日本のH2Bロケットで打ち上げられた無人宇宙運搬船「HTV」が18日午前、慎重に国際宇宙ステーションに近づいて引き寄せられ、ドッキングに成功した。
記事は次のとおり。
無人補給機 HTVが国際宇宙ステーションとドッキング
9月18日8時12分配信【毎日新聞】
国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ日本の無人補給機「HTV」は18日午前、ISSとのドッキングを完了した。19日未明にISSの宇宙飛行士がHTV内に入る予定。ISSに日本の宇宙船がドッキングするのは初めて。HTVは来年にも予定される米スペースシャトルの退役後、ISSに大型機材を運べる唯一の補給機として期待されている。
HTVは18日午前1時38分、ISSの真下約500メートルに到着。地球の上空約345キロを秒速約7.7キロで飛ぶISSと、並行して飛ぶ状態になった。その後、少しずつ上昇して近づき、真下10メートルで見かけ上「停止」した。
午前4時40分、ISSがロボットアームを伸ばした。4時51分、アームがHTVをつかんだことを意味する「キャプチャー・コンプリート(捕捉完了)」を米航空宇宙局(NASA)が宣言。その後、伸びたアームが縮み、HTVはISSに引き寄せられた。午前7時26分、円筒形で金色の保護シートに覆われたHTVの底面が、ISSの外壁に取り付けられた。
午前10時49分、電気、通信系が接続されて結合が完了した。HTVの管制責任者を務める宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山中浩二フライトディレクターは「通常のドッキングと異なるキャプチャー(ロボットアームでつかんでの結合)という手法を成功させたことで、今後の宇宙開発の可能性が広がった」と意義を語った。
HTVは11日未明、新開発の国産大型ロケット「H2B」で種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられ、ISSを追いかける形で地球を周回していた。衣類、食料、ISS用の観測機器など4・5トンの積載物をISS内に運び込んだ後、ISS内の廃棄物などを積んで大気圏に再突入し、燃え尽きる。
JAXAは、現時点のISSの運用期限である15年までに年1回、計7機のHTVをH2Bで打ち上げる計画だ。【奥野敦史、高木昭午】
【ことば】HTV
国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ国産の無人補給機。全長約10メートル、直径4.4メートルの円筒形で、最大6トンの物資を積める。内部を1気圧、約20度に維持できる「与圧部」があり、将来の有人輸送機につながる性能を持つ。HTVの名は、日本の大型ロケット、H2シリーズの「トランスファー・ビークル」(輸送機)の頭文字が由来。
(記事ここまで)
今回のHTVの成功は、日本の宇宙技術に関して非常に大きな前進だといえる。
スペースシャトルは、2010で引退が決まっている。もともとスペースシャトルのあの形は、新幹線0系と同様「イメージ」先行のデザインであり、実用的には優れたものではなかった。
また、何回も往復するからコストや環境に与える影響も小さいと思われがちだが、1回ずつ使い捨てにするロケットの方が、コストも環境負荷も小さい。
なんでスペースシャトルの話をしたかというと、これまでISS(国際宇宙ステーション)への往復には、スペースシャトルが大変活躍していたが、その手段がなくなってしまう2010年後半以降は、人の移動はロシアのソユーズを使うとして、物の移動の手段が確立されていなかったからだ。
民間宇宙開発会社の参入がいくつか予定されているが、米国のスペースX社もオービタル・サイエンシズ社もまだ「開発中」であり、実績を上げたのはこのHTVが「初めて」である。実績を重ねられれば、日本の宇宙技術も再び「世界に参戦」することができる。是非、真面目な仕事で頑張ってほしい。
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ところで、国際宇宙ステーションというと、宇宙に「浮いている」イメージを持っている人が多いのではないかと思う。ところがこの記事の中では、「秒速約7.7キロメートルで飛ぶISS」と書いてある。「浮いてるんじゃなくて、そんなすごいスピードで『飛んで』るの?」と驚く人が、私のまわりにも何人かいた。
テレビカメラによる中継などを見れば、国際宇宙ステーションだけでなく、スペースシャトルの中でも、月に行く宇宙船の中でも、宇宙飛行士は無重力状態の中で過ごしている。だから「宇宙に出れば無重力なのだ」と信じている人が多いのだと思う。でもそれは間違いだ。
地球から月までの距離は、約38万km。その月が地球のまわりを1カ月に1回ぐらいのペースで回っても飛んでいってしまわないのは、地球の「引力」に引っ張られているからである。ISSの高さは、地表から「たったの」345km。月までの距離の1000分の1以下である。このわずかな高さで地球の重力から逃れられるはずはなく、十分重力圏内にある。
それでもなぜISSが落ちてこなくて、中が無重力状態になっているかというと、地球が引っ張る重力と、秒速7.7kmという「とんでもないスピード」で地球のまわりを回る遠心力とが、丁度釣り合っているからだ。何となく信じられない人もいるかもしれないが、遠心力が重力に勝つことができるのは、バケツに水を入れて振り回してもこぼれない例を見れば簡単に理解できる。
この高度になれば大気圏のはるか上なので、空気抵抗は無視することができる。空気抵抗がなければ、一度重力とバランスするスピードを得れば、遠心力と重力が釣り合っていつまでも「飛んで」いることができる。重力と遠心力が釣り合っていれば、その場所では「見かけ上」無重力になる。すべての人工衛星が飛んでいられるのも、同じ理由である。
これは3万6千kmという遠くを飛んでいる「静止衛星」でも同じで、3万6千kmという高さで飛んでいれば、地球の自転と一緒に約24時間で1周すれば地球の重力と釣り合うので、上空で「静止」しているように見えている。地球の自転と反対方向にこの高度で飛ぶと、1日2回のペースで地球を回るような人工衛星になる(地球が1回転する間に、衛星は反対回りで1回転)。
宇宙と無重力の関係について、何となくすっきりしなかったり間違った理解をしていた方がいれば、お役に立てたでしょうか。まだわからないところがあったら、追加で解説しますので、申し出て下さい。