場を考えると、職種間格差を早急に是正する必要があります。「駐禁除外票」発行の基盤となる国の認識を、在宅医療の現状に呼応した形に再検討する必要があります。
【地域の実情に応じた緩和措置の提言】
以上が国を挙げて推進している在宅医療の知られざる側面です。09年4月、栃木県の在宅ホスピス医の署名活動により「在宅医療車両の緊急車両扱い」が法的に認められました。しかし阪神間の私たちが望むのは道交法優先の緩和措置です。駐禁問題は地域性が大きく関係するので、道路交通法44条、45条、47条の改定は難しいかもしれません。
しかし政治主導での、駐禁除外票の発行基準の職種によらない一元化と地域の実情と業務の公共性を勘案した「在宅関係車両の柔軟な取り扱い」の通達くらいは可能だと思います。例えば患家周辺の状況を勘案して30分〜1時間は道交法優先を免除して頂ければ大変助かります。このように市町村単位で地元警察と地元医師会との話し合いの場を持ち「地域の実情に応じた道交法優先の緩和措置」を是非、施行していただきたいと希望します。
(記事ここまで)